星の王子さま　8

(そうして、すみずみまで すきのないよそおいをおえたというのに、)

そうして、すみずみまで 隙のない装いを終えたというのに、

(あくびをしながらこういった。)

あくびをしながらこう言った。

(「ああ！いまめがさめたところなの・・・ あらしつれい・・・まだかみがくしゃくしゃね・・・」)

「ああ！今目がさめたところなの… あら失礼…まだ髪がくしゃくしゃね…」

(でもちいさなおうじさまは、 かんたんのきもちをおさえることができなかった。)

でも小さな王子さまは、 感嘆の気持ちを抑えることができなかった。

(「なんてきれいなんだ！」)

「なんてきれいなんだ！」

(「そうでしょう？」)

「そうでしょう？」

(はなはしずかにこたえた。)

花は静かに答えた。

(「おひさまといっしょにうまれたんですもの・・・・・・」)

「お日さまと一緒に生まれたんですもの……」

(あんまりひかえめじゃないんだな、 とおうじさまはきがついたが、)

あんまり控えめじゃないんだな、 と王子さまは気がついたが、

(それにしてもむねをうたれるうつくしさだった！)

それにしても胸を打たれる美しさだった！

(「あさごはんのじかんじゃないかしら」)

「朝ごはんの時間じゃないかしら」

(ほどなくはなはいった。)

ほどなく花は言った。

(「わたしにもおねがいできます？・・・・・・」)

「わたしにもお願いできます？……」

(おうじさまはどぎまぎしながら、 じょうろにしんせんなみずをくんでもってきて、)

王子さまはどぎまぎしながら、 じょうろに新鮮な水をくんで持ってきて、

(たっぷりごちそうした。)

たっぷりごちそうした。

(こうしてはなはすぐに、)

こうして花はすぐに、

(ややきむずかしいみえをはっては、 おうじさまをこまらせるようになった。)

やや気むずかしい見栄をはっては、 王子さまを困らせるようになった。

(たとえばあるひ、)

たとえばある日、

(じぶんのよっつのとげのはなしをしながら、 こんなふうにいった。)

自分の四つのトゲの話をしながら、 こんなふうに言った。

(「とらたちが、つめをひからせて、 くるかもしれないでしょ！」)

「トラたちが、爪を光らせて、 来るかもしれないでしょ！」

(「ぼくのほしにとらはいないよ」)

「ぼくの星にトラはいないよ」

(おうじさまはいぎをとなえた。)

王子さまは意義をとなえた。

(「それにとらはくさをたべない」)

「それにトラは草を食べない」

(「わたし、くさじゃありません」)

「わたし、草じゃありません」

(はなはしずかにこたえた。)

花は静かに答えた。

(「ごめん・・・・・・」)

「ごめん……」

(「とらなんかぜんぜんこわくないけど、 かぜがふきこむのはだいきらい。)

「トラなんかぜんぜんこわくないけど、 風が吹きこむのは大きらい。

(ついたてはないのかしら？」)

ついたてはないのかしら？」

(＜かぜがふきこむのはだいきらいって・・・・・・ しょくぶつなのに、こまったものだな＞)

＜風が吹き込むのは大きらいって…… 植物なのに、困ったものだな＞

(おうじさまは、またきがついた。)

王子さまは、また気がついた。

(＜このはなは、なかなかやっかいだ・・・・・・＞)

＜この花は、なかなか厄介だ……＞

(「ゆうがたになったら、 がらすのおおいをかぶせてね。)

「夕方になったら、 ガラスのおおいをかぶせてね。

(あなたのところ、とてもさむいわ。 せつびがわるいのね。)

あなたのところ、とても寒いわ。 設備が悪いのね。

(わたしがまえにいたところは・・・・・・」)

わたしが前にいたところは……」

(そしてくちをつぐんだ。 はなはたねのじょうたいでやってきたのだ。)

そして口をつぐんだ。 花は種の状態でやってきたのだ。

(ほかのせかいのことなどしっているはずがない。)

ほかの世界のことなど知っているはずがない。

(こんなにすぐわかるうそを、 おもわずついてしまったことがきまりわるくて、)

こんなにすぐわかるうそを、 思わずついてしまったことがきまり悪くて、

(はなはに、さんどせきをし、 わるいのはおうじさまのほうにしようとした。)

花は二、三度咳をし、 悪いのは王子さまのほうにしようとした。

(「それで、ついたては？・・・・・・」)

「それで、ついたては？……」

(「さがしにいこうとしたら、 あなたがはなしかけてきたんでしょ！」)

「さがしに行こうとしたら、 あなたが話しかけてきたんでしょ！」

(はなはまたわざとせきをして、おうじさまに、 やっぱりすまなかったとおもわせた。)

花はまたわざと咳をして、王子さまに、 やっぱりすまなかったと思わせた。

(こうしてちいさなおうじさまは、)

こうして小さな王子さまは、

(あいするきもちが おおいにあったにもかかわらず、)

愛する気持ちが おおいにあったにもかかわらず、

(じきにはなのことを しんじることができなくなった。)

じきに花のことを 信じることができなくなった。

(きまぐれなことばをまにうけては、 とてもみじめなきもちにおちこんでいた。)

気まぐれなことばを真に受けては、 とてもみじめな気持ちに落ちこんでいた。

(「あのはなのいうことを、 ぼくはきいちゃいけなかったんだ。」)

「あの花の言うことを、 ぼくは聞いちゃいけなかったんだ。」

(あるひ、おうじさまはぼくにうちあけた。)

ある日、王子さまは僕にうちあけた。

(「はなのいうことなんて、 けっしてきいちゃいけない。)

「花の言うことなんて、 けっして聞いちゃいけない。

(みつめたり、 かおりをかいだりしていればいいんだ。)

見つめたり、 香りをかいだりしていればいいんだ。

(あのはなは、 ぼくのほしをいいかおりでいっぱいにしてくれた。)

あの花は、 ぼくの星をいい香りでいっぱいにしてくれた。

(なのにぼくは、 それをたのしむことができなかった。)

なのにぼくは、 それを楽しむことができなかった。

(とらのつめのはなしだって、うんざりしたけど、)

トラの爪の話だって、うんざりしたけど、

(ほんとはやさしいきもちに なってあげるべきだった・・・・・・」)

ほんとはやさしい気持ちに なってあげるべきだった……」

(さらにいった。)

さらに言った。

(「ぼくはあのころ、 なんにもわかっていなかった！)

「ぼくはあのころ、 なんにもわかっていなかった！

(ことばじゃなくて、してくれたことで、 あのはなをみるべきだった。)

ことばじゃなくて、してくれたことで、 あの花を見るべきだった。

(あのはなはぼくをいいかおりでつつんでくれたし、)

あの花はぼくをいい香りでつつんでくれたし、

(ぼくは、にげだしたりしちゃいけなかった！)

ぼくは、逃げだしたりしちゃいけなかった！

(あれこれいうかげにはあいじょうがじゅんしてるんだね！)

あれこれ言うかげには愛情が盾してるんだね！

(でもぼくはまだ、あまりにこどもで、 あのはなをあいすることができなかった」)

でもぼくはまだ、あまりに子どもで、 あの花を愛することができなかった」