紫式部 源氏物語 榊 8 與謝野晶子訳

順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
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1 | berry | 7144 | 王 | 7.3 | 97.6% | 665.3 | 4872 | 119 | 73 | 2025/02/27 |
2 | nao@koya | 4391 | C+ | 4.5 | 95.7% | 1075.5 | 4945 | 222 | 73 | 2025/03/30 |
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問題文
(げんじはないしのかみとまたあたらしくつくることのできたかんけいによっても、すきをまったく)
源氏は尚侍とまた新しく作ることのできた関係によっても、隙をまったく
(おみせにならないちゅうぐうをごりっぱであるとみとめながらも、こいするこころにうらめしくも)
お見せにならない中宮をごりっぱであると認めながらも、恋する心に恨めしくも
(かなしくもおもうことがおおかった。ごしょへさんだいすることもきのすすまない)
悲しくも思うことが多かった。御所へ参内することも気の進まない
(げんじであったが、そのためにとうぐうにおめにかからないことをさびしくおもっていた。)
源氏であったが、そのために東宮にお目にかからないことを寂しく思っていた。
(とうぐうのためにはほかのこうえんしゃがなく、ただげんじだけをちゅうぐうもちからにしておいでに)
東宮のためにはほかの後援者がなく、ただ源氏だけを中宮も力にしておいでに
(なったが、いまになってもげんじはみやをごとうわくさせるようなことをときどきした。)
なったが、今になっても源氏は宮を御当惑させるようなことを時々した。
(いんがさいごまでひみつのかたはしすらごぞんじなしにおかくれになったことでも、)
院が最後まで秘密の片はしすらご存じなしにお崩れになったことでも、
(みやはおそろしいつみであるとかんじておいでになったのに、いまさらまた)
宮は恐ろしい罪であると感じておいでになったのに、今さらまた
(あくみょうのたつことになっては、じぶんはともかくもとうぐうのためにかならずおおきなふこうが)
悪名の立つことになっては、自分はともかくも東宮のために必ず大きな不幸が
(おこるであろうと、みやはごしんぱいになって、げんじのこいをぶつりきでとめようと、)
起こるであろうと、宮は御心配になって、源氏の恋を仏力で止めようと、
(ひそかにきとうまでもさせてできるかぎりのことをつくしてげんじのじょうえんから)
ひそかに祈祷までもさせてできる限りのことを尽くして源氏の情炎から
(みをかわしておいでになるが、あるときおもいがけなくげんじがごしんじょにちかづいた。)
身をかわしておいでになるが、ある時思いがけなく源氏が御寝所に近づいた。
(しんちょうにけいかくされたことであったからみやさまにはゆめのようであった。げんじがみこころを)
慎重に計画されたことであったから宮様には夢のようであった。源氏が御心を
(うごかそうとしたのはいつわらぬまことをもったうつくしいことばではあったが、みやはあくまでも)
動かそうとしたのは偽らぬ誠を盛った美しい言葉ではあったが、宮はあくまでも
(れいせいをおうしないにならなかった。ついにはおむねのいたみがおこってきて)
冷静をお失いにならなかった。ついにはお胸の痛みが起こってきて
(おくるしみになった。みょうぶとかべんとかひみつにあずかっているにょうぼうがおどろいて)
お苦しみになった。命婦とか弁とか秘密に与っている女房が驚いて
(いろいろなせわをする。げんじはみやがうらめしくてならないうえに、このよが)
いろいろな世話をする。源氏は宮が恨めしくてならない上に、この世が
(まっくらになったきになってぼうぜんとしてあさになってもそのままごしんしつに)
真暗になった気になって呆然として朝になってもそのまま御寝室に
(とどまっていた。ごびょうきをききつたえてごちょうだいのまわりをにょうぼうがひんぱんに)
とどまっていた。御病気を聞き伝えて御帳台のまわりを女房が頻繁に
(おうらいすることにもなって、げんじはむいしきにぬりごめ(おくないのくら)のなかへ)
往来することにもなって、源氏は無意識に塗籠(屋内の蔵)の中へ
(おしいれられてしまった。げんじのうわぎなどをそっともってきたにょうぼうも)
押し入れられてしまった。源氏の上着などをそっと持って来た女房も
(おそろしがっていた。みやはみらいとげんざいをごひかんあそばしたあまりに)
怖ろしがっていた。宮は未来と現在を御悲観あそばしたあまりに
(のぼせをおおぼえになって、よくあさになってもおからだはへいじょうのようでなかった。)
逆上をお覚えになって、翌朝になってもおからだは平常のようでなかった。
(あにぎみのひょうぶきょうのみやとかちゅうぐうのだいぶなどがさんでんし、いのりのそうをむかえようなどと)
兄君の兵部卿の宮とか中宮大夫などが参殿し、祈りの僧を迎えようなどと
(いわれているのをげんじはくるしくきいていたのである。ひがくれるころにやっと)
言われているのを源氏は苦しく聞いていたのである。日が暮れるころにやっと
(ごびょうのうはおさまったふうであった。げんじがぬりごめでいちにちをくらしたとも)
御病悩はおさまったふうであった。源氏が塗籠で一日を暮らしたとも
(ちゅうぐうさまはごぞんじでなかった。みょうぶやべんなどもごしんぱいをさせまいために)
中宮様はご存じでなかった。命婦や弁なども御心配をさせまいために
(もうさなかったのである。みやはひのおましへでてすわっておいでになった。)
申さなかったのである。宮は昼の御座へ出てすわっておいでになった。
(ごかいふくになったものらしいといって、ひょうぶきょうのみやもおかえりになり、)
御恢復になったものらしいと言って、兵部卿の宮もお帰りになり、
(おいまのにんずうがすくなくなった。へいぜいからごくしたしくおつかいになるひとは)
お居間の人数が少なくなった。平生からごく親しくお使いになる人は
(おおくなかったので、そうしたひとたちだけが、そこここのきちょうのうしろや)
多くなかったので、そうした人たちだけが、そこここの几帳の後ろや
(からかみのかげなどにじしていた。みょうぶなどは、 「どうくふうしてたいしょうさんを)
襖子の蔭などに侍していた。命婦などは、 「どう工夫して大将さんを
(そっとだしておかえししましょう。またそばへおいでになると)
そっと出してお帰ししましょう。またそばへおいでになると
(こんやもごびょうきにおなりあそばすでしょうから、みやさまがおきのどくですよ」)
今夜も御病気におなりあそばすでしょうから、宮様がお気の毒ですよ」
(などとささやいていた。げんじはぬりごめのとをはじめからほそめにあけてあったところへ)
などとささやいていた。源氏は塗籠の戸を初めから細目にあけてあった所へ
(てをかけて、そっとあけてから、びょうぶとかべのあいだをつたってみやのおちかくへでてきた。)
かけて、そっとあけてから、屏風と壁の間を伝って宮のお近くへ出て来た。
(ごぞんじのないみやのおよこがおをかげからよくみることのできるよろこびに)
ご存じのない宮のお横顔を蔭からよく見ることのできる喜びに
(げんじはむねをおどらせなみだもながしているのである。)
源氏は胸をおどらせ涙も流しているのである。
(「まだわたくしはくるしい。しぬのではないかしら」)
「まだ私は苦しい。死ぬのではないかしら」
(ともいってそとのほうをながめておいでになるよこがおがひじょうにえんである。)
とも言って外のほうをながめておいでになる横顔が非常に艶である。
(これだけでもめしあがるようにとおもって、にょうぼうたちがもってきた)
これだけでも召し上がるようにと思って、女房たちが持って来た
(おかしのだいがある、そのほかにもはこのふたなどにかんじよくちょうりされたものが)
お菓子の台がある、そのほかにも箱の蓋などに感じよく調理された物が
(つまれてあるが、みやはそれらにおきがないようなふうで、ものおもいのおおい)
積まれてあるが、宮はそれらにお気がないようなふうで、物思いの多い
(ようすをしてしずかにひとところをながめておいでになるのがおうつくしかった。かみのしつ、)
様子をして静かに一所をながめておいでになるのがお美しかった。髪の質、
(あたまのかたち、かみのかかりぎわなどのうつくしさはにしのたいのひめぎみとそっくりであった。)
頭の形、髪のかかりぎわなどの美しさは西の対の姫君とそっくりであった。
(よくにたことなどをちかごろははじめほどかんぜずにいたげんじは、いまさらのように)
よく似たことなどを近ごろは初めほど感ぜずにいた源氏は、今さらのように
(おどろくべくこくじしたにじょせいであるとおもって、くるしいかたこいのやりばしょを)
驚くべく酷似した二女性であると思って、苦しい片恋のやり場所を
(じぶんはもっているのだというきがすこしした。こうがなところも)
自分は持っているのだという気が少しした。高雅な所も
(べつじんとはおもえないのであるが、はつこいのみやはおもいなしか)
別人とは思えないのであるが、初恋の宮は思いなしか
(いちだんすぐれたものにみえた。かれいなきのはなたれることは)
一段すぐれたものに見えた。華麗な気の放たれることは
(むかしにましたおすがたであるとおもったげんじはぜんごもぼうきゃくして、そっとしずかに)
昔にましたお姿であると思った源氏は前後も忘却して、そっと静かに
(ちょうだいへつたっていき、みやのおめしもののつまさきをてでひいた。げんじのふくのくんこうのかが)
帳台へ伝って行き、宮のお召し物の褄先を手で引いた。源氏の服の薫香の香が
(さっとたって、みやはようすをおさとりになった。おどろきとおそれにみやはまえへ)
さっと立って、宮は様子をお悟りになった。驚きと恐れに宮は前へ
(ひれふしておしまいになったのである。せめてみかえってもいただけないのかと、)
ひれ伏しておしまいになったのである。せめて見返ってもいただけないのかと、
(げんじはあきたらずもおもい、うらめしくもおもって、おすそをてにもって)
源氏は飽き足らずも思い、恨めしくも思って、お裾を手に持って
(ひきよせようとした。みやはうわぎをげんじのてにとめて、ごじしんはそとのほうへ)
引き寄せようとした。宮は上着を源氏の手にとめて、御自身は外のほうへ
(おのきになろうとしたが、みやのおぐしはおめしものとともにおとこのてがおさえていた。)
お退きになろうとしたが、宮のお髪はお召し物とともに男の手がおさえていた。
(みやはかなしくておじしんのはっこうであることをおおもいになるのであったが、)
宮は悲しくてお自身の薄倖であることをお思いになるのであったが、
(ひじょうにいたわしいごようすにみえた。げんじもこんにちのたかいちいなどはみなわすれて、)
非常にいたわしい御様子に見えた。源氏も今日の高い地位などは皆忘れて、
(たましいもてんとうさせたふうになきなきうらみをいうのであるが、みやはこころのそこから)
魂も顛倒させたふうに泣き泣き恨みを言うのであるが、宮は心の底から
(おくやしそうでおへんじもあそばさない。ただ、 「わたくしはからだがいまひじょうに)
おくやしそうでお返辞もあそばさない。ただ、 「私はからだが今非常に
(よくないのですから、こんなときでないきかいがありましたら)
よくないのですから、こんな時でない機会がありましたら
(くわしくおはなしをしようとおもいます」 とおいいになるだけであるのに、)
詳しくお話をしようと思います」 とお言いになるだけであるのに、
(げんじのほうではくるしいおもいをつげるのにせんげんばんごをついやしていた。)
源氏のほうでは苦しい思いを告げるのに千言万語を費やしていた。
(さすがにみにしんでおおもわれになることもまじっていたにちがいない。)
さすがに身に沁んでお思われになることも混じっていたに違いない。
(いぜんになかったことではないが、またもつみをかさねることは)
以前になかったことではないが、またも罪を重ねることは
(たえがたいことであるとおぼしめすみやは、やわらかい、なつかしいふうはうしなわずに、)
堪えがたいことであると思召す宮は、柔らかい、なつかしいふうは失わずに、
(しかもせまるげんじをつよくさけておいでになる。ただこんなふうで)
しかも迫る源氏を強く避けておいでになる。ただこんなふうで
(こんやもあけていく。このうえでちからでかつことはなすにしのびないきよい)
今夜も明けていく。この上で力で勝つことはなすに忍びない清い
(けだかさのそなわったかたであったから、げんじは、 「わたくしはこれだけでまんぞくします。)
気高さの備わった方であったから、源氏は、 「私はこれだけで満足します。
(せめてこんやほどにせっきんするのをおゆるしくだすって、こんごもときどきはわたくしのこころを)
せめて今夜ほどに接近するのをお許しくだすって、今後も時々は私の心を
(きいてくださいますなら、わたくしはそれいじょうのぶれいをしようとはおもいません」)
聞いてくださいますなら、私はそれ以上の無礼をしようとは思いません」
(こんなふうにいってゆだんをおさせしようとした。こんごのばあいのために。)
こんなふうに言って油断をおさせしようとした。今後の場合のために。