『怪人二十面相』江戸川乱歩14
○少年探偵団シリーズ第1作品『怪人二十面相』
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問題文
(かれはあっとさけんで、たじたじあとずさりを)
彼はアッと叫んで、タジタジあとずさりを
(しながら、ていこうしないといわないばかりに、)
しながら、抵抗しないといわないばかりに、
(おもわずりょうてをかたのところまで、あげてしまいました。)
思わず両手を肩のところまで、あげてしまいました。
(「おとしあな」)
「落とし穴」
(さすがのかいとうも、これにはきもをつぶしました。)
さすがの怪盗も、これには肝をつぶしました。
(あいてがにんげんならば、いくらぴすとるをむけられても)
相手が人間ならば、いくらピストルを向けられても
(おどろくようなぞくではありませんが、ふるいふるい)
驚くような賊ではありませんが、古い古い
(かまくらじだいのかんのんさまが、いきなりうごきだした)
鎌倉時代の観音さまが、いきなり動きだした
(のですから、びっくりしないではいられません。)
のですから、ビックリしないではいられません。
(びっくりしたというよりも、ぞーっとこころのそこから)
ビックリしたというよりも、ゾーッと心の底から
(おそろしさがこみあげてきたのです。こわいゆめを)
恐ろしさが込み上げてきたのです。怖い夢を
(みているような、あるいはおばけにでもでくわした)
見ているような、あるいはお化けにでも出くわした
(ような、なんともえたいのしれないきょうふです。)
ような、なんとも得体の知れない恐怖です。
(だいたんふてきのにじゅうめんそうが、かわいそうにまっさおになって、)
大胆不敵の二十面相が、可哀想に真っ青になって、
(たじたじあとずさりをして、ごめんなさいという)
タジタジあとずさりをして、ごめんなさいという
(ように、ろうそくをゆかにおいて、りょうてをたかくあげて)
ように、ロウソクを床に置いて、両手を高くあげて
(しまいました。すると、またしても、)
しまいました。 すると、またしても、
(じつにおそろしいことがおこったのです。かんのんさまが、)
実に恐ろしいことが起こったのです。観音さまが、
(れんげのだいざからおりて、ゆかのうえに、ぬっと)
レンゲの台座から下りて、床の上に、ヌッと
(たちあがったではありませんか。そして、じっと)
立ち上がったではありませんか。そして、ジッと
(ぴすとるのねらいをさだめながら、いっぽ、にほ、)
ピストルのねらいをさだめながら、一歩、二歩、
(さんぽと、ぞくのほうへちかづいてくるのです。)
三歩と、賊のほうへ近づいて来るのです。
(「き、きさま、いったい、な、なにものだ」にじゅうめんそうは、)
「き、貴様、一体、な、何者だ」二十面相は、
(おいつめられたけもののような、うめきごえを)
追いつめられたケモノのような、うめき声を
(たてました。「わしか、わしははしばけの)
たてました。「わしか、わしは羽柴家の
(だいやもんどをとりかえしにきたのだ。たったいま、)
ダイヤモンドを取り返しに来たのだ。たった今、
(あれをわたせば、いちめいをたすけてやる」)
あれを渡せば、一命を助けてやる」
(おどろいたことに、ぶつぞうがものをいったのです。)
驚いたことに、仏像が物を言ったのです。
(おもおもしいこえでめいれいしたのです。「ははあ、きさま、)
重々しい声で命令したのです。「ははあ、貴様、
(はしばけのまわしものだな。ぶつぞうにへんそうして、)
羽柴家の回し者だな。仏像に変装して、
(おれのかくれがをつきとめにきたんだな」)
おれの隠れ家を突き止めに来たんだな」
(あいてがにんげんらしいことがわかると、ぞくはすこしげんき)
相手が人間らしいことが分かると、賊は少し元気
(づいてきました。でも、えたいのしれないきょうふが、)
づいてきました。でも、得体のしれない恐怖が、
(まったくなくなったわけではありません。)
まったく無くなった訳ではありません。
(というのも、にんげんがへんそうしたにしては、ぶつぞうが)
というのも、人間が変装したにしては、仏像が
(あまりにもちいさすぎたからです。たちあがったところを)
余りにも小さすぎたからです。立ち上がった所を
(みると、じゅうに、さんのこどものせたけしかありません。)
見ると、十二、三の子どもの背丈しかありません。
(そのいっすんぼうしみたいなやつが、おちつきはらって、)
その一寸法師みたいな奴が、落ちつき払って、
(ろうじんのようなおもおもしいこえでものをいっている)
老人のような重々しい声で物を言っている
(のですから、じつになんともけいようのできない)
のですから、実になんとも形容の出来ない
(きみわるさです。「で、だいやもんどをわたさないと)
気味悪さです。「で、ダイヤモンドを渡さないと
(いったら、どうするのだ」ぞくは、おそるおそる)
言ったら、どうするのだ」 賊は、おそるおそる
(あいてのきをひいてみるように、たずねました。)
相手の気を引いてみるように、たずねました。
(「おまえのいのちがなくなるだけさ。このぴすとるはね、)
「お前の命が無くなるだけさ。このピストルはね、
(いつもおまえがつかうような、おもちゃじゃないんだぜ」)
いつもお前が使うような、オモチャじゃないんだぜ」
(かんのんさまは、このいかにもごいんきょらしいはくはつの)
観音さまは、このいかにもご隠居らしい白髪の
(ろうじんが、にじゅうめんそうのへんそうすがたであることを、)
老人が、二十面相の変装姿であることを、
(ちゃんとしりぬいているようすでした。たぶん、)
ちゃんと知り抜いている様子でした。多分、
(さっきのてしたのものとのかいわをきいて、それと)
さっきの手下の者との会話を聞いて、それと
(さっしたのでしょう。「おもちゃでないというしょうこを、)
察したのでしょう。「オモチャでないという証拠を、
(みせてあげようか」そういったかとおもうと、)
見せてあげようか」 そう言ったかと思うと、
(かんのんさまのみぎてがひょいとうごきました。とどうじに、)
観音さまの右手がヒョイと動きました。と同時に、
(はっととびあがるようなおそろしいものおと。へやの)
ハッと跳び上がるような恐ろしい物音。部屋の
(いっぽうのまどがらすががらがらと、くだけおちました。)
一方の窓ガラスがガラガラと、くだけ落ちました。
(ぴすとるからは、じつだんがとびだしたのです。)
ピストルからは、実弾が飛び出したのです。
(いっすんぼうしのかんのんさまは、めちゃめちゃにとびちる)
一寸法師の観音さまは、めちゃめちゃに飛び散る
(がらすのはへんをちらっとみると、すばやく)
ガラスの破片をチラッと見ると、素早く
(ぴすとるのねらいをもとにもどし、いんどじん)
ピストルのねらいを元に戻し、インド人
(みたいなまっくろなかおで、うすきみわるくにやにやと)
みたいな真っ黒な顔で、薄気味悪くニヤニヤと
(わらいました。みるとぞくのむねにつきつけられた)
笑いました。 見ると賊の胸に突きつけられた
(ぴすとるのつつぐちからは、まだうすあおいけむりが)
ピストルの筒口からは、まだ薄青い煙が
(たちのぼっています。にじゅうめんそうは、このくろいかおを)
立ちのぼっています。 二十面相は、この黒い顔を
(したちいさなじんぶつのきもったまが、おそろしくなって)
した小さな人物の肝っ玉が、恐ろしくなって
(しまいました。こんなめちゃくちゃならんぼうものは、)
しまいました。 こんな滅茶苦茶な乱暴者は、
(なにをしだすか、しれたものではない。ほんとうに)
何をしだすか、知れたものではない。本当に
(ぴすとるでうちころすきかもしれない。)
ピストルで撃ち殺す気かもしれない。
(たとえ、そのだんがんからうまくのがれたとしても、)
例え、その弾丸から上手くのがれたとしても、
(あんなおおきなものおとをたてられては、ふきんのじゅうみんに)
あんな大きな物音をたてられては、付近の住民に
(あやしまれて、どんなことになるかそうぞうもつかない。)
怪しまれて、どんなことになるか想像もつかない。
(「しかたがない。だいやもんどはかえしてやろう」)
「仕方がない。ダイヤモンドは返してやろう」
(ぞくはあきらめたようにいいすてて、へやのすみの)
賊は諦めたように言い捨てて、部屋の隅の
(おおきなつくえのまえへいき、つくえのあしをくりぬいた)
大きな机の前へ行き、机の足をくりぬいた
(かくしひきだしから、ろっこのほうせきをとりだすと、)
隠し引き出し
(てのひらにのせて、かちゃかちゃいわせながら)
てのひらにのせて、カチャカチャいわせながら
(もどってきました。だいやもんどは、)
戻ってきました。 ダイヤモンドは、
(ぞくのてのなかでおどるたびに、ゆかのろうそくの)
賊の手の中で踊る度に、床のロウソクの
(ひかりをうけて、ぎらぎらとにじのようにかがやいています。)
光をうけて、ギラギラと虹のように輝いています。
(「さあ、これだ。よくしらべて、うけとりたまえ」)
「さあ、これだ。よく調べて、受け取りたまえ」
(いっすんぼうしのかんのんさまは、ひだりてをのばして)
一寸法師の観音さまは、左手を伸ばして
(それをうけとると、ろうじんのようなしわがれたこえで、)
それを受け取ると、老人のようなしわがれた声で、
(わらいました。「ははは、かんしんかんしん、さすがの)
笑いました。「ハハハ、感心感心、さすがの
(にじゅうめんそうも、やっぱりいのちはおしいとみえるね」)
二十面相も、やっぱり命は惜しいとみえるね」
(「うむ、ざんねんながらこうさんだよ。)
「うむ、残念ながら降参だよ。
(ところで、いったいきみはなにものだね。)
ところで、一体きみは何者だね。
(このにじゅうめんそうをこんなめにあわせるやつが)
この二十面相をこんな目にあわせる奴が
(いるとは、おれもいがいだったよ。こうがくのために)
いるとは、おれも意外だったよ。後学のために
(なまえをおしえてくれないか」「ははは、おほめに)
名前を教えてくれないか」「ハハハ、お褒めに
(あずかり、こうえいだね。なまえかい。)
あずかり、光栄だね。名前かい。
(それはきみがろうやへ、はいってからのおたのしみに)
それはきみが牢屋へ、入ってからのお楽しみに
(のこしておこう。おまわりさんがおしえてくれること)
残しておこう。お巡りさんが教えてくれること
(だろうよ」かんのんさまは、かちほこったように)
だろうよ」 観音さまは、勝ち誇ったように
(いいながら、やっぱりぴすとるをかまえたまま、)
言いながら、やっぱりピストルを構えたまま、
(へやのでぐちのほうへ、じりじりあとずさりを)
部屋の出口のほうへ、ジリジリあとずさりを
(はじめました。ぞくのそうくつはつきとめたし、)
始めました。 賊の巣窟は突き止めたし、
(だいやもんどはとりもどしたし、あとはぶじにこの)
ダイヤモンドは取り戻したし、あとは無事にこの
(やしきからでて、ふきんのけいさつへかけこみさえすれば)
屋敷から出て、付近の警察へ駆けこみさえすれば
(よいのです。このかんのんさまにへんそうしたじんぶつが)
よいのです。 この観音さまに変装した人物が
(なにものであるかは、どくしゃしょくん、とっくにごしょうちでしょう。)
何者であるかは、読者諸君、とっくにご承知でしょう。