紫式部 源氏物語 紅葉賀 4 與謝野晶子訳

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(ふじつぼのみやのじていであるさんじょうのみやへ、ようすをしりたさにげんじがいくとおうみょうぶ、)

藤壺の宮の自邸である三条の宮へ、様子を知りたさに源氏が行くと王命婦、

(ちゅうなごんのきみ、なかつかさなどというにょうぼうがでておうせつした。げんじはよそよそしいあつかいを)

中納言の君、中務などという女房が出て応接した。源氏はよそよそしい扱いを

(されることにふへいであったがじぶんをおさえながらただのはなしをしているときに)

されることに不平であったが自分をおさえながらただの話をしている時に

(ひょうぶきょうのみやがおいでになった。げんじがきているときいてこちらのざしきへ)

兵部卿の宮がおいでになった。源氏が来ていると聞いてこちらの座敷へ

(おいでになった。きじんらしい、そしてえんなみやびおとおみえになるみやを、このまま)

おいでになった。貴人らしい、そして艶な風流男とお見えになる宮を、このまま

(おんなにしたかおをげんじはかりにかんがえてみてもそれはびじんらしくおもえた。ふじつぼのみやの)

女にした顔を源氏はかりに考えてみてもそれは美人らしく思えた。藤壺の宮の

(あにぎみで、またかれんなわかむらさきのちちぎみであることにことさらしたしみをおぼえてげんじは)

兄君で、また可憐な若紫の父君であることにことさら親しみを覚えて源氏は

(いろいろなはなしをしていた。ひょうぶきょうのみやもこれまでよりもうちとけてみえるうつくしい)

いろいろな話をしていた。兵部卿の宮もこれまでよりも打ち解けて見える美しい

(げんじを、むこであるなどとはおしりにもならないで、このひとをおんなにしてみたい)

源氏を、婿であるなどとはお知りにもならないで、この人を女にしてみたい

(などとわかわかしくかんがえておいでになった。よるになるとひょうぶきょうのみやはにょごのみやの)

などと若々しく考えておいでになった。夜になると兵部卿の宮は女御の宮の

(おざしきのほうへはいっておしまいになった。げんじはうらやましくて、むかしはへいかが)

お座敷のほうへはいっておしまいになった。源氏はうらやましくて、昔は陛下が

(まなごとしてよくふじつぼのみすのなかへじぶんをおいれになり、きょうのようにとりつぎが)

愛子としてよく藤壺の御簾の中へ自分をお入れになり、今日のように取り次ぎが

(なかにたつはなしではなしに、みやくちずからのおはなしがうかがえたものであるとおもうと、)

中に立つ話ではなしに、宮口ずからのお話が伺えたものであると思うと、

(いまのみやがうらめしかった。 「たびたびうかがうはずですが、まいってもごようがないと)

今の宮が恨めしかった。 「たびたび伺うはずですが、参っても御用がないと

(しぜんなまけることになります。めいじてくださることがありましたら、ごえんりょなく)

自然怠けることになります。命じてくださることがありましたら、御遠慮なく

(いっておつかわしくださいましたらまんぞくです」 などとかたいあいさつをして)

言っておつかわしくださいましたら満足です」 などと堅い挨拶をして

(げんじはかえっていった。おうみょうぶもさくどうのしようがなかった。みやのおきもちを)

源氏は帰って行った。王命婦も策動のしようがなかった。宮のお気持ちを

(それとなくかんさつしてみても、じぶんのうんめいのかんせいであるものはこのこいである、)

それとなく観察してみても、自分の運命の陥擠であるものはこの恋である、

(げんじをわすれないことはじぶんをほろぼすみちであるということをかこよりもまたつよく)

源氏を忘れないことは自分を滅ぼす道であるということを過去よりもまた強く

(おもっておいでになるごようすであったからてがでないのである。)

思っておいでになる御様子であったから手が出ないのである。

など

(はかないこいであるとしょうきょくてきにかなしむひとはふじつぼのみやであって、せっきょくてきに)

はかない恋であると消極的に悲しむ人は藤壺の宮であって、積極的に

(おもいつめているひとはげんじのきみであった。)

思いつめている人は源氏の君であった。

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