心理試験5/江戸川乱歩

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1 ヌオー 5263 B++ 5.6 93.5% 795.6 4496 308 65 2024/11/28
2 もっちゃん先生 4872 B 5.0 96.0% 893.6 4543 189 65 2024/11/29

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問題文

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(ろうばのざいさんはさいとうのはらまきのなかからはっけんされたのだから、それいがいのかねが、)

老婆の財産は齋藤の腹巻の中から発見されたのだから、それ以外の金が、

(ろうばのざいさんのいちぶだとだれがそうぞうしよう。)

老婆の財産の一部だと誰れが想像しよう。

(しかし、これがぐうぜんであろうか。じけんのとうじつ、げんばからあまりとおくないところで、)

併し、これが偶然であろうか。事件の当日、現場から余り遠くない所で、

(しかもだいいちのけんぎしゃのしんゆうであるおとこが(さいとうのもうしたてによればかれはうえきばちの)

しかも第一の嫌疑者の親友である男が(齋藤の申立によれば彼は植木鉢の

(かくしばしょをもしっていたのだ)このたいきんをしゅうとくしたというのが、)

隠し場所をも知っていたのだ)この大金を拾得したというのが、

(これがはたしてぐうぜんだろうか。はんじはそこになにかのいみをはっけんしようとして)

これが果して偶然だろうか。判事はそこに何かの意味を発見しようとして

(もだえた。はんじのもっともざんねんにおもったのは、ろうばがしへいのばんごうをひかえて)

悶えた。判事の最も残念に思ったのは、老婆が紙幣の番号を控えて

(おかなかったことだ。それさえあれば、このうたがわしいかねが、じけんにかんけいがあるか)

置かなかったことだ。それさえあれば、この疑わしい金が、事件に関係があるか

(ないかも、ただちにはんめいするのだが。)

ないかも、直ちに判明するのだが。

(「どんなちいさなことでも、なにかひとつたしかなてがかりをつかみさえすればなあ」)

「どんな小さなことでも、何か一つ確かな手掛りを掴みさえすればなあ」

(はんじはぜんさいのうをかたむけてかんがえた。げんばのとりしらべもいくどとなくくりかえされた。)

判事は全才能を傾けて考えた。現場の取調べも幾度となく繰返された。

(ろうばのしんぞくかんけいもじゅうぶんちょうさした。しかしなんのえるところもない。)

老婆の親族関係も十分調査した。併し何の得る所もない。

(そうしてまたはんつきばかりいたずらにけいかした。)

そうして又半月ばかり徒らに経過した。

(たったひとつのかのうせいは、とはんじがかんがえた。ふきやがろうばのちょきんをはんぶんぬすんで、)

たった一つの可能性は、と判事が考えた。蕗屋が老婆の貯金を半分盗んで、

(のこりをもとどおりにかくしておき、ぬすんだかねをさいふにいれて、おうらいでひろったように)

残りを元通りに隠して置き、盗んだ金を財布に入れて、往来で拾った様に

(みせかけたとすいていすることだ。だが、そんなばかなことがありえるだろうか。)

見せかけたと推定することだ。だが、そんな馬鹿なことがあり得るだろうか。

(そのさいふもしらべてみたけれど、これというてがかりもない。それに、)

その財布も調べてみたけれど、これという手掛かりもない。それに、

(ふきやはへいきで、とうじつさんぽのみちすがら、ろうばのいえのまえをとおったともうしたてているでは)

蕗屋は平気で、当日散歩のみちすがら、老婆の家の前を通ったと申立ているでは

(ないか。ではいったいだれをうたがったらいいのだ。)

ないか。では一体誰れを疑ったらいいのだ。

(そこにはかくしょうというものがひとつもなかった。しょちょうなどのいうように、さいとうをうたがえば)

そこには確証というものが一つもなかった。署長等の云う様に、齋藤を疑えば

など

(さいとうらしくもある。だがまた、ふきやとてもうたがってうたがえぬことはない。ただ、)

齋藤らしくもある。だが又、蕗屋とても疑って疑えぬことはない。ただ、

(わかっているのは、このいっかげつはんのあらゆるそうさくのけっか、かれらふたりをのぞいては、)

分っているのは、この一ヶ月半のあらゆる捜索の結果、彼等二人を除いては、

(ひとりのけんぎしゃもそんざいしないということだった。ばんさくつきたかさもりはんじはいよいよ)

一人の嫌疑者も存在しないということだった。万策尽きた笠森判事は愈々

(おくのてをだすときだとおもった。かれはふたりのけんぎしゃにたいして、かれのじゅうらいしばしば)

奥の手を出す時だと思った。彼は二人の嫌疑者に対して、彼の従来屡々

(せいこうしたしんりしけんをほどこそうとけっしんした。)

成功した心理試験を施そうと決心した。

(ふきやせいいちろうは、じけんのにさんにちごにだいいっかいめのしょうかんをうけたさい、かかりのよしんはんじが)

蕗屋清一郎は、事件の二三日後に第一回目の召喚を受けた際、係りの予審判事が

(ゆうめいなしろうとしんりがくしゃのかさもりしだということをしった。そして、とうじすでに)

有名な素人心理学者の笠森氏だということを知った。そして、当時已に

(このさいごのばあいをよそうしてすくなからずろうばいした。さすがのかれも、にほんにたとい)

この最後の場合を予想して少なからず狼狽した。流石の彼も、日本に仮令

(いちこじんのどうらくけからとはいえ、しんりしけんなどというものがおこなわれていようとは)

一個人の道楽気からとは云え、心理試験などというものが行われていようとは

(かれは、しゅしゅのしょもつによって、しんりしけんのなにものであるかを、)

彼は、種々の書物によって、心理試験の何物であるかを、

(しりすぎるほどしっていたのだ。)

知り過ぎる程知っていたのだ。

(このだいだげきに、もはやへいきをよそおってつうがくをつづけるよゆうをうしなったかれは、)

この大打撃に、最早平気を装って通学を続ける余裕を失った彼は、

(びょうきとしょうしてげしゅくのいっしつにとじこもった。そして、ただ、いかにしてこのなんかんを)

病気と称して下宿の一室にとじ籠った。そして、ただ、如何にしてこの難関を

(きりぬけるべきかをかんがえた。ちょうど、さつじんをじっこうするいぜんにやったとおなじ、)

切抜けるべきかを考えた。丁度、殺人を実行する以前にやったと同じ、

(あるいはそれいじょうの、めんみつとねっしんをもってかんがえつづけた。)

或はそれ以上の、綿密と熱心を以て考え続けた。

(かさもりはんじははたしてどのようなしんりしけんをおこなうであろうか。それはとうてい)

笠森判事は果してどの様な心理試験を行うであろうか。それは到底

(よちすることができない。で、ふきやはしっているかぎりのほうほうをおもいだして、)

予知することが出来ない。で、蕗屋は知っている限りの方法を思出して、

(そのひとつひとつについて、なんとかたいさくがないものかとかんがえてみた。しかし、)

その一つ一つについて、何とか対策がないものかと考えて見た。併し、

(がんらいしんりしけんというものが、きょぎのもうしたてをあばくためにできているのだから、)

元来心理試験というものが、虚偽の申立をあばく為に出来ているのだから、

(それをさらにいつわるということは、りろんじょうふかのうらしくもあった。)

それを更らに偽るということは、理論上不可能らしくもあった。

(ふきやのかんがえによれば、しんりしけんはそのせいしつによってふたつにたいべつすることができた。)

蕗屋の考によれば、心理試験はその性質によって二つに大別することが出来た。

(ひとつはじゅんぜんたるせいりじょうのはんのうによるもの、いまひとつはことばをつうじて)

一つは純然たる生理上の反応によるもの、今一つは言葉を通じて

(おこなわれるものだ。ぜんしゃは、しけんしゃがはんざいにかんれんしたさまざまのしつもんをはっして、)

行われるものだ。前者は、試験者が犯罪に関聯した様々の質問を発して、

(ひけんしゃのしんたいじょうのびさいなはんのうを、てきとうなそうちによってきろくし、)

被験者の身体上の微細な反応を、適当な装置によって記録し、

(ふつうにじんもんによっては、とうていしることのできないしんじつをつかもうとするほうほうだ。)

普通に訊問によっては、到底知ることの出来ない真実を掴もうとする方法だ。

(それは、にんげんは、たといことばのうえで、またはがんめんひょうじょうのうえでうそをついても、)

それは、人間は、仮令言葉の上で、又は顔面表情の上で嘘をついても、

(しんけいそのもののこうふんはかくすことができず、それがびさいなにくたいじょうのちょうこうとして)

神経そのものの興奮は隠すことが出来ず、それが微細な肉体上の徴候として

(あらわれるものだというりろんにもとづくので、そのほうほうとしては、たとえば、)

現われるものだという理論に基くので、その方法としては、例えば、

(automagraphなどのちからをかりて、てのびさいなうごきをはっけんするほうほう。)

Automagraph等の力を借りて、手の微細な動きを発見する方法。

(あるしゅだんによってがんきゅうのうごきかたをたしかめるほうほう。pneumographに)

ある手段によって眼球の動き方を確かめる方法。Pneumographに

(よってこきゅうのしんせんちそくをはかるほうほう。sphygmographによって)

よって呼吸の深浅遅速を計る方法。Sphygmographによって

(みゃくはくのこうていちそくをはかるほうほう。plethysmographによってししの)

脈搏の高低遅速を計る方法。Plethysmographによって四肢の

(けつりょうをはかるほうほう。galvanometerによっててのひらのびさいなるはっかんを)

血量を計る方法。Galvanometerによって掌の微細なる発汗を

(はっけんするほうほう。ひざのかんせつをかるくうってしょうずるきんにくのしゅうしゅくのたしょうをみるほうほう、)

発見する方法。膝の関節を軽く打って生ずる筋肉の収縮の多少を見る方法、

(そのほかこれらにるいしたしゅしゅさまざまのほうほうがある。)

其外これらに類した種々様々の方法がある。

(たとえば、ふいに「おまえはろうばをころしたほんにんであろう」ととわれたばあい、)

例えば、不意に「お前は老婆を殺した本人であろう」と問われた場合、

(かれはへいきなかおで「なにをしょうこにそんなことをおっしゃるのです」といいかえすだけの)

彼は平気な顔で「何を証拠にそんなことをおっしゃるのです」と云い返す丈けの

(じしんはある。だが、そのときふしぜんにみゃくはくがたかまったり、こきゅうがはやくなるような)

自信はある。だが、その時不自然に脈搏が高まったり、呼吸が早くなる様な

(ことはないだろうか。それをふせぐことはぜったいにふかのうなのではあるまいか。)

ことはないだろうか。それを防ぐことは絶対に不可能なのではあるまいか。

(かれはいろいろなばあいをかていして、こころのうちでじっけんしてみた。ところが、)

彼は色々な場合を仮定して、心の内で実験して見た。ところが、

(ふしぎなことには、じぶんじしんではっしたじんもんは、それがどんなにきわどい、)

不思議なことには、自分自身で発した訊問は、それがどんなにきわどい、

(ふいのおもいつきであっても、にくたいじょうにへんかをおよぼすようにはかんがえられなかった。)

不意の思付きであっても、肉体上に変化を及ぼす様には考えられなかった。

(むろんびさいなへんかをはかるどうぐがあるわけではないから、たしかなことはいえぬけれど、)

無論微細な変化を計る道具がある訳ではないから、確かなことは云えぬけれど、

(しんけいのこうふんそのものがかんじられないいじょうは、そのけっかであるにくたいじょうのへんかも)

神経の興奮そのものが感じられない以上は、その結果である肉体上の変化も

(おこらぬはずだった。)

起らぬ筈だった。

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