東郷平八郎 聯合艦隊解散の辞 ②

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(おもうにぶじんのいっせいはれんめんふだんのせんそうにして、)

惟ふに武人の一生は連綿不断の戦争にして、

(ときのへいせんによりそのせきむにけいちょうあるのことわりなし。)

時の平戦に由り其の責務に軽重あるの理無し。

(ことあればぶりょくをはっきし、ことなければこれをしゅうようし、)

事有れば武力を発揮し、 事無ければ之を修養し、

(しゅうしいっかんそのほんぶんをつくさんのみ。)

終始一貫其の本分を尽さんのみ。

(かこのいちねんゆうはん、かのふうとうとたたかい、かんしょにこうし、)

過去の一年有半、彼の風濤と戦ひ、寒暑に抗し、

(しばしばがんてきとたいしてせいしのあいだにしゅつにゅうせしこともとよりよういのぎょうならざりしも、)

屡頑敵と対して生死の間に出入せしこと固より容易の業ならざりしも、

(かんずればこれまたちょうきのいちだいえんしゅうにして、)

観ずれば是れ亦長期の一大演習にして、

(これにさんかしいくたけいはつするをえたるぶじんのこうふくひするにものなし、)

之に参加し幾多啓発するを得たる武人の幸福比するに物無し、

(あにこれをせいせんのろうくとするにたらんや。)

豈之を征戦の労苦とするに足らんや。

(いやしくもぶじんにしてちへいにとうあんせんか、)

苟も武人にして治平に偸安せんか、

(へいびのがいかんぎぜんたるもあたかもさじょうのろうかくのごとく)

兵備の外観巍然たるも宛も沙上の楼閣の如く

(ぼうふういっかたちまちほうかいするにいたらん、まことにいましむべきなり。)

暴風一過忽ち崩倒するに至らん、洵に戒むべきなり。

(むかしじんこうこうごうさんかんをせいふくしたまいしいらい、)

昔者神功皇后三韓を征服し給ひし以来、

(かんこくはしひゃくよねんかんわがとうりのもとにありしも、)

韓国は四百余年間我が統理の下にありしも、

(ひとたびかいぐんのはいたいするやたちまちこれをうしない、)

一たび海軍の廃頽するや忽ち之を失ひ、

(またきんせいにはいりとくがわばくふちへいになれてへいびをおこたれば、)

又近世に入り徳川幕府治平に狃れて兵備を懈れば、

(きょこくべいかんすうせきのおうたいにくるしみ、)

挙国米艦数隻の応対に苦み、

(ろかんまたちしまからふとをきゆするもこれとこうそうすることはあたわざるにいたれり。)

露艦亦千島樺太を覦覬するも之と抗争すること能はざるに至れり。

(ひるがえってこれをさいしにみるに、じゅうきゅうせいきのはじめにあたり、)

翻て之を西史に見るに、十九世紀の初めに当り、

(ないるおよびとらふぁるがーとうにかちたるえいこくかいぐんは、)

ナイル及トラファルガー等に勝ちたる英国海軍は、

など

(そこくをたいざんのやすきにおきたるのみならず、)

祖国を泰山の安きに置きたるのみならず、

(じらいこうしんあいおそうてよくそのぶりょくをほゆうし、せいうんのしんぽにおくれざりしかば、)

爾来後進相襲て能く其の武力を保有し、世運の進歩に後れざりしかば、

(いまにいたるまでながくそのこくりをようごし、こっけんをしんちょうするをえたり。)

今に至る迄永く其の国利を擁護し、国権を伸張するを得たり。

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