風の又三郎 5

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プレイ回数750難易度(4.8) 3854打 長文
九月二日 佐太郎の木ペン
宮沢賢治 作 全文

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問題文

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(さあ、するとあっちでもこっちでも、おおさわぎがはじまりました。)

さあ、するとあっちでもこっちでも、大さわぎがはじまりました。

(なかにもまたさぶろうのすぐよこのよねんせいのつくえのさたろうが、)

中にも又三郎のすぐ横の四年生の机の佐太郎が、

(いきなりてをのばして、さんねんせいのかよのえんぴつをひらりととってしまったのです。)

いきなり手をのばして、三年生のかよの鉛筆をひらりととってしまったのです。

(かよはさたろうのいもうとでした。)

かよは佐太郎の妹でした。

(するとかよは、)

するとかよは、

(「うわああいなきぺんとってわかんないな。」といいながら、)

「うわあ兄(アイ)な木ぺん取ってわかんないな。」といいながら、

(とりかえそうとしますとさたろうが、)

取り返そうとしますと佐太郎が、

(「わあこいつおれのだなあ。」といいながらえんぴつをふところのなかへいれて、)

「わあこいつおれのだなあ。」といいながら鉛筆をふところの中へ入れて、

(あとはしなじんがおじぎするときのように、)

あとはシナ人がおじぎするときのように、

(りょうてをそでへいれてつくえへ、ぴったりむねをくっつけました。)

両手を袖へ入れて机へ、ぴったり胸をくっつけました。

(するとかよはたってきて、)

するとかよは立って来て、

(「あいな、あいなのきぺんはきのうこやでなくしてしまったけなあ。)

「兄(アイ)な、兄なの木ぺんはきのう小屋で無くしてしまったけなあ。

(よこせったら。」といいながら、いっしょうけんめいとりかえそうとしましたが、)

よこせったら。」といいながら、一生けん命とり返そうとしましたが、

(どうしてももうさたろうはつくえにくっついたおおきなかにのかせきみたいに)

どうしてももう佐太郎は机にくっついた大きな蟹の化石みたいに

(なっているので、とうとうかよはたったまま、)

なっているので、とうとうかよは立ったまま、

(くちをおおきくまげてなきだしそうになりました。)

口を大きくまげて泣きだしそうになりました。

(するとまたさぶろうはこくごのほんをちゃんとつくえにのせて、)

すると又三郎は国語の本をちゃんと机にのせて、

(こまったようにしてこれをみていましたが、)

困ったようにしてこれを見ていましたが、

(かよが、とうとうぼろぼろなみだをこぼしたのをみると、)

かよが、とうとうぼろぼろ涙をこぼしたのを見ると、

(だまってみぎてにもっていたはんぶんばかりになったえんぴつを、)

だまって右手に持っていた半分ばかりになった鉛筆を、

など

(さたろうのめのまえのつくえにおきました。)

佐太郎の眼の前の机に置きました。

(するとさたろうは、にわかにげんきになってむっくりおきあがりました。)

すると佐太郎は、にわかに元気になってむっくり起き上りました。

(そして「くれる?」とまたさぶろうにききました。)

そして「くれる?」と又三郎にききました。

(またさぶろうはちょっとまごついたようでしたが、)

又三郎はちょっとまごついたようでしたが、

(かくごしたように「うん。」といいました。)

覚悟したように「うん。」といいました。

(するとさたろうはいきなりわらいだして、)

すると佐太郎はいきなりわらい出して、

(ふところのえんぴつを、かよのちいさなあかいてにもたせました。)

ふところの鉛筆を、かよの小さな赤い手に持たせました。

(せんせいはむこうで、いちねんせいのこのすずりにみずをついでやったりしていましたし、)

先生はむこうで、一年生の子の硯に水をついでやったりしていましたし、

(かすけはまたさぶろうのまえですからしりませんでしたが、)

嘉助は又三郎の前ですから知りませんでしたが、

(こういちはこれをいちばんうしろでちゃんとみていました。)

孝一はこれをいちばんうしろでちゃんと見ていました。

(そしてまるでなんといったらいいかわからないへんなきもちがして、)

そしてまるで何といったらいいかわからない変な気持ちがして、

(はをきりきりいわせました。)

歯をきりきりいわせました。

(「ではさんねんせいのひとは、おやすみのまえにならったひきざんを、)

「では三年生のひとは、お休みの前にならった引き算を、

(もういっぺんならってみましょう。これをかんじょうしてごらんなさい。」)

もう一ぺん習ってみましょう。これを勘定してごらんなさい。」

(せんせいはこくばんに、25-12とかきました。)

先生は黒板に、25-12と書きました。

(さんねんせいのこどもらは、みんないっしょうけんめいにそれをざっきちょうにうつしました。)

三年生のこどもらは、みんな一生けん命にそれを雑記帳にうつしました。

(かよもあたまをざっきちょうへくっつけるようにしてかいています。)

かよも頭を雑記帳へくっつけるようにして書いています。

(「よねんせいのひとはこれをおいて。」17*4とかきました。)

「四年生の人はこれを置いて。」17×4と書きました。

(よねんせいはさたろうをはじめ、きぞうもこうすけもみんなそれをうつしました。)

四年生は佐太郎をはじめ、喜蔵も甲助もみんなそれをうつしました。

(「ごねんせいのひとはとくほんのじゅっぺーじのさんかをひらいて、)

「五年生の人は読本の十ページの三課をひらいて、

(こえをたてないでよめるだけよんでごらんなさい。)

声をたてないで読めるだけ読んでごらんなさい。

(わからないじはざっきちょうへひろっておくのです。」)

わからない字は雑記帳へひろっておくのです。」

(ごねんせいもみんないわれたとおりしはじめました。)

五年生もみんないわれたとおりしはじめました。

(「こういちさんはとくほんのじゅうはちぺーじをしらべて、)

「孝一さんは読本の十八ページをしらべて、

(やはりしらないじをかきぬいてください。」)

やはり知らない字を書き抜いてください。」

(それがすむとせんせいはまたきょうだんをおりて、)

それがすむと先生はまた教壇を下りて、

(いちねんせいとにねんせいのしゅうじをひとりひとりみてあるきました。)

一年生と二年生の習字を一人一人見てあるきました。

(またさぶろうはりょうてでほんをちゃんとつくえのうえへもって、)

又三郎は両手で本をちゃんと机の上へもって、

(いわれたところをいきもつかずじっとよんでいました。)

いわれたところを息もつかずじっと読んでいました。

(けれどもざっきちょうへは、じをひとつもかきぬいていませんでした。)

けれども雑記帳へは、字を一つも書き抜いていませんでした。

(それはほんとうにしらないじがひとつもないのか、)

それはほんとうに知らない字が一つもないのか、

(たったいっぽんのえんぴつをさたろうにやってしまったためか、)

たった一本の鉛筆を佐太郎にやってしまったためか、

(どっちともわかりませんでした。)

どっちともわかりませんでした。

(そのうちせんせいはきょうだんへもどって、)

そのうち先生は教壇へ戻って、

(さんねんせいとよねんせいのさんじゅつのけいさんをしてみせて、またあたらしいもんだいをだすと、)

三年生と四年生の算術の計算をして見せて、また新しい問題を出すと、

(こんどはごねんせいのせいとのざっきちょうへかいた、しらないじをこくばんへかいて、)

今度は五年生の生徒の雑記帳へ書いた、知らない字を黒板へ書いて、

(それをかなとわけをつけました。そして、)

それをかなとわけをつけました。そして、

(「ではかすけさん、ここをよんで。」といいました。)

「では嘉助さん、ここを読んで。」といいました。

(かすけはにさんどひっかかりながら、せんせいにおしえられてよみました。)

嘉助は二三度ひっかかりながら、先生に教えられて読みました。

(またさぶろうもだまってきいていました。)

又三郎もだまって聞いていました。

(せんせいもほんをとってじっときいていましたが、じゅうぎょうばかりよむと、)

先生も本をとってじっと聞いていましたが、十行ばかり読むと、

(「そこまで、」といって、こんどはせんせいがよみました。)

「そこまで、」といって、こんどは先生が読みました。

(そうしてひとまわりすむと、せんせいはだんだんみんなのどうぐをしまわせました。)

そうして一まわりすむと、先生はだんだんみんなの道具をしまわせました。

(それから、)

それから、

(「ではここまで。」といってきょうだんにたちますと、こういちがうしろで、)

「ではここまで。」といって教壇に立ちますと、孝一がうしろで、

(「きをつけい。」といいました。)

「気を付けい。」といいました。

(そしてれいがすむと、みんなじゅんにそとへでて、)

そして礼がすむと、みんな順に外へでて、

(こんどはそとへならばずに、みんなわかれわかれになってあそびました。)

こんどは外へならばずに、みんな別れ別れになって遊びました。

(にじかんめはいちねんせいからろくねんせいまでみんなしょうかでした。)

二時間目は一年生から六年生までみんな唱歌でした。

(そしてせんせいがまんどりんをもってでてきて、みんなはいままでにうたったのを、)

そして先生がマンドリンをもって出てきて、みんなはいままでにうたったのを、

(せんせいのまんどりんについて、いつつもうたいました。)

先生のマンドリンについて、五つもうたいました。

(またさぶろうもみんなしっていて、みんなどんどんうたいました。)

又三郎もみんな知っていて、みんなどんどん歌いました。

(そしてこのじかんはたいへんはやくたってしまいました。)

そしてこの時間は大へん早くたってしまいました。

(さんじかんめになると、こんどはさんねんせいとよねんせいがこくごで、)

三時間目になると、こんどは三年生と四年生が国語で、

(ごねんせいとろくねんせいがすうがくでした。)

五年生と六年生が数学でした。

(せんせいはまたこくばんへもんだいをかいて、ごねんせいとろくねんせいにけいさんさせました。)

先生はまた黒板へ問題を書いて、五年生と六年生に計算させました。

(しばらくたってこういちがこたえをかいてしまうと、またさぶろうのほうをちょっとみました。)

しばらくたって孝一が答えを書いてしまうと、又三郎の方をちょっと見ました。

(するとまたさぶろうはどこからだしたか、ちいさなけしずみでざっきちょうのうえへ、)

すると又三郎はどこから出したか、小さな消し炭で雑記帳の上へ、

(がりがりとおおきくうんざんしていたのです。)

がりがりと大きく運算していたのです。

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