半七捕物帳 筆屋の娘6

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問題文
(「そのむすめはいくつぐらいのこで、どんななりをしていた」)
「その娘は幾つぐらいの子で、どんな装をしていた」
(「じゅうしちはちでしょう。しまだまげにゆって、あかいおびをしめて、)
「十七八でしょう。島田髷に結って、あかい帯をしめて、
(しろいゆかたをきていました」 「どんなかおだ」)
白い浴衣を着ていました」 「どんな顔だ」
(「いろのしろいかわいらしいかおをしていました。どこかのむすめかこまづかいでしょう」)
「色の白い可愛らしい顔をしていました。どこかの娘か小間使でしょう」
(「そのむすめはいままでいちどもかいにきたことはねえか」)
「その娘は今まで一度も買いに来たことはねえか」
(「さあ、どうもみたことはないようです」 「いや、ありがとう」)
「さあ、どうも見たことはないようです」 「いや、ありがとう」
(こぞうにわかれて、あさくさのほうがくへあしをむけると、はんしちはおうらいでげんじにであった。)
小僧に別れて、浅草の方角へ足をむけると、半七は往来で源次に出逢った。
(「おやぶん。なめふでのむすめはどっちもかたいほうで、これまでういたうわさは)
「親分。舐め筆の娘はどっちも堅い方で、これまで浮いた噂は
(なかったようです」と、げんじはすりよってささやいた。)
なかったようです」と、源次は摺り寄ってささやいた。
(「そうか。ときにちょうどいいところであった。おめえにこれからあさくさへいって、)
「そうか。時に丁度いいところで逢った。おめえにこれから浅草へ行って、
(しょうたにもてをかしてもらって、じょうしゅうやにいるほうこうにんのみもとをみんな)
庄太にも手を貸してもらって、上州屋にいる奉公人の身許をみんな
(あらってきてくれ。おとこもおんなも、みんなしらべるんだぜ。いいか」)
洗って来てくれ。男も女も、みんな調べるんだぜ。いいか」
(「わかりました」 「じゃあ、おめえにあずけておれはかえるぜ。だいじょうぶだろうな」)
「判りました」 「じゃあ、おめえに預けて俺は帰るぜ。大丈夫だろうな」
(「だいじょうぶです」 それからに、さんけんようたしをして、はんしちはかんだのうちへかえった。)
「大丈夫です」 それから二、三軒用達しをして、半七は神田の家へ帰った。
(きんじょのせんとうであせをながしてきて、これからゆうめしをくおうとするところへ、)
近所の銭湯で汗を流して来て、これから夕飯を食おうとするところへ、
(おくめがきた。 「いってきましたよ」)
お粂が来た。 「行って来ましたよ」
(「やあ、ごくろう。そこでどうだ」)
「やあ、御苦労。そこでどうだ」
(「もじはるさんのところへいってききましたが、なめふでのむすめにはきょうだいともに)
「文字春さんのところへ行って訊きましたが、舐め筆の娘には姉妹ともに
(わるいうわさなんぞちっともないそうです。おやたちもわるいひとじゃあないようです」)
悪い噂なんぞちっとも無いそうです。親達も悪い人じゃあ無いようです」
(それはげんじのほうこくといっちしていた。しんじゅうのじじつはあとかたもないに)
それは源次の報告と一致していた。心中の事実は跡方もないに
(きまってしまった。)
決まってしまった。
(「でね、にいさん。もじはるさんからいろいろのはなしをきいているうちに、)
三 「でね、兄さん。文字春さんからいろいろの話を聴いているうちに、
(あたしすこしへんだとおもうことがあるんですよ」と、おくめはうちわをかるくつかいながら)
あたし少し変だと思うことがあるんですよ」と、お粂は団扇を軽く使いながら
(いった。 「どんなことだ」)
云った。 「どんなことだ」
(「いもうとのおとしちゃんのほうはいまでもまいにちもじはるさんのところへおけいこに)
「妹のお年ちゃんの方は今でも毎日文字春さんのところへ御稽古に
(くるんですが、なんでもせんげつごろからご、ろくどおとしちゃんがきてけいこを)
来るんですが、なんでも先月頃から五、六度お年ちゃんが来て稽古を
(しているのを、まどのそとからくびをのばして、じっとうちをのぞいている)
しているのを、窓のそとから首を伸ばして、じっと内を覗いている
(むすめがあるんですって」 「じゅうしちはちの、いろじろのかわいらしいむすめじゃねえか」と、)
娘があるんですって」 「十七八の、色白の可愛らしい娘じゃねえか」と、
(はんしちはくちをいれた。)
半七は喙を容れた。
(「よくしっているのね」と、おくめはすずしいめをみはった。「そのむすめはいつでも)
「よく知っているのね」と、お粂は涼しい眼をみはった。「その娘はいつでも
(おとしちゃんのさらっているときにかぎって、そとからのぞいているんですって。)
お年ちゃんの浚っている時に限って、外から覗いているんですって。
(へんじゃありませんか」 「それはどこのむすめだかわからねえのか」)
変じゃありませんか」 「それは何処の娘だか判らねえのか」
(「そりゃあわからないんですけど、ほかのひとのときにはけっしてたっていたことが)
「そりゃあ判らないんですけど、ほかの人の時には決して立っていたことが
(ないんだそうです。なにかわけがあるんでしょう」)
無いんだそうです。なにか訳があるんでしょう」
(「むむ。わけがあるにちげえねえ。それでおれもたいていわかった」と、)
「むむ。訳があるに違えねえ。それでおれも大抵判った」と、
(はんしちはほほえんだ。)
半七はほほえんだ。
(「もうひとつこういうことがあるんです。もじはるさんのうちのきんじょに)
「もう一つ斯ういうことがあるんです。文字春さんの家の近所に
(うまみちのじょうしゅうやのいんきょじょがあるんです。あのおとしちゃんというこは、)
馬道の上州屋の隠居所があるんです。あのお年ちゃんという子は、
(じょうしゅうやからきりょうのぞみでぜひおよめにくれといいこまれているんだと)
上州屋から容貌望みで是非お嫁にくれと云い込まれているんだと
(いうじゃありませんか。そのはなしはなんでもせんげつごろからはじまったんだと)
いうじゃありませんか。その話はなんでも先月頃から始まったんだと
(いうことです。ねえ、そのせんげつごろからもじはるさんのうちのまえにたって、)
いうことです。ねえ、その先月頃から文字春さんの家の前に立って、
(まどからおとしちゃんをのぞいているおんながあるというんですから、そのむすめはきっと)
窓からお年ちゃんを覗いている女があるというんですから、その娘はきっと
(じょうしゅうやのいんきょじょへくるおんなで、そっとおとしちゃんをのぞいているんだろうと)
上州屋の隠居所へ来る女で、そっとお年ちゃんを覗いているんだろうと
(おもうんです。もじはるさんもそんなことをいっていました。けれども、)
思うんです。文字春さんもそんなことを云っていました。けれども、
(かんがえようによっては、それがいろいろにとれますね」)
考えようによっては、それがいろいろに取れますね」