夜長姫と耳男15

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坂口安吾の小説です。青空文庫から引用
底本:「坂口安吾全集 12」筑摩書房
   1999(平成11)年1月20日初版第1刷発行
底本の親本:「新潮 第四九巻第六号」
   1952(昭和27)年6月1日発行
初出:「新潮 第四九巻第六号」
   1952(昭和27)年6月1日発行
入力:砂場清隆
校正:田中敬三
2006年2月21日作成
青空文庫作成ファイル
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問題文

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(おれのみろくはどうやらひめのむじゃきなえがおにちかづいてきた。)

オレのミロクはどうやらヒメの無邪気な笑顔に近づいてきた。

(つぶらなめ。せんたんにしゅぎょくをはらんだようなみずみずしいまるみをおびたはな。)

ツブラな目。尖端に珠玉をはらんだようなミズミズしいまるみをおびた鼻。

(だが、そのようなかおのかたちはとくにぎじゅつをようすることではない。)

だが、そのような顔のかたちは特に技術を要することではない。

(おれがせいこんかたむけてたちむかわねばならぬものは、)

オレが精魂かたむけて立向わねばならぬものは、

(あどけないえがおのひみつであった。)

あどけない笑顔の秘密であった。

(いってんのかげりもなくさえたあかるいむじゃきなえがお。)

一点の翳りもなく冴えた明るい無邪気な笑顔。

(そこにはちをこのむひとすじのきざしもしめされていない。)

そこには血を好む一筋のキザシも示されていない。

(まじんにつうじるいかなるいろも、いかなるにおいもしめされていない。)

魔神に通じるいかなる色も、いかなる匂いも示されていない。

(ただあどけないどうじょのものがえがおのすべてで、)

ただあどけない童女のものが笑顔の全てで、

(どこにもひみつのないものだった。)

どこにも秘密のないものだった。

(それがひめのえがおのひみつであった。)

それがヒメの笑顔の秘密であった。

(「ひめのかおは、かたちのほかになにかがにおっているのかもしれないな。)

「ヒメの顔は、形のほかに何かが匂っているのかも知れないな。

(おうごんをしぼったつゆでうぶゆをつかったからひめのからだは)

黄金をしぼった露で産湯をつかったからヒメのからだは

(うまれながらにかがやいておうごんのにおいがするといわれているが、)

生れながらにかがやいて黄金の匂いがすると云われているが、

(ぞくのめはむしろするどくひみつをいあてることがあるものだ。)

俗の眼はむしろ鋭く秘密を射当てることがあるものだ。

(ひめのかおをつつんでいるめにみえぬにおいを、)

ヒメの顔をつつんでいる目に見えぬ匂いを、

(おれののみがきざみださなければならないのだな」)

オレのノミが刻みださなければならないのだな」

(おれはそんなことをかんがえた。)

オレはそんなことを考えた。

(そして、このあどけないえがおがいつおれをころすかもしれないかおだとかんがえると、)

そして、このあどけない笑顔がいつオレを殺すかも知れない顔だと考えると、

(そのおそれがおれのしごとのしんぼうになった。)

その怖れがオレの仕事の心棒になった。

など

(ふとてをやすめてきがつくと、)

ふと手を休めて気がつくと、

(そのおそれが、だきしめてもたりないほどなつかしくこころにしみるときがあった。)

その怖れが、だきしめても足りないほどなつかしく心にしみる時があった。

(ひめがおれのこやへあらわれて、)

ヒメがオレの小屋へ現れて、

(「きょうもひとがしんだわ」)

「今日も人が死んだわ」

(というとき、おれはなにもいうことがなくて、)

と云うとき、オレは何も言うことがなくて、

(おおむねひめのえがおをみつめているばかりであった。)

概ねヒメの笑顔を見つめているばかりであった。

(おれはひめのほんしんをきいてみたいとはおもわなかった。)

オレはヒメの本心を訊いてみたいとは思わなかった。

(ぞくねんはむえきなことだ。)

俗念は無益なことだ。

(ひめにほんしんがあるとすれば、あどけないえがおが、そしてにおいがすべてなのだ。)

ヒメに本心があるとすれば、あどけない笑顔が、そして匂いが全てなのだ。

(すくなくともたくみにとってはそれがすべてであるし、)

すくなくともタクミにとってはそれが全てであるし、

(おれのうつしみにとってもそれがすべてであろう。)

オレの現身にとってもそれが全てであろう。

(さんねんむかし、おれがひめのかおにみとれたときから、)

三年昔、オレがヒメの顔に見とれたときから、

(それがぜんぶであることがすでにさだめられたようなものだった。)

それが全部であることがすでに定められたようなものだった。

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