銀河鉄道の夜 59
さっきの女の子や青年たちがその前の白い渚にまだひざまずいているのか、それともどこか方角もわからない、その天上へ行ったのか、ぼんやりして見分けられませんでした。
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問題文
(そのときすうっときりがはれかかりました。)
そのときすうっと霧がはれかかりました。
(どこかへいくかいどうらしく)
どこかへ行く街道らしく
(ちいさなでんとうのいちれつについたとおりがありました。)
小さな電燈の一列についた通りがありました。
(それはしばらくせんろにそってすすんでいました。)
それはしばらく線路にそって進んでいました。
(そしてふたりがそのあかしのまえをとおっていくときは、)
そしてふたりがそのあかしの前を通って行くときは、
(そのちいさなまめいろのひはちょうどあいさつでもするようにぽかっときえ、)
その小さな豆いろの火はちょうど挨拶でもするようにぽかっと消え、
(ふたりがすぎていくときまたつくのでした。)
ふたりが過ぎて行くときまた点くのでした。
(ふりかえってみるとさっきのじゅうじかはすっかりちいさくなってしまい、)
ふりかえって見るとさっきの十字架はすっかり小さくなってしまい、
(ほんとうにもうそのままむねにもつるされそうになり、)
ほんとうにもうそのまま胸にもつるされそうになり、
(さっきのおんなのこやせいねんたちが)
さっきの女の子や青年たちが
(そのまえのしろいなぎさにまだひざまずいているのか、)
その前の白い渚にまだひざまずいているのか、
(それともどこかほうがくもわからない、そのてんじょうへいったのか)
それともどこか方角もわからない、その天上へ行ったのか
(ぼんやりしてみわけられませんでした。)
ぼんやりして見分けられませんでした。
(じょばんにはああとふかくいきしました。)
ジョバンニはああと深く息しました。
(「かむぱねるら、またぼくたちふたりきりになったねえ、)
「カムパネルラ、またぼくたちふたりきりになったねえ、
(どこまでもどこまでもいっしょにいこう。)
どこまでもどこまでもいっしょに行こう。
(ぼくはもうあのさそりのように)
ぼくはもうあのさそりのように
(ほんとうにみんなのしあわせのためならば)
ほんとうにみんなのしあわせのためならば
(ぼくのからだなんかひゃっぺんやいてもかまわない。」)
ぼくのからだなんか百ぺん灼いてもかまわない。」
(「うん。ぼくだってそうだ。」)
「うん。ぼくだってそうだ。」
(かむぱねるらのめにはきれいななみだがうかんでいました。)
カムパネルラの目にはきれいな涙がうかんでいました。
(「けれどもほんとうのさいわいはいったいなんだろう。」)
「けれどもほんとうのさいわいは一体なんだろう。」
(じょばんにがいいました。)
ジョバンニがいいました。
(「ぼくわからない。」)
「ぼくわからない。」
(かむぱねるらがぼんやりいいました。)
カムパネルラがぼんやりいいました。
(「ぼくたちしっかりやろうねえ。」)
「ぼくたちしっかりやろうねえ。」
(じょばんにがむねいっぱいあたらしいちからがわくように)
ジョバンニが胸いっぱい新しい力が湧くように
(ふうといきをしながらいいました。)
ふうと息をしながらいいました。