半七捕物帳 津の国屋22
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問題文
(よけるまもなしにりょうほうがつきあたったので、もじはるはぎょっとしてたちすくむと、)
避ける間もなしに両方が突き当ったので、文字春はぎょっとして立ちすくむと、
(あいてはあわただしくこえをかけた。)
相手はあわただしく声をかけた。
(「はやくきてください。たいへんです」)
「早く来てください。大変です」
(それはわかいおんな、しかもつのくにやのおゆきのこえらしいので、もじはるはまた)
それは若い女、しかも津の国屋のお雪の声らしいので、文字春はまた
(おどろかされた。)
驚かされた。
(「あの、おゆきさんじゃありませんか」)
「あの、お雪さんじゃありませんか」
(「あら、おしょさん。いいところへ・・・・・・。はやくきてください」)
「あら、お師匠さん。いいところへ……。早く来てください」
(「いったいどうしたの」と、もじはるはむねをおどらせながらきいた。)
「一体どうしたの」と、文字春は胸を躍らせながら訊いた。
(「みせのちょうたろうとゆうきちが・・・・・・」)
「店の長太郎と勇吉が……」
(「ちょうどんとゆうどんが・・・・・・。どうかしたんですか」)
「長どんと勇どんが……。どうかしたんですか」
(「でばぼうちょうで・・・・・・」)
「出刃庖丁で……」
(「まあ、けんかでもしたんですか」)
「まあ、喧嘩でもしたんですか」
(くらいなかでよくわからないがおゆきはふるえていきをはずませているらしく、)
暗い中でよく判らないがお雪はふるえて息をはずませているらしく
(もうろくろくにへんじもしないで、ししょうのあしもとにべったりとすわってしまった。)
もう碌々に返事もしないで、師匠の足もとにべったりと坐ってしまった。
(「しっかりおしなさいよ」と、もじはるはかのじょをだきおこしながらいった。)
「しっかりおしなさいよ」と、文字春は彼女を抱き起しながら云った。
(「そうして、そのふたりはどこにいるんです」)
「そうして、その二人はどこにいるんです」
(「なんでもそこらに・・・・・・」)
「なんでもそこらに……」
(なにしろくらいのでもじはるにはちっともけんとうがつかなかった。)
なにしろ暗いので文字春にはちっとも見当が付かなかった。
(みずあかりでそこらをすかしてみたが、ちかいところではふたりのにんげんが)
水明かりでそこらを透かしてみたが、近いところでは二人の人間が
(あらそっているようすもみえなかった。しかたがなしにかのじょはこえをあげてよんだ。)
あらそっている様子も見えなかった。仕方がなしに彼女は声をあげて呼んだ。
(「もし、ちょうさん、ゆうさん・・・・・・。そこらにいますか。ちょうさん・・・・・・。ゆうさん・・・・・・」)
「もし、長さん、勇さん……。そこらにいますか。長さん……。勇さん……」
(どこからもへんじのこえはきこえなかった。くらさはくらし、ふあんはいよいよ)
どこからも返事の声はきこえなかった。暗さは暗し、不安はいよいよ
(つのってくるので、もじはるはおゆきのてをひいて、あかるいあかりのみえるほうがくへ)
募ってくるので、文字春はお雪の手を引いて、明るい灯の見える方角へ
(いっしょうけんめいにかけだした。)
一生懸命にかけ出した。
(はんぶんはむちゅうでうちのまえまでかけてきて、もじはるははじめてほっといきをついた。)
八 半分は夢中で家のまえまで駈けて来て、文字春は初めてほっと息をついた。
(よくみると、おゆきもまっさおになって、いまにもふたたびたおれそうにもおもわれたので、)
よく見ると、お雪も真っ蒼になって、今にも再び倒れそうにも思われたので、
(ともかくもうちのなかへつれこんで、ありあわせのくすりやみずをのませた。)
ともかくも家の中へ連れ込んで、ありあわせの薬や水を飲ませた。
(すこしおちつくのをまってこんやのできごとをききただすと、それはまたいがいの)
すこし落ち着くのを待って今夜の出来事を聞きただすと、それは又意外の
(ことであった。)
ことであった。
(こんやおゆきがみせさきへでると、あとからわかいもののちょうたろうがついてきて、)
今夜お雪が店先へ出ると、あとから若い者の長太郎がついて来て、
(すこしはなしがあるからおもてまでちょいとでてくれというので、なにごころなく)
少し話があるから表までちょいと出てくれというので、なに心なく
(いっしょにでると、ちょうたろうはとつぜんにたんとうをぬいてかのじょのめのさきにつきつけた。)
一緒に出ると、長太郎は突然に短刀を抜いて彼女の眼の先に突きつけた。
(そうして、そこまでだまっていっしょにこいとおどした。あいてがするどいはものを)
そうして、そこまで黙って一緒に来いとおどした。相手が鋭い刃物を
(もっているのにおびやかされて、おゆきはこえをたてることができなかった。)
持っているのにおびやかされて、お雪は声を立てることが出来なかった。
(りょうどなりにもじんかがありながら、こえをたてたらいのちがないとおどされているので、)
両隣りにも人家がありながら、声を立てたら命がないとおどされているので、
(かのじょはみをすくめたままでためいけのふちまでつれていかれた。)
彼女は身をすくめたままで溜池のふちまで連れて行かれた。
(ちょうたろうはあたりにおうらいのないのをみて、じぶんのにょうぼうになってくれと)
長太郎はあたりに往来のないのを見て、自分の女房になってくれと
(おゆきにせまった。おどろいてへんとうにちゅうちょしていると、ちょうたろうはいよいよせまって、)
お雪に迫った。おどろいて返答に躊躇していると、長太郎はいよいよ迫って、
(もしじぶんのいうことをきかなければ、おまえをころしてこのいけへなげこんで、)
もし自分の云うことを肯かなければ、おまえを殺してこの池へ投げ込んで、
(じぶんもあとからみをなげて、せけんへはしんじゅうとふいちょうさせるといった。)
自分もあとから身を投げて、世間へは心中と吹聴させると云った。
(おゆきはいよいよおびえて、しきりにかんにんしてくれとたのんだが、ちょうたろうは)
お雪はいよいよおびえて、しきりに堪忍してくれと頼んだが、長太郎は
(どうしてもきかなかった。おゆきはせっぱつまったところへ、こぞうのゆうきちが)
どうしても肯かなかった。お雪は切羽つまったところへ、小僧の勇吉が
(あとからかけてきて、これもでばぼうちょうをふりかざして、やにわにちょうたろうに)
あとから駈けて来て、これも出刃庖丁を振りかざして、やにわに長太郎に
(きってかかった。ふたりはたんとうとでばぼうちょうとでたたかった。おゆきはとほうにくれて、)
斬ってかかった。二人は短刀と出刃庖丁とで闘った。お雪は途方にくれて、
(だれかのすくいをよぼうとしてむちゅうでかけだしたが、もうきがどうてんしているので)
誰かの救いを呼ぼうとして夢中で駈け出したが、もう気が動転しているので
(はんたいのほうがくへあしをむけたらしく、あたかもこっちへかえってくるもじはるに)
反対の方角へ足を向けたらしく、あたかもこっちへ帰って来る文字春に
(つきあたったのであった。)
突き当ったのであった。