紫式部 源氏物語 末摘花 8 與謝野晶子訳

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問題文
(よるになってからたいしゅつするさだいじんたちにともなわれてげんじはそのいえへいった。)
夜になってから退出する左大臣たちに伴われて源氏はその家へ行った。
(ぎょうこうのひをたのしみにして、わかいきんだちがあつまるとそのはなしがでる。ぶきょくの)
行幸の日を楽しみにして、若い公達が集まるとその話が出る。舞曲の
(べんきょうをするのがしごとのようになっていたころであったから、どこのいえでもがっきの)
勉強をするのが仕事のようになっていたころであったから、どこの家でも楽器の
(おとをさせているのである。さだいじんのしそくたちも、へいぜいのがっきのほかのおおひちりき、)
音をさせているのである。左大臣の子息たちも、平生の楽器のほかの大篳篥、
(しゃくはちなどの、おおきいものからふといこえをたてるものもまぜて、おおがかりのがっそうの)
尺八などの、大きいものから太い声をたてる物も混ぜて、大がかりの合奏の
(けいこをしていた。たいこまでもこうらんのところへころがしてきて、そうしたやくは)
稽古をしていた。太鼓までも高欄の所へころがしてきて、そうした役は
(せぬことになっているきんだちがじしんでたたいたりもしていた。こんなことでげんじも)
せぬことになっている公達が自身でたたいたりもしていた。こんなことで源氏も
(まいにちひまがない。こころからこいしいひとのところへいくじかんをぬすむことはできても、)
毎日閑暇がない。心から恋しい人の所へ行く時間を盗むことはできても、
(ひたちのみやへいってよいじかんはなくてくがつがおわってしまった。それでいよいよ)
常陸の宮へ行ってよい時間はなくて九月が終わってしまった。それでいよいよ
(ぎょうこうのひがちかづいてきたわけで、しがくとかなんとかおおさわぎするころに)
行幸の日が近づいて来たわけで、試楽とか何とか大騒ぎするころに
(みょうぶはきゅうちゅうへしゅっしした。 「どうしているだろう」)
命婦は宮中へ出仕した。 「どうしているだろう」
(げんじはふこうなあいてをあわれむこころをかおにみせていた。たゆうのみょうぶはいろいろと)
源氏は不幸な相手をあわれむ心を顔に見せていた。大輔の命婦はいろいろと
(ちかごろのようすをはなした。 「あまりにごれいたんです。そのかたでなくても)
近ごろの様子を話した。 「あまりに御冷淡です。その方でなくても
(みているものがこれではたまりません」 なきだしそうにまでなっていた。)
見ているものがこれではたまりません」 泣き出しそうにまでなっていた。
(わるいかんじもげんじにとめさせないで、きれいにけつまつをつけようとねがっていた)
悪い感じも源氏にとめさせないで、きれいに結末をつけようと願っていた
(このおんなのいしもそんちょうしなかったことで、どんなにうらんでいるだろうとさえ)
この女の意志も尊重しなかったことで、どんなに恨んでいるだろうとさえ
(げんじはおもった。またあのひとじしんはれいのむくちなままでものおもいをつづけていることで)
源氏は思った。またあの人自身は例の無口なままで物思いを続けていることで
(あろうとそうぞうされてかわいそうであった。 「とてもいそがしいのだよ。)
あろうと想像されてかわいそうであった。 「とても忙しいのだよ。
(うらむのはむりだ」 たんそくをして、それから、)
恨むのは無理だ」 歎息をして、それから、
(「こちらがどうおもってもかんじゅせいのとぼしいひとだからね。こらそうともおもって」)
「こちらがどう思っても感受性の乏しい人だからね。懲らそうとも思って」
(こういってげんじはびしょうをみせた。わかいうつくしいこのげんじのかおをみていると、)
こう言って源氏は微笑を見せた。若い美しいこの源氏の顔を見ていると、
(みょうぶもじしんまでがえがおになっていくきがした。だれからもこいのうらみをおわされる)
命婦も自身までが笑顔になっていく気がした。だれからも恋の恨みを負わされる
(せいしゅんをもっていらっしゃるのだ、おんなにどうじょうがうすくてわがままをするのもどうりなのだと)
青春を持っていらっしゃるのだ、女に同情が薄くて我儘をするのも道理なのだと
(おもった。このぎょうこうじゅんびのようがすくなくなってからときどきげんじはひたちのみやへかよった。)
思った。この行幸準備の用が少なくなってから時々源氏は常陸の宮へ通った。
(そのうちわかむらさきをにじょうのいんへむかえたのであったから、げんじはしょうにょおうをあいすることに)
そのうち若紫を二条の院へ迎えたのであったから、源氏は小女王を愛することに
(ぼっとうしていて、ろくじょうのきじょにあうこともすくなくなっていた。ひとのところへ)
没頭していて、六条の貴女に逢うことも少なくなっていた。人の所へ
(かよっていくことはしじゅうこころにかけながらもおっくうにばかりおもえた。)
通って行くことは始終心にかけながらもおっくうにばかり思えた。