半七捕物帳 鷹のゆくえ3
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問題文
(はんしちはしながわのまるやへいって、しゅじんにもあった。おやえにもあった。)
二 半七は品川の丸屋へ行って、主人にも逢った。お八重にも逢った。
(しゅじんはどんなとばっちりをくうのかとおびえているらしかったが、とりわけて)
主人はどんな飛ばっちりを食うのかとおびえているらしかったが、取り分けて
(おやえはまっさおになっていた。なにぶんにもとりのことであるから、)
お八重は真っ蒼になっていた。なにぶんにも鳥のことであるから、
(べつにせんぎのしようもなかったが、それでもいちおうはおやえのざしきへとおって、)
別に詮議のしようもなかったが、それでも一応はお八重の座敷へ通って、
(たかのとんでいったほうがくなどをききさだめてかえった。)
鷹の飛んで行った方角などを聞き定めて帰った。
(まるやののれんをくぐりでて、はんしちはまたかんがえた。とりのとんでいったのは)
丸屋の暖簾(のれん)をくぐり出て、半七はまた考えた。鳥の飛んで行ったのは
(めぐろのほうがくらしい。げんにきんのすけらもめぐろへたかならしにでかけたのである。)
目黒の方角らしい。現に金之助らも目黒へ鷹馴らしに出かけたのである。
(してみると、たかはそこらにおりたかもしれない。なにしろねんのために)
して見ると、鷹はそこらに降りたかも知れない。なにしろ念のために
(いちおうそのほうがくをしらべてみようとおもいたって、かれはさらにめぐろのほうにあしをむけると、)
一応その方角を調べてみようと思い立って、彼は更に目黒の方に足を向けると、
(そらのいろはいよいよわるくなってきた。)
空の色はいよいよ悪くなって来た。
(「ふられるかな」)
「降られるかな」
(はんしちはそらをみながらいそいでいった。これがほかのじけんならば、それぞれに)
半七は空をみながら急いで行った。これがほかの事件ならば、それぞれに
(すじみちをたてて、そうさのほをすすめるのであるが、じけんがじけんであるだけに、)
筋道を立てて、捜査の歩をすすめるのであるが、事件が事件であるだけに、
(はんしちもいわゆるいきどころばったりにさがしあるくよりほかはなかった。)
半七もいわゆる行きどころばったりに探しあるくよりほかはなかった。
(まことにちえのないはなしだとはおもったが、はんしちはさしあたりここらのむらむらの)
まことに知恵のない話だとは思ったが、半七は差し当りここらの村々の
(なぬしをたずねて、だれかたかをみつけたか、あるいはたかをとらえたかを)
名主(なぬし)をたずねて、誰か鷹を見付けたか、あるいは鷹を捕えたかを
(ききあわせようとした。)
聞き合わせようとした。
(しょじんがたかをかうことはとおいむかしからきんじられている。かまくらじだい、あしかがじだい、)
庶人が鷹を飼うことは遠い昔から禁じられている。鎌倉時代、足利時代、
(くだってとくがわじだいにいたっては、そのきんれいがいよいよげんじゅうになって、)
降(くだ)って徳川時代に至っては、その禁令がいよいよ厳重になって、
(ひそかにたかをかうものはしざい、それをそにんしたものにはぎんごじゅうまいをたまわるという)
ひそかに鷹を飼うものは死罪、それを訴人したものには銀五十枚を賜るという
(ことになっていた。したがってそこらのむらむらでたかをみつけ、またはたかを)
ことになっていた。したがってそこらの村々で鷹を見つけ、又は鷹を
(とらえたものは、そのむらなぬしにとどけでるにきまっている。あしにおをつけている)
捕えたものは、その村名主に届け出るに決まっている。足に緒をつけている
(とりであるから、あるいはとおくとばないでここらのむらのものにとらわれまいとも)
鳥であるから、あるいは遠く飛ばないでここらの村の者に捕われまいとも
(かぎらない。こうおもって、はんしちはまずなぬしのたくをたずねようとしたのである。)
限らない。こう思って、半七はまず名主の宅をたずねようとしたのである。
(つつみをおりたかわのふちで、ふたりのおんながまっしろなだいこんをあらっていた。)
堤を降りた川の縁(ふち)で、二人の女が真っ白な大根を洗っていた。
(それをみつけて、はんしちはこえをかけた。)
それを見つけて、半七は声をかけた。
(「もし、なぬしさまのうちはどこですね」)
「もし、名主様の家(うち)はどこですね」
(ふりむいたのはいずれもわかいおんなであった。ひとりはあたまのてぬぐいを)
ふり向いたのはいずれも若い女であった。一人は頭の手拭を
(はずしながらこたえた。)
はずしながら答えた。
(「なぬしさまのいえはこのどてをまっすぐにいって、それからみぎへまがって、)
「名主様の家はこの堤(どて)をまっすぐに行って、それから右へ曲がって、
(おおきいたけやぶのあるいえですよ」)
大きい竹藪(たけやぶ)のある家ですよ」
(「ありがとう。それから・・・・・・ねえさんたちは、けさここらへたかの)
「ありがとう。それから……姐(ねえ)さん達は、けさここらへ鷹の
(おりたといううわさをきかなかったかね」 ふたりのおんなはだまっていた。)
降りたという噂を聞かなかったかね」 二人の女はだまっていた。
(「しらないかえ」 「しりませんね」と、はじめのおんながこたえた。)
「知らないかえ」 「知りませんね」と、初めの女が答えた。
(「いや、ありがとう」)
「いや、ありがとう」
(あいさつしてはんしちはわかれた。おしえられたままになぬしのいえをたずねて、たかのことを)
挨拶して半七は別れた。教えられたままに名主の家をたずねて、鷹のことを
(ききあわせると、むらじゅうでもだれもみつけたものはないらしく、げんにいままでも)
聞き合わせると、村じゅうでも誰も見つけたものはないらしく、現に今までも
(とどけてきたものはないとのことであった。たかはまえにもいうとおり、)
届けて来たものは無いとのことであった。鷹は前にもいう通り、
(ふつうのいえでかうべきものではない。そのたかのせんぎとあればよういならぬことと)
普通の家で飼うべきものではない。その鷹の詮議とあれば容易ならぬことと
(さっしたらしく、なぬしもまゆをよせてきいた。)
察したらしく、名主も眉をよせて訊いた。
(「そのおたかはやはりおたかじょのでございますか」)
「そのお鷹はやはり御鷹所のでございますか」
(「せんだぎのですよ」と、はんしちはしょうじきにこたえた。「しかし、これはないみつに)
「千駄木のですよ」と、半七は正直に答えた。「しかし、これは内密に
(たんさくしなければならないのですから、おまえさんのほうでもそのつもりで・・・・・・。)
探索しなければならないのですから、おまえさんの方でもそのつもりで……。
(なにかこころあたりがありましたら、わたしのところまでこっそりしらせてください」)
なにか心当りがありましたら、わたしのところまでこっそり知らせてください」
(「しょうちしました」)
「承知しました」
(なぬしによくたのんでおいて、はんしちはそこをでると、そらのいろはいよいよあやしく)
名主によく頼んで置いて、半七はそこを出ると、空の色はいよいよ怪しく
(なってきた。ひっかえしてなぬしのところでかさをかりてこようかとおもったが、)
なって来た。引っ返して名主のところで傘を借りて来ようかと思ったが、
(それもまためんどうだとそのまますたすたあるきだすと、かわのふちでさっきの)
それもまた面倒だとその儘(まま)すたすた歩き出すと、川の縁でさっきの
(ふたりのおんなにまたあった。 「や、さっきはありがとう」)
二人の女にまた逢った。 「や、さっきはありがとう」
(おんなたちはむごんでえしゃくしてわかれた。むらはずれまできかかると、しぐれがとうとう)
女たちは無言で会釈して別れた。村はずれまで来かかると、時雨がとうとう
(ざっとふってきたので、はんしちはてぬぐいをかぶりながらあしばやにいそいでくると、)
ざっと降って来たので、半七は手拭をかぶりながら足早に急いでくると、
(みちばたにちいさいそばやをみつけたので、かれはとうざのあまやどりの)
路ばたに小さい蕎麦(そば)屋を見つけたので、彼は当座の雨やどりの
(つもりで、ともかくものれんをくぐると、しじゅうばかりのにょうぼうが)
つもりで、ともかくも暖簾をくぐると、四十ばかりの女房が
(ぞうきんのようなてぬぐいでてをふきながらでてきた。)
雑巾(ぞうきん)のような手拭で手を拭きながら出て来た。