半七捕物帳 春の雪解9
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
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1 | kkk4015 | 4413 | C+ | 4.6 | 94.4% | 513.6 | 2409 | 142 | 42 | 2024/11/20 |
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問題文
(「ほねおりぞんだとおもって、もうすこしほじってみろ」)
「骨折り損だと思って、もう少しほじって見ろ」
(かれはうえののやましたまでようたしにいって、すぐにうちにかえろうとしたが、)
彼は上野の山下まで用達に行って、すぐに家に帰ろうとしたが、
(またおもいかえしていりやたんぼへあしをむけた。ゆきあがりのそこびえのするひで、)
また思い返して入谷田圃へ足を向けた。雪あがりの底冷えのする日で、
(たんぼへでるころにはすっかりくれてしまった。おにもつになるかさをさげて、)
田圃へ出る頃にはすっかり暮れてしまった。お荷物になる傘をさげて、
(ゆきどけみちをひとあしぬきにあるきながら、たついせのりょうのそばまでくると、)
雪解け路を一と足ぬきに歩きながら、辰伊勢の寮のそばまで来ると、
(もんのなかからひとりのおんながでてきた。かおはたしかにみえないが、)
門のなかから一人の女が出て来た。顔は確かにみえないが、
(そのかっこうがどうもかのおときらしいので、はんしちはすぐにそのあとを)
その格好がどうもかのお時らしいので、半七はすぐにその後を
(つけてゆくと、おんなはこのあいだのそばやへはいった。)
尾(つ)けてゆくと、女はこの間の蕎麦屋へはいった。
(こっちのかおをしっているはずはないとたかをくくって、はんしちもすこしあとから)
こっちの顔を識っている筈はないと多寡をくくって、半七も少しあとから
(そののれんをくぐると、せまいみせにはおときのほかにもうひとりのおとこがきていた。)
その暖簾をくぐると、狭い店にはお時のほかにもう一人の男が来ていた。
(とうざんのはんてんをきてひらぐけをしめたそのおとこのふうぞくが、)
唐桟(とうざん)の半纏を来て平ぐけを締めたその男のふうぞくが、
(かたぎのにんげんではないことははんしちにもすぐにさとられた。おとこはにじゅうごろくで、)
堅気の人間ではないことは半七にもすぐに覚られた。男は二十五六で、
(いろのあさぐろいりっぱなえどっこであった。かれはここでおときを)
色のあさ黒い立派な江戸っ子であった。かれはここでお時を
(まちあわせていたらしく、おんなとむかいあってさけをのんでいた。)
待ち合わせていたらしく、女と向い合って酒を飲んでいた。
(はんしちはすみのほうにすわって、いいかげんなあつらえものをした。)
半七は隅の方に坐って、好い加減な誂え物をした。
(おとこもおんなもときどきこっちをしりめにみていたが、かくべつにきをおいても)
男も女も時々こっちを後目(しりめ)に視ていたが、格別に気を置いても
(いないらしく、ひばちになかよくてをかざしながら、こごえでしきりにはなしていた。)
いないらしく、火鉢に仲よく手をかざしながら、小声でしきりに話していた。
(「もうこうなっちゃあ、しかたがないやね」と、おんなはいった。)
「もうこうなっちゃあ、仕方がないやね」と、女は云った。
(「おれがでなけりゃあまくがしまらねえかな」と、おとこはいった。)
「おれが出なけりゃあ幕が閉まらねえかな」と、男は云った。
(「ぐずぐずしていて・・・・・・。しんじゅうでもされたひにゃあたまなしだあね」と、)
「ぐずぐずしていて……。心中でもされた日にゃあ玉無しだあね」と、
(おんなはこごえでおどすようにいった。)
女は小声でおどすように云った。
(それからさきはききとれなかったが、しんじゅうといういっくをきいて、)
それから先きは聴き取れなかったが、心中という一句を聞いて、
(はんしちはむねをおどらせた。おそらくたがそでというおんなが)
半七は胸をおどらせた。おそらく誰袖(たがそで)という女が
(しんじゅうするのであろうとおもわれた。)
心中するのであろうと思われた。
(じけんはいよいよこぐらかってきたらしいので、はんしちもいきをのみこんで)
事件はいよいよこぐらかって来たらしいので、半七も息をのみ込んで
(みみをすましていたが、はなしはよほどこみいったそうだんらしく、)
耳を澄ましていたが、話はよほどこみいった相談らしく、
(おんなのこえはいよいよひそめいて、めとはなのあいだにいいるはんしちのみみにも)
女の声はいよいよひそめいて、眼と鼻のあいだにいいる半七の耳にも
(そのひみつをもらさなかった。じれったいのをがまんして、ただそのなりゆきを)
其の秘密を洩らさなかった。じれったいのを我慢して、ただその成り行きを
(うかがっていると、ふたりはやがてそうだんをきめたらしく、かんじょうをはらってここをでた。)
窺っていると、二人はやがて相談を決めたらしく、勘定を払ってここを出た。
(ふたりをやりすごして、はんしちもたった。かれはそばのしろをはらいながらおんなにきいた。)
二人をやり過ごして、半七も起った。かれは蕎麦の代を払いながら女に訊いた。
(「おかみさん。いまでていったおんなはたついせのりょうのおときさんというんだろう」)
「おかみさん。今出て行った女は辰伊勢の寮のお時さんというんだろう」
(「さようでございます」 「つれのおとこはだれだえ」)
「左様でございます」 「連れの男は誰だえ」
(あれはとらさんというひとでございます」)
あれは寅さんという人でございます」
(「とらさん」と、はんしちのめはひかった。「とらまつというんじゃねえか。)
「寅さん」と、半七の眼は光った。「寅松というんじゃねえか。
(つじうらうりのおきんぼうのあにきの・・・・・・え、そうかえ」)
辻占売りのおきん坊の兄貴の……え、そうかえ」
(「よくごぞんじでございますね」)
「よく御存じでございますね」
(はんしちはきゅうにおもしろくなってきた。かれはいいかげんにあいさつしておもてへでると、)
半七は急に面白くなって来た。かれは好い加減に挨拶して表へ出ると、
(いっぽんみちをならんでゆくふたりのうしろかげが、きえのこっているゆきあかりに)
一本路をならんでゆく二人のうしろ影が、消え残っている雪明かりに
(うすぐろくみえた。はんしちはあしもとにきをつけながら、だいこんおろしのように)
薄黒く見えた。半七は足もとに気をつけながら、大根卸しのように
(ぬかっているゆきどけみちをたどってゆくと、ふたりのかげは)
泥濘(ぬか)っている雪解け路を辿ってゆくと、二人の影は
(たついせのりょうのまえでとまった。ここでもまたなにかささやいているようであったが、)
辰伊勢の寮の前で止まった。ここでも又何かささやいているようであったが、
(ふたつのかげはやがてはなれて、おんなはもんのなかへきえた。)
二つの影はやがて離れて、女は門のなかへ消えた。