紫式部 源氏物語 夕顔 4 與謝野晶子訳

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(いよのすけがむすめをけっこんさせて、こんどはさいくんをどうはんしていくといううわさは、ふたつとも)

伊予介が娘を結婚させて、今度は細君を同伴して行くという噂は、二つとも

(げんじがむかんしんできいていられないことだった。こいびとがおんごくへつれられていくと)

源氏が無関心で聞いていられないことだった。恋人が遠国へつれられて行くと

(きいては、さいかいをきながにまっていられなくなって、もういちどだけあうことは)

聞いては、再会を気長に待っていられなくなって、もう一度だけ逢うことは

(できぬかと、こぎみをみかたにしてうつせみにせっきんするさくをこうじたが、そんなきかいを)

できぬかと、小君を味方にして空蝉に接近する策を講じたが、そんな機会を

(つくるということはあいてのおんなもおなじもくてきをもっているばあいだってこんなんなので)

作るということは相手の女も同じ目的を持っている場合だって困難なので

(あるのに、うつせみのほうではげんじとこいをすることのふにあいを、おもいすぎるほどに)

あるのに、空蝉のほうでは源氏と恋をすることの不似合いを、思い過ぎるほどに

(おもっていたのであるから、このうえつみをかさねようとはしないのであって、とうてい)

思っていたのであるから、この上罪を重ねようとはしないのであって、とうてい

(げんじのおもうようにはならないのである。うつせみはそれでもじぶんがぜんぜんげんじから)

源氏の思うようにはならないのである。空蝉はそれでも自分が全然源氏から

(わすれられるのもひじょうにかなしいことだとおもって、おりおりのてがみのへんじなどに)

忘れられるのも非常に悲しいことだと思って、おりおりの手紙の返事などに

(やさしいこころをみせていた。なんでもなくかくかんたんなもじのなかにかれんなこころが)

優しい心を見せていた。なんでもなく書く簡単な文字の中に可憐な心が

(まじっていたり、げいじゅつてきなぶんしょうをかいたりしてげんじのこころをひくものが)

混じっていたり、芸術的な文章を書いたりして源氏の心を惹くものが

(あったから、れいたんなうらめしいひとであって、しかもわすれられないおんなになっていた。)

あったから、冷淡な恨めしい人であって、しかも忘れられない女になっていた。

(もうひとりのおんなはたにんとけっこんをしてもおもいどおりにうごかしうるおんなだと)

もう一人の女は他人と結婚をしても思いどおりに動かしうる女だと

(おもっていたから、いろいろなうわさをきいてもげんじはなんともおもわなかった。)

思っていたから、いろいろな噂を聞いても源氏は何とも思わなかった。

(あきになった。このごろのげんじはあるはってんをとげたはつこいのそのつづきのくもんのなかに)

秋になった。このごろの源氏はある発展を遂げた初恋のその続きの苦悶の中に

(いて、しぜんさだいじんけへかようこともとだえがちになってうらめしがられていた。)

いて、自然左大臣家へ通うことも途絶えがちになって恨めしがられていた。

(ろくじょうのきじょとのかんけいも、そのこいをえるいぜんほどのねつをまたもつことのできない)

六条の貴女との関係も、その恋を得る以前ほどの熱をまた持つことのできない

(なやみがあった。じぶんのたいどによっておんなのめいよがきずつくことになってはならないと)

悩みがあった。自分の態度によって女の名誉が傷つくことになってはならないと

(おもうが、むちゅうになるほどそのひとのこいしかったこころといまのこころとは、たしょうへだたりの)

思うが、夢中になるほどその人の恋しかった心と今の心とは、多少懸隔の

(あることだった。ろくじょうのきじょはあまりにものをおもいこむせいしつだった。げんじよりは)

あることだった。六条の貴女はあまりにものを思い込む性質だった。源氏よりは

など

(やっつうえのにじゅうごであったから、ふにあいなあいてとこいにおちて、すぐにまた)

八歳上の二十五であったから、不似合いな相手と恋に堕ちて、すぐにまた

(あいされぬものおもいにしずむうんめいなのだろうかと、まちあかしてしまうよるなどには)

愛されぬ物思いに沈む運命なのだろうかと、待ち明かしてしまう夜などには

(はんもんすることがおおかった。 きりのこくおりたあさ、かえりをそそのかされて、)

煩悶することが多かった。 霧の濃くおりた朝、帰りをそそのかされて、

(ねむそうなふうでたんそくをしながらげんじがでていくのを、きじょのにょうぼうのちゅうじょうが)

睡むそうなふうで嘆息をしながら源氏が出て行くのを、貴女の女房の中将が

(こうしをいっけんだけあげて、おんなあるじにみおくらせるためにきちょうをよこへひいてしまった。)

格子を一間だけ上げて、女主人に見送らせるために几帳を横へ引いてしまった。

(それできじょはあたまをあげてそとをながめていた。いろいろにさいたうえこみのはなに)

それで貴女は頭を上げて外をながめていた。いろいろに咲いた植え込みの花に

(こころがひかれるようで、たちどまりがちにげんじはあるいていく。ひじょうにうつくしい。)

心が引かれるようで、立ち止まりがちに源氏は歩いて行く。非常に美しい。

(ろうのほうへいくのにちゅうじょうがともをしていった。このじせつにふさわしいうすむらさきのうすものの)

廊のほうへ行くのに中将が供をして行った。この時節にふさわしい淡紫の薄物の

(もをきれいにむすびつけたちゅうじょうのこしつきがえんであった。げんじはふりかえって)

裳をきれいに結びつけた中将の腰つきが艶であった。源氏は振り返って

(まがりかどのこうらんのところへしばらくちゅうじょうをひきすえた。なおしゅじゅうのれいをくずさない)

曲がり角の高欄の所へしばらく中将を引き据えた。なお主従の礼をくずさない

(たいどもひたいがみのかかりぎわのあざやかさもすぐれてゆうびなちゅうじょうだった。 )

態度も額髪のかかりぎわのあざやかさもすぐれて優美な中将だった。

(「さくはなにうつるちょうなはつつめどもおらですぎうきけさのあさがお )

「咲く花に移るてふ名はつつめども折らで過ぎうき今朝の朝顔

(どうすればいい」 こういってげんじはおんなのてをとった。ものなれたふうで、)

どうすればいい」 こう言って源氏は女の手を取った。物馴れたふうで、

(すぐに、 )

すぐに、

(あさぎりのはれまもまたぬけしきにてはなにこころをとめぬとぞみる )

朝霧の晴れ間も待たぬけしきにて花に心をとめぬとぞ見る

(という。げんじのしょうてんをはずしてあるじのじじょとしてのあいさつをしたのである。)

と言う。源氏の焦点をはずして主人の侍女としての挨拶をしたのである。

(うつくしいわらわざむらいのかっこうのよいすがたをしたこが、さしぬきのはかまをつゆでぬらしながら、)

美しい童侍の恰好のよい姿をした子が、指貫の袴を露で濡らしながら、

(くさばなのなかへはいっていってあさがおのはなをもってきたりもするのである。このあきの)

草花の中へはいって行って朝顔の花を持って来たりもするのである。この秋の

(にわはえにしたいほどのおもむきがあった。げんじをとおくからしっているほどのひとでも)

庭は絵にしたいほどの趣があった。源氏を遠くから知っているほどの人でも

(そのびをけいあいしないものはない、じょうしゅをかいしないやまのおとこでも、やすみばしょには)

その美を敬愛しない者はない、情趣を解しない山の男でも、休み場所には

(さくらのかげをえらぶようなわけで、そのみぶんみぶんによってあいしているむすめをげんじのにょうぼうに)

桜の蔭を選ぶようなわけで、その身分身分によって愛している娘を源氏の女房に

(させたいとおもったり、そうとうなおんなであるとおもういもうとをもったあにが、ぜひげんじの)

させたいと思ったり、相当な女であると思う妹を持った兄が、ぜひ源氏の

(でいりするいえのめしつかいにさせたいとかみなおもった。ましてなにかのばあいには)

出入りする家の召使にさせたいとか皆思った。まして何かの場合には

(やさしいことばをげんじからかけられるにょうぼう、このちゅうじょうのようなおんなはおろそかに)

優しい言葉を源氏からかけられる女房、この中将のような女はおろそかに

(このこうふくをおもっていない。じょうじんになろうなどとはおもいもよらぬことで、)

この幸福を思っていない。情人になろうなどとは思いも寄らぬことで、

(おんなあるじのところへまいにちおいでになればどんなにうれしいであろうと)

女主人の所へ毎日おいでになればどんなにうれしいであろうと

(おもっているのであった。)

思っているのであった。

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