通夜 -1-

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師匠シリーズ
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問題文

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(おんなのこはそのくらいろうかがすきではなかった。)

女の子はその暗い廊下が好きではなかった。

(かびくさくいやなにおいがかべやゆかにしみついているきがして、)

かび臭く嫌な匂いが壁や床に染み付いている気がして、

(そこをとおるときにはどうしてもいきをころしてしまう。)

そこを通るときにはどうしても息を殺してしまう。

(そのろうかのさきにはおじいちゃんのへやがあった。)

その廊下の先にはおじいちゃんの部屋があった。

(おんなのこがうまれたころからずっとそこでねている。)

女の子が生まれたころからずっとそこで寝ている。

(あしがわるいのだときいたけど、どうしてわるくしたのかはしらなかった。)

足が悪いのだと聞いたけど、どうして悪くしたのかは知らなかった。

(むかしはだいくのとうりょうをしていたとじまんげにはなしてくれたことがあったから、)

昔は大工の棟梁をしていたと自慢げに話してくれたことがあったから、

(きっとたかいところからおっこちたんだろうとかってにおもっていた。)

きっと高いところから落っこちたんだろうと勝手に思っていた。

(へやをたずねるとおじいちゃんはいつもよろこんでくれて、)

部屋を訪ねるとおじいちゃんはいつも喜んでくれて、

(おはなしをしてくれたりおかしをくれたり、ときにはおこづかいをくれることもあった。)

お話をしてくれたりお菓子をくれたり、時にはお小遣いをくれることもあった。

(そんなことがおかあさんにしられるとおこられるのはおじいちゃんだった。)

そんなことがお母さんに知られると怒られるのはおじいちゃんだった。

(「ちかごろのよめは、くちのききかたがなっておらん」と)

「近ごろの嫁は、口の利き方がなっておらん」と

(ぶつぶついいながらしょげえり、そんなことがあったよるには)

ぶつぶつ言いながらしょげえり、そんなことがあった夜には

(いたいいたいとおおげさにさわいでおとうさんにきのすむまであしをもませた。)

痛い痛いと大げさに騒いでお父さんに気の済むまで足を揉ませた。

(「あてつけ」ということばをしったのは、)

「あてつけ」と言う言葉を知ったのは、

(そんなときにぼやくおかあさんのくちからだった。)

そんな時にぼやくお母さんの口からだった。

(そのひもおんなのこはみしみしとおとをたてるくらいろうかをとおって)

その日も女の子はミシミシと音を立てる暗い廊下を通って

(そのおくにあるふすまにてをかけた。)

その奥にある襖に手をかけた。

(おじいちゃん、といいながらちゅうごしでふすまをあけ、ひざをするようにへやのなかへ)

おじいちゃん、と言いながら中腰で襖を開け、膝を擦るように部屋の中へ

(すべりこむ。うすぐらいしつないはくうきがにげばもなくよどんでいて、)

滑り込む。薄暗い室内は空気が逃げ場もなく淀んでいて、

など

(そとのろうかよりもいやなにおいがした。)

外の廊下よりも嫌な匂いがした。

(へやのまんなかにふとんがある。)

部屋の真ん中に布団がある。

(おんなのこがおぼえているかぎり、そこにふとんがしかれてないときはなかった。)

女の子が覚えている限り、そこに布団が敷かれてない時はなかった。

(おじいちゃん。)

おじいちゃん。

(ここにくるとしぜんにあまったるいこえがでる。そのごびがひくりとかききえた。)

ここに来ると自然に甘ったるい声が出る。その語尾がひくりと掻き消えた。

(うっすらとふくらんだかけぶとんからかおがでている。)

薄っすらと膨らんだ掛け布団から顔が出ている。

(そのかおのほうから、いつものかびくささではない、いようなにおいがただよってきていた。)

その顔の方から、いつものかび臭さではない、異様な匂いが漂ってきていた。

(つばをのみこみながらめをこらしてちかづいていくと、ろうのようにしろい、)

唾を飲み込みながら目を凝らして近づいていくと、蝋のように白い、

(それでいてこうたくのないかおがてんじょうをあおいでいた。)

それでいて光沢のない顔が天井を仰いでいた。

(くちもとにはなにかえきたいがたれたようなあとがあった。)

口元にはなにか液体が垂れたような跡があった。

(いやなにおいはそこからしているようだ。)

嫌な匂いはそこからしているようだ。

(おじいちゃん。)

おじいちゃん。

(もういちどよびかけてみたが、はんのうはなかった。)

もう一度呼びかけてみたが、反応はなかった。

(ひざがふるえた。)

膝が震えた。

(ねむりがあさく、いつもはだれかがへやにはいってくるだけでおきてしまうのに。)

眠りが浅く、いつもは誰かが部屋に入ってくるだけで起きてしまうのに。

(はいたものがのどにつまったんだとおもった。)

吐いたものが喉に詰まったんだと思った。

(すぐにkきだしてあげないといけない、そうおもってもからだがうごかない。)

すぐに掻き出してあげないといけない、そう思っても身体が動かない。

(へやのなかはひえきっていて、)

部屋の中は冷え切っていて、

(しせんのさきにはいきているもののけはいはまったくなかった。)

視線の先には生きている者の気配はまったくなかった。

(ふとんのはしからてがでていたけれど、しわだらけのそれはちからなく)

布団の端から手が出ていたけれど、皺だらけのそれは力無く

(だらんとのびている。おそるおそるふれてみるが、そのあまりのつめたさに)

だらんと伸びている。恐る恐る触れてみるが、そのあまりの冷たさに

(いきをのんでひっこめた。まるでふきさらしのだいこんをさわるようだった。)

息を呑んで引っ込めた。まるで吹きさらしの大根を触るようだった。

(どうしよう。おじいちゃんがしんじゃった。)

どうしよう。おじいちゃんが死んじゃった。

(おんなのこはうろたえてへやのなかをきょろきょろをみまわした。)

女の子はうろたえて部屋の中をキョロキョロを見回した。

(おとなをよばないといけないというあたりまえことがおもいつけなかった。)

大人を呼ばないといけないというあたりまえことが思いつけなかった。

(どうしようどうしよう。)

どうしようどうしよう。

(さまようおんなのこのしせんのなかに、せのひくいたんすがうつった。)

彷徨う女の子の視線の中に、背の低い箪笥が映った。

(おじいちゃんとおなじくらいとしをとったくろっぽいたんす。)

おじいちゃんと同じくらい年を取った黒っぽい箪笥。

(すすけたそのもくめをみているとじぶんのむねがたかなりはじめていることにきづく。)

煤けたその木目を見ていると自分の胸が高鳴り始めていることに気づく。

(そのたんすのいちばんかのひきだしにはきれいないろのきんちゃくぶくろがしまってあるはずだった。)

その箪笥の一番下の引き出しには綺麗な色の巾着袋が仕舞ってあるはずだった。

(そしてそのふくろのなかには、おおつぶのしんじゅをあしらったゆびわがねむっている。)

そしてその袋の中には、大粒の真珠をあしらった指輪が眠っている。

(おんなのこがいまよりもっとちいかったころ、おじいちゃんがいちどだけ)

女の子が今よりもっと小さかったころ、おじいちゃんが一度だけ

(みせてくれたのだ。)

見せてくれたのだ。

(しんだおばあちゃんのかたみだといっててれたようにわらいながら。)

死んだおばあちゃんの形見だといって照れたように笑いながら。

(おばあちゃんがしぬすこしまえに、)

おばあちゃんが死ぬ少し前に、

(ずっとほしがっていたそのゆびわをこっそりかってあげたのだという。)

ずっと欲しがっていたその指輪をこっそり買ってあげたのだという。

(いまわのきわにゆびにはめてやると、)

今際のきわに指に嵌めてやると、

(おばあちゃんはただぽろぽろとなみだをながしていたそうだ。)

おばあちゃんはただぽろぽろと涙を流していたそうだ。

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