『妖怪博士』江戸川乱歩39
○少年探偵団シリーズ第3作品『妖怪博士』
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順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
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1 | berry | 6911 | S++ | 7.1 | 97.0% | 620.7 | 4425 | 135 | 100 | 2024/10/08 |
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問題文
(おとうさんもおかあさんも、のぶおくんのはなしがすすむにつれて、)
お父さんもお母さんも、信雄君の話が進むにつれて、
(まるで、そのおそろしいてんじょうがうごいて、いまめのまえで、)
まるで、その恐ろしい天井が動いて、いま目の前で、
(わがこのずじょうにおちるかのようにはらはらしながら、)
我が子の頭上に落ちるかのようにハラハラしながら、
(てにあせをにぎってききいるのでした。「そしてね、)
手に汗を握って聞きいるのでした。「そしてね、
(ぼくにあのてがみをかかせると、にじゅうめんそうはどっかへ)
ぼくにあの手紙を書かせると、二十面相はどっかへ
(いってしまって、いくらまっても、そのみょうなへや)
行ってしまって、いくら待っても、そのみょうな部屋
(からだしてくれないのです。てんじょうは、もうおちて)
から出してくれないのです。天井は、もう落ちて
(こなくなったけれど、ぼくはこのままうえじにするん)
こなくなったけれど、ぼくはこのまま飢え死にするん
(じゃないかと、どんなにおそろしかったかしれや)
じゃないかと、どんなに恐ろしかったか知れや
(しない。ながいながいあいだ、ほんとうにぼくはいっかげつもたった)
しない。長い長い間、本当にぼくは一ヶ月も経った
(かのようにおもったけれど、まだおなじひのよるだった)
かのように思ったけれど、まだ同じ日の夜だった
(のですね。いまからさんじゅっぷんほどまえにね、とつぜん、そのてつの)
のですね。今から三十分ほど前にね、突然、その鉄の
(へやのそとでかちかちっていうおとがしたんです。)
部屋の外でカチカチっていう音がしたんです。
(にじゅうめんそうがどあのかぎをまわして、ひらくようにしたん)
二十面相がドアのカギを回して、ひらくようにしたん
(ですよ。そしてね、「さあ、もういいからかえれ」って)
ですよ。そしてね、「さあ、もういいから帰れ」って
(いうんです。で、ぼくはいきなりどあをひらくと、)
言うんです。で、ぼくはいきなりドアをひらくと、
(そとへとびだしたんだけれど、もうそこにはだれも)
外へ飛び出したんだけれど、もうそこにはだれも
(いないのです。にじゅうめんそうは、どっかへすがたをかくして)
いないのです。二十面相は、どっかへ姿を隠して
(しまったんです。ぼくはこわくってしょうがないので、)
しまったんです。 ぼくは怖くってしょうがないので、
(そのままいっしょうけんめいにげんかんのほうへかけだしちゃった。)
そのまま一生懸命に玄関のほうへ駆け出しちゃった。
(するとね、ぼくのうしろからおっかけるように、)
するとね、ぼくの後ろから追っかけるように、
(あいつのしわがれたこえがひびいてきたんです。わすれ)
あいつのしわがれた声が響いてきたんです。忘れ
(られやしない。おうちへかえったら、おとうさんに、)
られやしない。おうちへ帰ったら、お父さんに、
(こういえって。あのね、おとうさんにね、すぐ)
こう言えって。あのね、お父さんにね、すぐ
(あけちたんていへでんわをかけなさいって」「ふーん、)
明智探偵へ電話をかけなさいって」「ふーん、
(あけちさんへでんわをかけろだと。それは、いったいどういう)
明智さんへ電話をかけろだと。それは、一体どういう
(ことかね。あいつがでたらめをいったんじゃない)
ことかね。あいつがデタラメを言ったんじゃない
(かね」「そうじゃありません。おなじことをにども)
かね」「そうじゃありません。同じことを二度も
(さんども、ぼくがげんかんをでるまで、うしろからどなって)
三度も、ぼくが玄関を出るまで、後ろからどなって
(いたんですもの。これはたいせつなことだから、わすれるな)
いたんですもの。これは大切なことだから、忘れるな
(って」「そうか。それじゃ、ともかくでんわをかけて)
って」「そうか。それじゃ、ともかく電話をかけて
(みよう。あけちさんのこともしんぱいだからね。たぶん、まだ)
みよう。明智さんのことも心配だからね。多分、まだ
(かえっていないだろうが、いまごろまでなにもほうこくしてこない)
帰っていないだろうが、今頃まで何も報告してこない
(のはおかしいよ」こいずみしは、おかあさんとのぶおくんを)
のはおかしいよ」 小泉氏は、お母さんと信雄君を
(ざしきへのこしたまま、いそいでしょさいにいって、あけちの)
座敷へ残したまま、急いで書斎に行って、明智の
(じむしょへでんわをかけました。するといがいにも、)
事務所へ電話をかけました。すると意外にも、
(あけちたんていはじむしょにいるというへんじで、まもなく)
明智探偵は事務所に居るという返事で、まもなく
(でんわぐちにあけちのこえがきこえてきたではありませんか。)
電話口に明智の声が聞こえてきたではありませんか。
(「のぶおは、いまかえりました。どうもありがとう。)
「信雄は、いま帰りました。どうもありがとう。
(わたしは、あなたがこちらへおたちよりくださること)
私は、あなたがこちらへお立ち寄りくださること
(とばかりおもっていましたが」「え、なんですって。)
とばかり思っていましたが」「え、なんですって。
(おっしゃっていることがよくわかりませんが、)
おっしゃっていることがよく分かりませんが、
(なにかのまちがいじゃありませんか」あけちは、みょうな)
なにかの間違いじゃありませんか」 明智は、みょうな
(へんじをしました。「いいえ、あなたのおかげで、)
返事をしました。「いいえ、あなたのおかげで、
(こどもがぶじにかえったともうしあげているのですよ」)
子どもが無事に帰ったと申し上げているのですよ」
(「それがわからないのです。わたしは、あるようけんでがいしゅつ)
「それが分からないのです。私は、ある用件で外出
(して、いまかえったところなのですが、あなたの)
して、今帰ったところなのですが、あなたの
(こどもさんのことなど、すこしもぞんじませんよ。ああ、)
子どもさんのことなど、少しも存知ませんよ。ああ、
(そうそう、ゆうがたあなたから、なにかじゅうだいなそうだんがある)
そうそう、夕方あなたから、何か重大な相談がある
(っていう、おでんわがありましたね。しかし、すぐ)
っていう、お電話がありましたね。しかし、すぐ
(そのあと、あなたごじしんで、もうこなくていいと)
そのあと、あなたご自身で、もう来なくていいと
(でんわがあったので、わたしはほかのようけんでがいしゅつしたのです」)
電話があったので、私は他の用件で外出したのです」
(「え、わたしがにどおでんわしたといいましたか」「そう)
「え、私が二度お電話したと言いましたか」「そう
(ですよ。おわすれになったのですか」「それはへんです。)
ですよ。お忘れになったのですか」「それは変です。
(わたしはいちどおでんわしただけです。いや、そんなこと)
私は一度お電話しただけです。いや、そんなこと
(よりも、あなたはちゃんとああしてわたしのおたくへ、)
よりも、あなたはちゃんとああして私のお宅へ、
(おいでくださったじゃありませんか。そして、)
おいでくださったじゃありませんか。そして、
(このわたしにへんそうなさって、れいのかけじくを」「もしもし、)
この私に変装なさって、例の掛け軸を」「もしもし、
(どうもぼくには、ふにおちないことばかりです。)
どうもぼくには、腑に落ちないことばかりです。
(これには、なにかじじょうがあるのかもしれません。いったい、)
これには、何か事情があるのかもしれません。一体、
(なにがあったのですか。おこさんがどうかなさった)
何があったのですか。お子さんがどうかなさった
(のですか」こいずみしはそれをきくと、なんともいえない)
のですか」 小泉氏はそれを聞くと、何ともいえない
(おどろきでまっさおになってしまいました。「それじゃあ、)
驚きで真っ青になってしまいました。「それじゃあ、
(あなたはわたしのいえへいちどもいらっしゃらなかった、)
あなたは私の家へ一度もいらっしゃらなかった、
(というのですか」「そうです。いちども、おうかがいして)
と言うのですか」「そうです。一度も、お伺いして
(いません。ところがあなたのほうでは、わたしがおうかがい)
いません。ところがあなたのほうでは、私がお伺い
(したとおっしゃるのですね。おかしいですね。)
したとおっしゃるのですね。おかしいですね。
(もしや、これはにじゅうめんそうにかんけいしているのではない)
もしや、これは二十面相に関係しているのではない
(でしょうか」「そうです。にじゅうめんそうが、こどもをかんきん)
でしょうか」「そうです。二十面相が、子どもを監禁
(したのです。しかし、そのこどもはいま、べつじょうなくきたく)
したのです。しかし、その子どもは今、別状なく帰宅
(しましたがね。それにしても、どうもふにおちない)
しましたがね。それにしても、どうも腑に落ちない
(ことがあるのですが」にじゅうめんそうときくと、でんわぐちの)
ことがあるのですが」二十面相と聞くと、電話口の
(あけちのこえのちょうしが、にわかにかわりました。「まって)
明智の声の調子が、にわかに変わりました。「待って
(ください。こんなことをでんわでおはなしするのも)
ください。こんなことを電話でお話しするのも
(なんですから、おそくてもおかまいなければ、わたしがいまから)
なんですから、遅くてもお構いなければ、私が今から
(おじゃましたいとおもうのですが」「そうですか。そう)
お邪魔したいと思うのですが」「そうですか。そう
(してくだされば、わたしのほうもたいへんありがたいです。)
してくだされば、私のほうも大変ありがたいです。
(では、おまちしていますので、すぐいらして)
では、お待ちしていますので、すぐいらして
(ください」じゅわきをおいて、こいずみしはきつねにでも)
ください」 受話器を置いて、小泉氏はキツネにでも
(つままれたようなかおでいすにかけたまま、しばらくは)
つままれたような顔でイスにかけたまま、しばらくは
(みうごきもしないでぼんやりしてしまいました。)
身動きもしないでボンヤリしてしまいました。
(それからさんじゅっぷんご、つまりしんやのいちじはんごろ、こいずみしの)
それから三十分後、つまり深夜の一時半頃、小泉氏の
(おうせつしつにあるまるてーぶるのまわりには、いまじどうしゃで)
応接室にある丸テーブルの周りには、いま自動車で
(かけつけたばかりのあけちたんていとじょしゅのこばやししょうねん、)
駆けつけたばかりの明智探偵と助手の小林少年、
(やぬしのこいずみしとのぶおくんのよにんがかおをちかづけて、)
家主の小泉氏と信雄君の四人が顔を近づけて、
(ねっしんにはなしあっていました。「いったい、これはどうした)
熱心に話し合っていました。「一体、これはどうした
(ことでしょう。わたしには、なにがなんだかさっぱりわけが)
ことでしょう。私には、何がなんだかさっぱり訳が
(わかりませんよ。あなたのおはなしをきくに、さっきの)
分かりませんよ。あなたのお話を聞くに、さっきの
(あけちさんはにせものだったとしかかんがえられません。それに)
明智さんは偽者だったとしか考えられません。それに
(しても、いまこうしておはなししているあなたと、まったく)
しても、今こうしてお話ししているあなたと、まったく
(そっくりのじんぶつでしたよ。ああまでよくにたかえだまが)
ソックリの人物でしたよ。ああまでよく似た替え玉が
(あるものでしょうかね」こいずみしはあけちたんていのことばを)
あるものでしょうかね」 小泉氏は明智探偵の言葉を
(しんじていないようです。「そのにせもののあけちが、さらに)
信じていないようです。「その偽者の明智が、更に
(あなたにもへんそうしたのですね。そのへんそうぶりはどう)
あなたにも変装したのですね。その変装ぶりはどう
(でしたか」あけちがたずねると、こいずみしはびっくりした)
でしたか」明智がたずねると、小泉氏はビックリした
(ようなかおをしました。「おお、そういえば、じつに)
ような顔をしました。「おお、そういえば、実に
(ふしぎでした。そのおとこは、たったじゅっぷんかにじゅっぷんで、)
不思議でした。その男は、たった十分か二十分で、
(わたしそっくりのすがたにばけてしまったのです。あいつは、)
私ソックリの姿に化けてしまったのです。あいつは、
(まるでばけものです。じゆうじざいにかおのかたちがかえられる)
まるでバケモノです。自由自在に顔の形が変えられる
(かいぶつです」)
怪物です」