森鴎外 大塩平八郎その8

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(あとべはおぎのらのはなしをきいてからかんがえてみて、)

跡部は荻野等の話を聞いてから考えて見て、

(ひらやまにいまいちどいちだいじをきいたぜんごのことを)

平山に今一度一大事を聞いた前後の事を

(くわしくきいておけばよかったとこうかいした。)

詳しく聞いて置けば好かったと後悔した。

(おとといのよるひらやまがきて、ようにんののむらじへいにとりついでもらって、)

おとといの夜平山が来て、用人野々村次平に取り次いで貰って、

(いわゆるいちだいじのうったえをしたとき、あとべはきゅうにしあんして、とっぴなしゅだんをとった。)

所謂一大事の訴えをした時、跡部は急に思案して、突飛な手段を取った。

(つうじょうならひらやまをよくりゅうして、すぐにいんぼうをちんあつするしゅだんをとるべきであるのに、)

通常なら平山を抑留して、すぐに陰謀を鎮圧する手段を取るべきであるのに、

(あとべはそのけっしんができなかった。もしひらやまをよくりゅうしたら、)

跡部はその決心が出来なかった。もし平山を抑留したら、

(いんぼうしゃがろけんをさとって、きゅうにことをあげはしないかとおそれ、)

陰謀者が露見を悟って、急に事を挙げはしないかと恐れ、

(さりとてひらやまをほうめんしてまちばにだすのもこころもとないとおもったのである。)

さりとて平山を放免して町場に出すのも心許ないと思ったのである。

(そこでえどでかんじょうぶぎょうになっている)

そこで江戸で勘定奉行になっている

(ぜんにんのにしまちぶぎょう・やべするがのかみさだのりにあてたそうだんのししんをかいて、)

前任の西町奉行・矢部駿河守定謙に宛てた相談の私信を書いて、

(ひらやまにそれをもたせて、きゅうにえどへたびだたせたのである。)

平山にそれを持たせて、急に江戸へ旅立たせたのである。

(ひらやまはきのうあけがたななつどきに、こものたすけ、やといにんやすけをつれておおさかをたった。)

平山はきのう暁七つ時に、小者多助、雇人弥助を連れて大坂を発った。

(そのあとじゅうににちめのにがつにじゅうくにちに、えどのやべのやくたくについた。)

その後十二日目の二月二十九日に、江戸の矢部の役宅に着いた。

(いんぼうしゃのけっきがしんじつかきょほうか、かくしんがまだもてないあとべは、)

陰謀者の決起が真実か虚報か、確信がまだ持てない跡部は、

(おぎのらさんにんのことばをたやすくききいれて、たいほのことをみあわせたが、)

荻野等三人の言葉をたやすく聴き容れて、逮捕の事を見合せたが、

(じっさいにたいほをみあわせたあと、もしげんじつにけっきがはっせいしたら、)

実際に逮捕を見合せたあと、もし現実に決起が発生したら、

(そのみあわせがじぶんのせきにんにきするというきぐがしょうじてきた。)

その見合せが自分の責任に帰すると云う危惧が生じて来た。

(えんきはじぶんがきめてほりにいってやったことだ。)

延期は自分が決めて堀に言ってやったことだ。

(もしておくれのもんだいがおきると、ほりはせきにんをまぬかれてじぶんがせきにんをおうのである。)

もし手遅れの問題が起きると、堀は責任を免れて自分が責任を負うのである。

など

(あとべがちょうどこのあらたにしょうじたきぐになやんでいるところへ、)

跡部が丁度この新たに生じた危惧に悩んでいる所へ、

(ほりのつかいがてがみをもってきた。おなじいんぼうについてにしまちぶぎょうしょへもそにんがでた、)

堀の使いが手紙を持って来た。同じ陰謀について西町奉行所へも訴人が出た、

(きょうとうばんのひがしまちぶぎょうしょはいかのせた、こいずみにゆだんをするなというてがみである。)

今日当番の東町奉行所配下の瀬田、小泉に油断をするなという手紙である。

(あとべはこのてがみをよんでとつぜんけっしんして、)

跡部はこの手紙を読んで突然決心して、

(とうばんのせた、こいずみのみがらこうそくにふみきることにした。)

当番の瀬田、小泉の身柄拘束に踏み切ることにした。

(このけっしんにはすこしふしぎなところがある。)

この決心には少し不思議なところがある。

(ほりのてがみにはなにひとつ、いぜんにひらやまがうったえたいじょうのじじつをかいてきていない。)

堀の手紙には何一つ、以前に平山が訴えた以上の事実を書いてきていない。

(せた、こいずみがいんぼうのよとうだということは、すでにひらやまがいったので、)

瀬田、小泉が陰謀の与党だということは、既に平山がいったので、

(おぎのらさんにんにないめいをくだすにも、)

荻野等三人に内命を下すにも、

(さんにんからもれることをおそれてあとべはめんみつなけいかいをした。)

三人から漏れることを恐れて跡部は綿密な警戒をした。

(そうしてみれば、ほりのてがみによってわかったところは、)

そうして見れば、堀の手紙によって分かった所は、

(いままでひらやまひとりのうったえできいていたことが、)

今まで平山一人の訴えで聞いていた事が、

(さらによしみというもののうったえでくりかえされたというにすぎない。)

更に吉見というものの訴で繰り返されたというに過ぎない。

(これにはけっしんをうながすどうきとしてのかちはほとんどない。)

これには決心を促す動機としての価値は殆ど無い。

(しかるにそのけっしんがあとべにはできて、)

しかるにその決心が跡部には出来て、

(まえにははれものにさわるようにしてひらやまをえどへたたせておきながら、)

前には腫物に障るようにして平山を江戸へ発たせて置きながら、

(いまはもくぜんのせた、こいずみにてをつけようとする。)

今は目前の瀬田、小泉に手をつけようとする。

(これはおとといのよるひらやまのみっそをきいたときにすべきけっしんを、)

これは一昨日の夜平山の密訴を聞いた時にすべき決心を、

(いまぐうぜんのきえんにふれてしたようなものである。)

今偶然の機縁に触れてしたようなものである。

(あとべはおぎのらをよんで、せたこいずみふたりをとらえることをめいじた。)

跡部は荻野等を呼んで、瀬田小泉二人を捕えることを命じた。

(そのてはずはこうである。ぶぎょうしょにつめるものは、)

その手筈はこうである。奉行所に詰めるものは、

(まずかたなをこしからはずしてつめしょのかたながけにかける。)

まず刀を腰から外して詰所の刀架に懸ける。

(そこでわきざしだけさして、ぶぎょうによばれると、)

そこで脇差だけ挿して、奉行に呼ばれると、

(わきざしをもたたみろうかにぬいておいて、まるごしでごようだんのまにでる。)

脇差をも畳廊下に抜いて置いて、丸腰で御用談の間に出る。

(このごようだんのあいだによんでとらえようというのがてはずである。)

この御用談の間に呼んで捕えようというのが手筈である。

(しかしまんいちのことがあったらきりすてるほかないというので、)

しかし万一の事があったら斬り棄てるほかないというので、

(ぶぎょうしょにいあわせたけんじゅつのし・いちじょうはじめがきりすてのやくをひきうけた。)

奉行所に居合わせた剣術の師・一条一が斬り棄ての役を引き受けた。

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