半七捕物帳 三河万歳3
岡本綺堂 半七捕物帳シリーズ 第17話
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問題文
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(「おい、とうふや。いいところでつらをみた。おめえにすこし)
「おい、豆腐屋。いいところで面(つら)を見た。おめえにすこし
(すけてもらいてえことがあるんだが・・・・・・。おめえはかまくらがしの)
助(す)けて貰いてえことがあるんだが……。おめえは鎌倉河岸の
(ゆきだおれをしっているか」)
行き倒れを知っているか」
(「しっています。いまおまえさんのうちへいって、ねえさんから)
「知っています。今おまえさんの家(うち)へ行って、姐(ねえ)さんから
(くわしいはなしをききました。そのゆきだおれのかかえていたいんがものというのが)
詳しい話を聴きました。その行き倒れの抱えていた因果者というのが
(へんじゃありませんか」)
変じゃありませんか」
(「それをすこしあらってみてえんだ。さいぞうがいんがものをかかえて)
「それを少し洗って見てえんだ。才蔵が因果者をかかえて
(ゆきだおれになっている。どうかんがえても、へんじゃねえか」)
行き倒れになっている。どう考えても、変じゃねえか」
(「へんですとも・・・・・・。うっちゃっておくと、よそのなかまにとんだはなげを)
「変ですとも……。打っちゃって置くと、よその仲間に飛んだ鼻毛を
(ぬかれますぜ」
「そんなことがねえともいわれねえ」)
抜かれますぜ」
「そんなことがねえとも云われねえ」
(ふたりはたちばなしでそうだんをきめた。かめきちはおなじこぶんのぜんぱちとてわけをして、)
ふたりは立ち話で相談をきめた。亀吉はおなじ子分の善八と手分けをして、
(かめきちはいんがものしのほうをしらべる。ぜんぱちはまんざいのむれをあさる。)
亀吉は因果者師の方を調べる。善八は万歳の群れをあさる。
(こうしてりょうほうからあらいあげていったら、なにかそこにひとつのてがかりを)
こうして両方から洗いあげて行ったら、何かそこに一つの手掛かりを
(みつけだすであろうとのことであった。)
見つけ出すであろうとのことであった。
(「じゃあ、たのむぜ」)
「じゃあ、頼むぜ」
(かめきちにたのんで、はんしちはみかわちょうのいえへかえった。そのよるのいつつ(ごごはちじ))
亀吉にたのんで、半七は三河町の家へ帰った。その夜の五ツ(午後八時)
(すぎになって、かめきちはさむそうなかおをみかわちょうへもってきた。なにぶんにも)
過ぎになって、亀吉は寒そうな顔を三河町へ持って来た。なにぶんにも
(じぶんひとりではてがまわらないので、えどじゅうのやしやいんがものしを)
自分ひとりでは手が廻らないので、江戸じゅうの香具師や因果者師を
(それからそれへとせんぎしたが、このころにおにっこなどをとりあつかったものもなかった。)
それからそれへと詮議したが、この頃に鬼っ児などを取り扱った者もなかった。
(おにっこなどをとられたものもなかった。やしなかまのせんぎのつるは)
鬼っ児などを取られた者もなかった。香具師仲間の詮議の蔓(つる)は
など
(もうきれた、と、かめきちはらくたんしたようにはなした。)
もう切れた、と、亀吉は落胆したように話した。
(「そうすると、いんがものにはなにもかかりあいのねえしろうとのがきかな」)
「そうすると、因果者には何もかかり合いのねえ素人の餓鬼かな」
(と、はんしちはかんがえながらいった。)
と、半七は考えながら云った。
(「まあ、そうでしょうね。やしのなかまでねこのこをなくしたとかいって)
「まあ、そうでしょうね。香具師の仲間で猫の児をなくしたとか云って
(ちからをおとしているやつがあるそうですが、ねこのこじゃしようがありませんからね」)
力を落している奴があるそうですが、猫の児じゃしようがありませんからね」
(「そうよ、けさのはたしかににんげんのこだ。ねこのこじゃあねえ」)
「そうよ、けさのは確かに人間の子だ。猫の児じゃあねえ」
(いいかけてはんしちはまたかんがえていた。ゆきだおれのさいぞうがふところに)
云いかけて半七は又かんがえていた。行き倒れの才蔵がふところに
(かかえていたのは、けっしてねこのこではなかった。いくらいんがもののおにっこでも)
抱えていたのは、決して猫の児ではなかった。いくら因果者の鬼っ児でも
(それがたしかににんげんのこであるいじょう、それをちくしょうのこといっしょにみなすわけには)
それが確かに人間の子である以上、それを畜生の児と一緒に見なすわけには
(いかなかった。しかしそのいっしょにみなされないものをいっしょにむすびつけて)
行かなかった。しかしその一緒に見なされないものを一緒に結びつけて
(かんがえるのが、じぶんたちのめのつけどころであるとはんしちはおもった。)
考えるのが、自分たちの眼の着けどころであると半七は思った。
(にんげんのことねこのこと、そこにはどういうふしぎのいんねんがからまっているか)
人間の子と猫の児と、そこにはどういう不思議の因縁がからまっているか
(ということをかれはいろいろにかんがえてみた。)
ということを彼はいろいろに考えてみた。
(「そこで、そのなくしたとかいうねこのこはなんだ。きんめかぎんめか、)
「そこで、そのなくしたとかいう猫の児はなんだ。金眼か銀眼か、
(それともしっぽがに、さんぼんあるとでもいうのか」)
それとも尻尾が二、三本あるとでもいうのか」
(「それはききませんでした。ねこのこじゃあしようがねえとおもったもんですから」)
「それは聞きませんでした。猫の児じゃあしようがねえと思ったもんですから」
(と、かめきちはきまりがわるそうにあたまをかいた。)
と、亀吉はきまりが悪そうに頭を搔いた。
(「すると、そのおにっことねこのことなにかかかりあいがあるんでしょうか」)
「すると、その鬼っ児と猫の児と何か係り合いがあるんでしょうか」
(「そりゃあまだわからねえ。が、それがどうもきになる。ごくろうだが)
「そりゃあまだ判らねえ。が、それがどうも気になる。御苦労だが
(もういちどいって、そのねこのこをどうしてなくしたのか。)
もう一度行って、その猫の児をどうしてなくしたのか。
(そのねこはどういうねこかくわしくきいてきてくれ」)
その猫はどういう猫か詳しく訊いて来てくれ」
(「ようごぜえます。ぜんぱちのほうからはなんにもいってきませんかえ」)
「ようごぜえます。善八の方からはなんにも云って来ませんかえ」
(「あいつのほうからはさたなしだ。だが、あいつのほうはちっとめんどうだから)
「あいつの方からは沙汰なしだ。だが、あいつの方はちっと面倒だから
(すぐにはいくめえ。なにしろたのむよ」)
すぐには行くめえ。なにしろ頼むよ」
(かめきちはしょうちしてかえった。)
亀吉は承知して帰った。
