『怪人二十面相』江戸川乱歩13

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少年探偵団シリーズ第1作品『怪人二十面相』
※分かりやすくする為、表記等を一部改変しております

○少年探偵団シリーズ第1作品『怪人二十面相』
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問題文

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(いかにも、それはおやこにみえる、ふたりのこじきでした。)

いかにも、それは親子に見える、二人の乞食でした。

(りょうにんとも、ぼろぼろのうすよごれたきものをきて、)

両人とも、ボロボロの薄汚れた着物を着て、

(まるでしょうゆでにてそめたかのように、)

まるでしょうゆで煮て染めたかのように、

(よごれてちゃいろくなったてぬぐいで、とうぶをつつんで)

汚れて茶色くなった手ぬぐいで、頭部を包んで

(います。「おまえたちはなんだ。こんなところへ)

います。「お前たちは何だ。こんな所へ

(はいってきては、こまるじゃないか」)

入って来ては、困るじゃないか」

(こんどうろうじんがしかりつけると、おやのこじきが)

近藤老人がしかりつけると、親の乞食が

(みょうなこえでわらいだしました。「えへへ、)

みょうな声で笑い出しました。「エヘヘ、

(おやくそくでございますよ」わけのわからないことを)

お約束でございますよ」訳の分からないことを

(いったかとおもうと、かれはすぐにはしりだしました。)

言ったかと思うと、彼はすぐに走りだしました。

(まるでかぜのように、くらやみのなかをもんのそとへ、)

まるで風のように、暗闇の中を門の外へ、

(とびさってしまいました。「おとうさん、ぼくですよ」)

とびさってしまいました。「お父さん、ぼくですよ」

(こんどはこどものこじきが、へんなことをいいだすでは)

今度は子どもの乞食が、変なことを言いだすでは

(ありませんか。そして、いきなりぬのをとり、)

ありませんか。そして、いきなり布を取り、

(ぼろぼろのきものをぬぎすてたのをみると、)

ボロボロの取り、脱ぎ捨てたのを見ると、

(そのしたからあらわれたのは、みおぼえのあるがくせいふくと)

その下から現れたのは、見覚えのある学生服と

(しろいかお。こどものこじきこそ、ほかならぬそうじくんでした。)

白い顔。子どもの乞食こそ、他ならぬ壮二君でした。

(「どうしたのだ、こんなきたないかっこうをして」)

「どうしたのだ、こんな汚いかっこうをして」

(はしばしが、なつかしいそうじくんのてをにぎりながら)

羽柴氏が、懐かしい壮二君の手を握りながら

(たずねました。「なにかわけがあるのでしょう。)

たずねました。「何か訳があるのでしょう。

など

(にじゅうめんそうのやつが、こんなきものをきせたんです。)

二十面相の奴が、こんな着物を着せたんです。

(でも、いままでさるぐつわをはめられていて、)

でも、今までさるぐつわをはめられていて、

(ものがいえなかったのです」ああ、ではいまの)

物が言えなかったのです」 ああ、では今の

(おやのこじきこそ、にじゅうめんそうそのひとだったのです。)

親の乞食こそ、二十面相その人だったのです。

(かれはこじきにへんそうして、それとなく、ぶつぞうが)

彼は乞食に変装して、それとなく、仏像が

(はこびだされたのをみきわめたうえ、やくそくどおり)

運び出されたのを見極めた上、約束通り

(そうじくんをかえして、にげさったにちがいありません。)

壮二君を返して、逃げ去ったに違いありません。

(それにしても、こじきとは、なんというおもいきった)

それにしても、乞食とは、なんという思い切った

(へんそうでしょう。こじきならば、ひとのもんのまえで)

変装でしょう。乞食ならば、人の門の前で

(うろついていても、さしてあやしまれないという、)

うろついていても、さして怪しまれないという、

(にじゅうめんそうらしいおもいつきです。そうじくんはぶじに)

二十面相らしい思いつきです。 壮二君は無事に

(かえりました。きけばせんぽうでは、ちかしつに)

帰りました。聞けば先方では、地下室に

(とじこめられてはいたけれど、べつにぎゃくたいされる)

閉じ込められてはいたけれど、別に虐待される

(ようなこともなく、しょくじもじゅうぶんあてがわれて)

ようなこともなく、食事も充分あてがわれて

(いたということです。これではしばけのおおきな)

いたということです。 これで羽柴家の大きな

(しんぱいはとりのぞかれました。おとうさんと)

心配は取り除かれました。お父さんと

(おかあさんのよろこびがどんなであったかは、)

お母さんの喜びがどんなであったかは、

(どくしゃしょくんのごそうぞうにおまかせします。さていっぽう、)

読者諸君のご想像にお任せします。さて一方、

(こじきにばけたにじゅうめんそうは、かぜのようにはしばけのもんを)

乞食に化けた二十面相は、風のように羽柴家の門を

(とびだし、うすぐらいよこちょうにかくれて、)

とびだし、薄暗い横町に隠れて、

(すばやくこじきのきものをぬぎすてると、そのしたには)

素早く乞食の着物を脱ぎ捨てると、その下には

(ちゃいろのきものをきたおじいさんのへんそうがよういして)

茶色の着物を着たおじいさんの変装が用意して

(ありました。あたまはしらが、かおもしわだらけの、)

ありました。頭はしらが、顔もシワだらけの、

(どうみてもろくじゅうをこしたごいんきょさまです。)

どう見ても六十を越した。

(かれはすがたをととのえると、かくしもっていたたけのつえをつき、)

彼は姿を整えると、隠し持っていた竹の杖をつき、

(せなかをまるめて、よちよちとあるきだしました。)

背中を丸めて、ヨチヨチと歩きだしました。

(たとえ、はしばしがやくそくをむししておってをさしむけた)

例え、羽柴氏が約束を無視して追っ手をさしむけた

(としても、これではみやぶられるきづかいは)

としても、これでは見破られる気遣いは

(ありません。じつにこころにくい、よういしゅうとうな)

ありません。実に心憎い、用意周到な

(やりくちです。ろうじんはおおどおりにでると、)

やりくちです。 老人は大通りに出ると、

(いちだいのたくしーをよびとめて、のりこみましたが、)

一台のタクシーを呼びとめて、乗りこみましたが、

(にじゅっぷんもでたらめなほうこうにはしらせておいて、)

二十分もデタラメな方向に走らせておいて、

(べつのくるまにのりかえ、こんどはほんとうのかくれがへ)

別の車に乗りかえ、今度は本当の隠れ家へ

(いそがせました。くるまがとまったところは、とやまがはらの)

急がせました。車が止まった所は、戸山ヶ原の

(いりぐちでした。ろうじんはそこでくるまをおりて、)

入り口でした。老人はそこで車を降りて、

(まっくらなはらっぱをよぼよぼとあるいていきます。)

真っ暗な原っぱをヨボヨボと歩いて行きます。

(ぞくのそうくつは、とやまがはらにあったのです。)

賊の巣窟は、戸山ヶ原にあったのです。

(はらっぱのいっぽうのはずれ、こんもりとしたすぎばやしの)

原っぱの一方のはずれ、こんもりとした杉林の

(なかに、ぽっつりといっけんのふるいようかんがたっています。)

中に、ポッツリと一軒の古い洋館が建っています。

(あれはてて、すむものもいないようなたてものです。)

荒れ果てて、住む者もいないような建物です。

(ろうじんは、そのようかんのどあをとんとんとんと)

老人は、その洋館のドアをトントントンと

(さんかいたたいて、すこしあいだをおいてとんとんと)

三回叩いて、少し間をおいてトントンと

(にかいたたきました。すると、これがなかまのあいずと)

二回叩きました。 すると、これが仲間の合図と

(みえて、なかからどあがひらかれ、さっきぶつぞうを)

みえて、中からドアがひらかれ、さっき仏像を

(ぬすみだしたてしたのひとりが、にゅっとかおを)

盗みだした手下の一人が、ニュッと顔を

(だしました。ろうじんはだまったままさきにたって、)

出しました。 老人は黙ったまま先に立って、

(ぐんぐんおくのほうへ、はいっていきます。)

グングン奥のほうへ、入って行きます。

(ろうかのつきあたりに、むかしはさぞりっぱで)

廊下の突き当りに、昔はさぞ立派で

(あったろうとおもわれる、ひろいへやがあって、)

あったろうと思われる、広い部屋があって、

(そのへやのまんなかに、ぬのをまきつけたままの)

その部屋の真ん中に、布を巻きつけたままの

(ぶつぞうのがらすばこが、でんとうもない、ろうそくの)

仏像のガラス箱が、電灯もない、ロウソクの

(あかちゃけたひかりに、てらしだされています。「よしよし、)

赤茶けた光に、照らしだされています。「よしよし、

(おまえたち、うまくやってくれた。これはほうびだ。)

お前たち、上手くやってくれた。これは褒美だ。

(どっかへいって、あそんでくるがいい」さんにんのものに)

どっかへ行って、遊んでくるがいい」 三人の者に

(すうまいのせんえんさつをあたえて、そのへやをたちさらせると、)

数枚の千円札を与えて、その部屋を立ち去らせると、

(ろうじんはがらすばこのぬのをゆっくりとりさって、)

老人はガラス箱の布をゆっくり取り去って、

(そこにあったろうそくをかたてに、ぶつぞうのしょうめんに)

そこにあったロウソクを片手に、仏像の正面に

(たち、ひらきどになっているがらすのとびらを)

立ち、ひらき戸になっているガラスの扉を

(ひらきました。「かんのんさま、にじゅうめんそうのうでまえは、)

ひらきました。「観音さま、二十面相の腕前は、

(どんなもんですかね。きのうはにひゃくまんえんの)

どんなもんですかね。昨日は二百万円の

(だいやもんど、きょうはこくほうきゅうのびじゅつひんです。)

ダイヤモンド、今日は国宝級の美術品です。

(このちょうしだと、ぼくのけいかくしているだいびじゅつかんも、)

この調子だと、ぼくの計画している大美術館も、

(まもなくかんせいしようというものですよ。ははは、)

まもなく完成しようというものですよ。ハハハ、

(かんのんさま、あなたはじつによくできていますぜ。)

観音さま、あなたは実によく出来ていますぜ。

(まるでいきているようだ」ところがどくしゃしょくん、)

まるで生きているようだ」 ところが読者諸君、

(そのときでした。にじゅうめんそうのひとりごとが、)

その時でした。二十面相の独り言が、

(おわるかおわらないかのあいだに、)

終わるか終わらないかの間に、

(かれのことばどおり、じつにおそろしいきせきが)

彼の言葉通り、実に恐ろしい奇跡が

(おこったのです。もくぞうのかんのんさまのみぎてが、)

起こったのです。 木造の観音さまの右手が、

(ぐーっとまえにのびてきたではありませんか。)

グーッと前に伸びてきたではありませんか。

(しかも、そのゆびには、はすのくきではなくて、)

しかも、その指には、ハスの茎ではなくて、

(いっちょうのぴすとるが、ぴったりとぞくのむねにねらいを)

一丁のピストルが、ピッタリと賊の胸にねらいを

(さだめて、にぎられているではありませんか。)

さだめて、握られているではありませんか。

(ぶつぞうがひとりでうごくはずはありません。では、)

仏像が一人で動くはずはありません。では、

(このかんのんさまには、じんぞうにんげんのようなきかいじかけが)

この観音さまには、人造人間のような機械仕掛けが

(ほどこされていたのでしょうか。しかしかまくらじだいの)

ほどこされていたのでしょうか。しかし鎌倉時代の

(ちょうぞうに、そんなしかけがあるわけはないのです。)

彫像に、そんな仕掛けがある訳はないのです。

(すると、いったいこのきせきはどうしておこった)

すると、一体この奇跡はどうして起こった

(のでしょう。ぴすとるをつきつけられたにじゅうめんそうは、)

のでしょう。ピストルを突きつけられた二十面相は、

(そんなことをかんがえているひまもありませんでした。)

そんなことを考えている暇もありませんでした。

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