『怪人二十面相』江戸川乱歩12
○少年探偵団シリーズ第1作品『怪人二十面相』
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問題文
(「そうです。ちょっとかんがえると、むずかしそうですが、)
「そうです。ちょっと考えると、難しそうですが、
(ぼくたちには、このほうほうはしけんずみなんです。)
ぼくたちには、この方法は試験済みなんです。
(なんねんかまえ、ふらんすのかいとうあるせーぬるぱんを、)
何年か前、フランスの怪盗アルセーヌルパンを、
(せんせいがこのてでひどいめにあわせてやったことが)
先生がこの手で酷い目にあわせてやったことが
(あるんです」「そうじのみにきけんがおよぶような)
あるんです」「壮二の身に危険が及ぶような
(ことはありませんか」「それはだいじょうぶです。)
ことはありませんか」「それは大丈夫です。
(あいてがちいさなどろぼうですと、かえってきけんですが、)
相手が小さな泥棒ですと、かえって危険ですが、
(にじゅうめんそうともあろうものがやくそくをやぶることは)
二十面相ともあろう者が約束を破ることは
(しないでしょう。そうじくんはぶつぞうとひきかえに)
しないでしょう。壮二君は仏像と引き替えに
(おかえしするというのですから、きけんがおこるまえに)
お返しすると言うのですか引き替えに起こる前に
(ちゃんとここへもどってくるにちがいありません。)
ちゃんとここへ戻ってくるに違いありません。
(もしそうでなかったら、そのときには、)
もしそうでなかったら、その時には、
(またそのときのほうほうがあります。だいじょうぶですよ。)
またその時の方法があります。大丈夫ですよ。
(ぼくはこどもだけれど、けっしてむちゃなことは)
ぼくは子どもだけれど、決して無茶なことは
(かんがえません」「あけちさんのふざいちゅうに、)
考えません」「明智さんの不在中に、
(きみにそういうきけんなことをさせて、まんいちのこと)
きみにそういう危険なことをさせて、万一のこと
(があってはこまるが」「ははは、あなたは)
があっては困るが」「ハハハ、あなたは
(ぼくたちのせいかつをごぞんじないのですよ。)
ぼくたちの生活をご存知ないのですよ。
(たんていなんてけいさつかんとおなじことで、はんざいそうさのために)
探偵なんて警察官と同じことで、犯罪捜査のために
(たおれたら、ほんもうなんです。しかし、こんなことは)
倒れたら、本望なんです。しかし、こんなことは
(なんでもありませんよ。きけんというほどのしごとじゃ)
なんでもありませんよ。危険というほどの仕事じゃ
(ありません。あなたは、みてみぬふりをして)
ありません。あなたは、見て見ぬふりをして
(くださればいいんです。ぼくは、たとえおゆるしが)
くださればいいんです。ぼくは、例えお許しが
(なくても、もうあとへはひきませんよ。かってに)
なくても、もうあとへは引きませんよ。かってに
(けいかくをじっこうするだけです」はしばしもこんどうろうじんも、)
計画を実行するだけです」 羽柴氏も近藤老人も、
(このしょうねんのげんきを、もてあましぎみでした。)
この少年の元気を、持て余し気味でした。
(そして、ながいあいだのきょうぎのけっか、とうとうこばやししょうねんの)
そして、長い間の協議の結果、とうとう小林少年の
(かんがえをじっこうすることにはなしがきまりました。)
考えを実行することに話が決まりました。
(「ぶつぞうのきせき」)
「仏像の奇跡」
(さて、おはなしはとんで、そのよるのできごとにうつります。)
さて、お話はとんで、その夜の出来事に移ります。
(ごごじゅうじ、やくそくどおり、にじゅうめんそうのぶかである)
午後十時、約束通り、二十面相の部下である
(さんにんのおとこが、あけはなったままの、はしばけのもんを)
三人の男が、開け放ったままの、羽柴家の門を
(くぐりました。ぞくたちは、げんかんにたっている)
くぐりました。賊たちは、玄関に立っている
(ひしょなどをしりめに、「おやくそくのしなものをいただきに)
秘書などを尻目に、「お約束の品物をいただきに
(まいりましたよ」と、すてぜりふをのこしながら、)
参りましたよ」と、捨て台詞を残しながら、
(まどりをおしえられてきたとみえて、まよいもせず、)
間取りを教えられてきたとみえて、迷いもせず、
(ぐんぐんおくのほうへ、ふみこんでいきました。)
グングン奥のほうへ、踏み込んで行きました。
(びじゅつしつのいりぐちでは、そうたろうしとこんどうろうじんが)
美術室の入り口では、壮太郎氏と近藤老人が
(まちうけていて、ぞくのひとりにこえをかけました。)
待ち受けていて、賊の一人に声をかけました。
(「やくそくはまちがいないんだろうね。こどもはつれて)
「約束は間違いないんだろうね。子どもは連れて
(きたんだろうね」すると、ぞくはぶあいそうにこたえました。)
来たんだろうね」すると、賊は不愛想に答えました。
(「ごしんぱいにゃ、およびませんよ。こどもさんは、)
「ご心配にゃ、及びませんよ。子どもさんは、
(ちゃんと、もんのそばまでつれてきてありまさあ。)
ちゃんと、門のそばまで連れて来てありまさあ。
(だがね、さがしたってむだですぜ。あっしたちが)
だがね、探したって無駄ですぜ。あっしたちが
(にもつをはこびだすまでは、いくらさがしても)
荷物を運び出すまでは、いくら探しても
(わからねえようにくふうがしてあるんです。)
分からねえように工夫がしてあるんです。
(でなきゃあ、こちとらがあぶないからね」)
でなきゃあ、こちとらが危ないからね」
(こういいすてて、さんにんはどかどかびじゅつしつへ)
こう言い捨てて、三人はドカドカ美術室へ
(はいっていきました。そのへやはくらのような)
入って行きました。 その部屋は蔵のような
(つくりになっていて、うすぐらいでんとうのしたに、)
造りになっていて、薄暗い電灯の下に、
(まるではくぶつかんのようながらすだなが、ぐるっと)
まるで博物館のようなガラス棚が、グルッと
(まわりをとりまいているのです。ゆいしょありそうな)
まわりを取り巻いているのです。由緒ありそうな
(とうけん、かっちゅう、おきもの、てばこのたぐい、びょうぶ、)
刀剣、甲冑、置き物、手箱のたぐい、屏風、
(かけじくなどが、ところせましとならんでいる)
掛け軸などが、所狭しと並んでいる
(いっぽうのすみに、たかさいちめーとるはんほどの、ちょうほうけいの)
一方の隅に、高さ一メートル半ほどの、長方形の
(がらすばこがたっていて、そのなかに)
ガラス箱が立っていて、その中に
(かんぜおんぼさつぞうがあんちしてあるのです。)
観世音菩薩像が安置してあるのです。
(れんげのだいざのうえに、ほんとうのにんげんのはんぶんほどの)
レンゲの台座の上に、本当の人間の半分ほどの
(おおきさの、うすぐろいかんのんさまがすわっておいでに)
大きさの、薄黒い観音様が座っておいでに
(なります。もとはきんいろで、まばゆいおすがただった)
なります。もとは金色で、まばゆいお姿だった
(のでしょうが、いまはただいちめんにうすぐろく、)
のでしょうが、今はただ一面に薄黒く、
(きているひだのおおいころもも、)
着ているヒダの多い衣も、
(ところどころすりやぶれています。でも、さすがはめいしょうのさく。)
所々すり破れています。でも、さすがは名匠の作。
(そのえんまんにゅうわなおかおだちはいまにもわらいだすかと)
その円満柔和なお顔立ちは今にも笑いだすかと
(おもわれるばかり、いかなるあくにんも、このおすがたを)
思われるばかり、いかなる悪人も、このお姿を
(はいしては、がっしょうしないではいられないほどにみえます。)
拝しては、合掌しないではいられないほどにみえます。
(さんにんのどろぼうは、さすがにきがひけるのか、)
三人の泥棒は、さすがに気がひけるのか、
(ぶつぞうのにゅうわなおすがたをよくみないで、すぐさま)
仏像の柔和なお姿をよく見ないで、すぐさま
(しごとにかかりました。「ぐずぐずしちゃいられねえ。)
仕事にかかりました。「グズグズしちゃいられねえ。
(おおいそぎだぜ」ひとりがもってきた、)
大急ぎだぜ」 一人が持ってきた、
(うすぎたないぬののようなものをひろげると、)
薄汚い布のような物を広げると、
(もうひとりのおとこがそのはしをもって、)
もう一人の男がその端を持って、
(ぶつぞうのがらすばこのそとを、ぐるぐるとまいていきます。)
仏像のガラス箱の外を、グルグルと巻いていきます。
(たちまち、それとわからないぬのづつみが、できあがって)
たちまち、それと分からない布包みが、出来上がって
(しまいました。「ほら、いいか。よこにしたら)
しまいました。「ほら、いいか。横にしたら
(こわれるぜ。よいしょ、よいしょ」ぼうじゃくぶじんの)
壊れるぜ。よいしょ、よいしょ」 傍若無人の
(かけごえまでして、さんにんのやつはそのにもつを、)
かけ声までして、三人の奴はその荷物を、
(おもてへはこびだします。そうたろうしとこんどうろうじんは、)
表へ運びだします。壮太郎氏と近藤老人は、
(それがとらっくのうえにつみこまれるまで、さんにんの)
それがトラックの上に積み込まれるまで、三人の
(そばにつききって、みはっていました。ぶつぞうだけ)
そばに付ききって、見張っていました。仏像だけ
(もちさられて、そうじくんがもどってこないのでは、)
持ち去られて、壮二君が戻ってこないのでは、
(なんにもならないからです。やがて、とらっくの)
なんにもならないからです。やがて、トラックの
(えんじんがそうぞうしくなりはじめ、くるまはいまにも)
エンジンが騒々しく鳴り始め、車は今にも
(しゅっぱつしそうになりました。「おい、そうじさんは)
出発しそうになりました。「おい、壮二さんは
(どこにいるのだ。そうじさんをもどさないうちは、)
どこに居るのだ。壮二さんを戻さないうちは、
(このくるまをしゅっぱつさせないぞ。もし、むりにしゅっぱつすれば、)
この車を出発させないぞ。もし、無理に出発すれば、
(すぐけいさつにしらせるぞ」こんどうろうじんは、もう)
すぐ警察に知らせるぞ」 近藤老人は、もう
(いっしょうけんめいでした。「しんぱいするなってえことよ。)
一生懸命でした。「心配するなってえことよ。
(ほら、うしろをむいてごらん。ぼっちゃんは、)
ほら、後ろを向いてごらん。坊ちゃんは、
(もうちゃんとげんかんにおいでなさらあ」ふりむくと、)
もうちゃんと玄関においでなさらあ」振り向くと、
(なるほど、げんかんのでんとうのまえに、おおきいのと)
なるほど、玄関の電灯の前に、大きいのと
(ちいさいのと、ふたつのくろいひとかげがみえます。)
小さいのと、二つの黒い人影が見えます。
(そうたろうしとろうじんが、それにきをとられている)
壮太郎氏と老人が、それに気をとられている
(うちに、「あばよ」と、ぞくたちはさっていきました。)
うちに、「あばよ」と、賊たちは去っていきました。
(とらっくはもんのまえをはなれて、みるみるちいさく)
トラックは門の前を離れて、みるみる小さく
(なっていきました。ふたりは、いそいでげんかんの)
なっていきました。 二人は、急いで玄関の
(ひとかげのそばへ、ひきかえしました。「おや、)
人影のそばへ、引きかえしました。「おや、
(こいつらは、さっきからもんのところにいた、)
こいつらは、さっきから門の所に居た、
(おやこのこじきじゃないか。)
親子の乞食じゃないか。
(さては、いっぱいくわされたかな」)
さては、一杯食わされたかな」