魯迅 阿Q正伝その26

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(「むほんだぞ、むほんだぞ」)

「謀反だぞ、謀反だぞ」

(みしょうのひとはみなきょうくのめつきでかれをみた。)

未荘の人は皆恐懼の眼付で彼を見た。

(こういうふうなかれんなめつきは、あきゅうはいままでみたことがなかった。)

こういう風な可憐な眼付は、阿Qは今まで見たことがなかった。

(ちょっとみたばかりでかれはろくがつごおりをのんだようにせいせいした。)

ちょっと見たばかりで彼は六月氷を飲んだようにせいせいした。

(かれはいっそうげんきづいてあるきながらどなった。)

彼はいっそう元気づいて歩きながら怒鳴った。

(「よし、おれがやろうとおもえばやるだけのことだ。)

「よし、乃公がやろうと思えばやるだけの事だ。

(おれがきにいったやつはきにいったやつだ。)

乃公が気に入った奴は気に入った奴だ。

(たった、ぢゃんぢゃん。)

タッタ、ヂャンヂャン。

(こうかいするにはおよばねえ。ようてあやまりきるていていけんてい。)

後悔するには及ばねえ。酔うて錯り斬る鄭賢弟。

(こうかいするにはおよばねえ。)

後悔するには及ばねえ。

(やーやーやー、たった、ぢゃんぢゃん、どん、ぢゃらん、ぢゃん。)

ヤーヤーヤー、タッタ、ヂャンヂャン、ドン、ヂャラン、ヂャン。

(おれはてつのむちでてめえたちをたたきのめすぞ」)

乃公は鉄の鞭でてめえ達を叩きのめすぞ」

(ちょうけのふたりのだんなとほんけのふたりのおとこは、)

趙家の二人の旦那と本家の二人の男は、

(おもてもんのいりぐちにたってかくめいのことでだいろんぱんしていた。)

表門の入口に立って革命のことで大論判していた。

(あきゅうはそれにめもくれずあたまをもちゃげてまっすぐにすぎさった。)

阿Qはそれに目も呉れず頭をもちゃげてまっすぐに過ぎ去った。

(「どんどん」)

「ドンドン」

(「qさま」とちょうだんなはおずおずしながらこごえでかれをよびとめた。)

「Qさま」と趙太爺はおずおずしながら小声で彼を喚びとめた。

(「ぢゃんぢゃん」)

「ヂャンヂャン」

(あきゅうはかれのなまえのしたに、「さま」というじがつながってこようとは、)

阿Qは彼の名前の下に、「さま」という字が繋がって来ようとは、

(まさかおもいもよらなかった。)

まさか思いもよらなかった。

など

(これはそとのはなしでじぶんとかんけいがないとおもったから、)

これは外の話で自分と関係がないと思ったから、

(ただ「どんちゃん、どんちゃん、ぢゃらん、ぢゃんぢゃん」といっていた。)

ただ「ドンチャン、ドンチャン、ヂャラン、ヂャンヂャン」と言っていた。

(「qさん」)

「Qさん」

(「おもいきってやっつけろ」)

「思切ってやっつけろ」

(「あきゅう!」)

「阿Q!」

(しゅうさいはしかたなしにもとのとおりにそのなをよんだ。)

秀才は仕方なしにもとの通りにその名を喚んだ。

(あきゅうはようやくたちどまってくびをかしげてきいた。)

阿Qはようやく立ちどまって首をかしげて訊いた。

(「なんだね」)

「なんだね」

(「qさま、とうせつは」とちょうだんなはくちをきったが、いいだすことばもなかった。)

「Qさま、当節は」と趙太爺は口を切ったが、言い出す言葉もなかった。

(「とうせつは、すばらしいもんだね」)

「当節は、素晴らしいもんだね」

(「すばらしいと?あたりまえよ。なにをしようがおれのかってだ」)

「素晴らしいと? あたりまえよ。何をしようが乃公の勝手だ」

(「q、わしのようなびんぼうなかまはだいじょうぶだろうな」とちょうはくがんはこわごわきいた。)

「Q、わしのような貧乏仲間は大丈夫だろうな」と趙白眼はこわごわ訊いた。

(かくめいとうのくちぶりをさぐるつもりであったらしい。)

革命党の口振りを探るつもりであったらしい。

(「びんぼうなかま?てめえはおれよりきんがあるぞ」)

「貧乏仲間?てめえは乃公より金があるぞ」

(あきゅうはそういいながらすぐにたちさった。)

阿Qはそう言いながらすぐに立去った。

(みんなしおれかえってものもいわない。ちょうけのおやこはうちにはいってともしごろまでそうだんした。)

みんな萎れ返って物も言わない。趙家の親子は家に入って灯ごろまで相談した。

(ちょうはくがんもいえにかえるとすぐにこしのまわりのとうれんをほどいてにょうぼうにわたし、)

趙白眼も家いえに帰るとすぐに腰のまわりの搭連をほどいて女房に渡し、

(はこのなかにおさめた。)

箱の中に蔵めた。

(あきゅうはひととおりぶらぶらとびまわって)

阿Qは一通りぶらぶら飛び廻って

(おいなりさまにかえってくると、もうよいはさめてしまった。)

土穀祠に帰って来ると、もう酔いは醒めてしまった。

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