森鴎外 大塩平八郎その7
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問題文
(に、ひがしまちぶぎょうしょ)
二、東町奉行所
(ひがしまちぶぎょうしょで、ぶぎょうあとべやましろのかみよしすけがほりのてがみをうけとったのは、)
東町奉行所で、奉行跡部山城守良弼が堀の手紙を受け取ったのは、
(あけむつどきごろであった。)
明六つ時頃であった。
(おおさかのひがしまちぶぎょうしょはしろのきょうばしぐちのそと、きょうばしどおりとたにまちとのかどやしきで、)
大坂の東町奉行所は城の京橋口の外、京橋通と谷町との角屋敷で、
(てんまばしのみなみづめひがしがわにあった。ひがしはしろ、にしはたにまちのとおりである。)
天満橋の南詰東側にあった。東は城、西は谷町の通である。
(みなみのしまちょうどおりにはまちをへだててもみぐらがある。)
南の島町通には街を隔てて籾蔵がある。
(きたはきょうばしどおりのかしで、しょいんのにわからみれば、たいがんてんまぐみのじんかがひとめにみえる。)
北は京橋通の河岸で、書院の庭から見れば、対岸天満組の人家が一目に見える。
(ただにわのそとがこいにうめのたちきがあって、すこしてんぼうをさえぎるだけである。)
只庭の外囲に梅の立木があって、少し展望を遮るだけである。
(あとべもきのうからほりとおなじようなしんぱいをしている。)
跡部もきのうから堀と同じような心配をしている。
(きのうのごようびにわざとおちついて、へいじょうのじむをかたづけて、)
きのうの御用日にわざと落ち着いて、平常の事務を片附けて、
(それからひらやまのみっそしたいんぼうにたいするしょちを、ほりとそうだんしてわかれたあと、)
それから平山の密訴した陰謀に対する処置を、堀と相談して別れた後、
(ほりがよしだをよんだように、あとべはひがしまちはいかのよりきのなかで、)
堀が吉田を呼んだように、跡部は東町配下の与力の中で、
(あれかこれかとたしかなものをえりぬいて、)
あれかこれかと確かなものを選り抜いて、
(とうとうおぎのかんざえもん、どうにんせがれしろすけ、いそやたのものさんにんをよびだした。)
とうとう荻野勘左衛門、同人倅四郎助、磯矢頼母の三人を呼び出した。
(たのもとしろすけとはいんぼうのしゅりょうをしとあおいでいるものではあるが、)
頼母と四郎助とは陰謀の首領を師と仰いでいるものではあるが、
(はんとしいじょうつかっているうちに、そのしていのかんけいはどくしょのうえばかりで、)
半年以上使っているうちに、その師弟の関係は読書の上ばかりで、
(しのいえとはそえんにしているのがわかった。)
師の家とは疎遠にしているのが分かった。
(「あのせんせいはがくもんはえらいが、かんしゃくもちでこまります」などと、)
「あの先生は学問はえらいが、肝積持ちで困ります」などと、
(しろすけがいったこともある。「そんなおとこか」とあとべがきくと、)
四郎助が云ったこともある。「そんな男か」と跡部が聞くと、
(「やべさまのまえでおはなしをしているうちにげきこうしてきて、)
「矢部様の前でお話をしているうちに激高して来て、
(ろくすんもあるかながしらをあたまからめりめりとかんでたべたそうでございます」)
六寸もある金頭を頭からめりめりと咬んで食べたそうでございます」
(といった。それにこれさんにんははんとしのあいだあとべのいいつけたようじを、)
と云った。それに此三人は半年の間跡部の言い付けた用事を、
(ひといちばいねんいりにしている。そこをみこんであとべがよびだしたのである。)
人一倍念入りにしている。そこを見込んで跡部が呼び出したのである。
(さてとりかたのことをいいつけると、さんにんともおもいもかけぬようすで、)
さて捕方の事を言い付けると、三人共思いも掛けぬ様子で、
(ややしばらくかおをみあわせてかんがえたうえでいった。)
ややしばらく顔を見合せて考えた上で云った。
(ひらやまのうったえはいかにもしんじつとはかいされない。)
平山の訴えはいかにも真実とは解されない。
(れいのかんしゃくもちのほうげんをまにうけたのではあるまいか。)
例の肝積持ちの放言を真に受けたのではあるまいか。
(おうけはいたすが、よそながらようすをみて、)
お受けはいたすが、余所ながら様子を見て、
(いよいよしんじつとしれてからてをつけたいと、おりいってもうしでた。)
いよいよ真実と知れてから手を着けたいと、折り入って申し出た。
(あとにあとべのてがみでこのことをきいたほりよりは、)
後に跡部の手紙でこの事を聞いた堀よりは、
(ただいまさんにんのたいどをじっさいにまのあたりにみたあとべは、)
ただいま三人の態度を実際に目のあたりに見た跡部は、
(いっそうせつじつにいまいましいいんぼうじけんがうそかもしれぬというそうぞうにともなう、)
一層切実に忌々しい陰謀事件が嘘かも知れぬと云う想像に伴う、
(いっしゅのあんしんをかんじた。そこでたいほをみあわせた。)
一種の安心を感じた。そこで逮捕を見合せた。