風の又三郎 12

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プレイ回数488難易度(4.3) 2277打 長文
九月六日 葡萄蔓
宮沢賢治 作 全文
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 ばばあ 3003 E++ 3.1 94.3% 712.8 2277 136 47 2024/09/29

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問題文

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(みんなはかやのあいだの、ちいさなみちをやまのほうへすこしのぼりますと、)

みんなは萱の間の、小さなみちを山の方へ少しのぼりますと、

(そのみなみがわにむいたくぼみに、くりのきがあちこちたって、)

その南側にむいた窪みに、栗の木があちこち立って、

(したにはぶどうがもくもくしたおおきなやぶになっていました。)

下には葡萄がもくもくした大きな藪になっていました。

(「こごおれみっつけだのだがら、みんなあんまりとるやなぃぞ。」)

「こごおれ見っ附だのだがら、みんなあんまりとるやなぃぞ。」

(こうすけがいいました。)

耕助がいいました。

(するとさぶろうは、)

すると三郎は、

(「おいらくりのほうをとるんだい。」といって、)

「おいら栗の方をとるんだい。」といって、

(いしをひろってひとつのえだへなげました。あおいいががひとつおちました。)

石を拾って一つの枝へ投げました。青いいがが一つ落ちました。

(またさぶろうはそれをぼうきれでむいて、まだしろいくりをふたつとりました。)

又三郎はそれを棒きれで剥いて、まだ白い栗を二つとりました。

(みんなはぶどうのほうへいっしょうけんめいでした。)

みんなは葡萄の方へ一生けん命でした。

(そのうちこうすけがもひとつのやぶへいこうと、いっぽんのくりのきのしたをとおりますと、)

そのうち耕助がも一つの藪へ行こうと、一本の栗の木の下を通りますと、

(いきなりうえからしずくが、いっぺんにざっとおちてきましたので、)

いきなり上から雫が、一ぺんにざっと落ちてきましたので、

(こうすけはかたからせなかから、みずへはいったようになりました。)

耕助は肩からせなかから、水へ入ったようになりました。

(こうすけはおどろいてくちをあいてうえをみましたら、)

耕助は愕いて口をあいて上を見ましたら、

(いつかきのうえにまたさぶろうがのぼっていて、)

いつか木の上に又三郎がのぼっていて、

(なんだかすこしわらいながら、じぶんもそでぐちでかおをふいていたのです。)

なんだか少しわらいながら、じぶんも袖ぐちで顔をふいていたのです。

(「わあい、またさぶろうなにする。」こうすけはうらめしそうにきをみあげました。)

「わあい、又三郎何する。」耕助はうらめしそうに木を見あげました。

(「かぜがふいたんだい。」さぶろうはうえでくつくつわらいながらいいました。)

「風が吹いたんだい。」三郎は上でくつくつわらいながらいいました。

(こうすけはきのしたをはなれて、またべつのやぶでぶどうをとりはじめました。)

耕助は樹の下をはなれて、また別の藪で葡萄をとりはじめました。

(もうこうすけはじぶんでももてないくらい、あちこちへためていて、)

もう耕助はじぶんでも持てないくらい、あちこちへためていて、

など

(くちもむらさきいろになって、まるでおおきくみえました。)

口も紫いろになって、まるで大きく見えました。

(「さあ、このくらいもってもどらなぃが。」いちろうがいいました。)

「さあ、この位持って戻らなぃが。」一郎がいいました。

(「おら、もっととってぐじゃ。」こうすけがいいました。)

「おら、もっと取ってぐじゃ。」耕助がいいました。

(そのときこうすけはまたあたまから、つめたいしずくをざあっとかぶりました。)

そのとき耕助はまた頭から、つめたい雫をざあっとかぶりました。

(こうすけはまたびっくりしたように、きをみあげましたが、)

耕助はまたびっくりしたように、木を見上げましたが、

(こんどはさぶろうはきのうえにはいませんでした。)

今度は三郎は樹の上には居ませんでした。

(けれどもきのむこうがわに、さぶろうのねずみいろのひじもみえていましたし、)

けれども樹の向う側に、三郎の鼠いろのひじも見えていましたし、

(くつくつわらうこえもしましたから、こうすけはもうすっかりおこってしまいました。)

くつくつ笑う声もしましたから、耕助はもうすっかり怒ってしまいました。

(「わあいまたさぶろう、まだひとさみずかげだな。」)

「わあい又三郎、まだひとさ水掛げだな。」

(「かぜがふいたんだい。」)

「風が吹いたんだい。」

(みんなはどっとわらいました。)

みんなはどっと笑いました。

(「わあいまたさぶろう、うなそごできゆすったけぁなあ。」)

「わあい又三郎、うなそごで木ゆすったけぁなあ。」

(みんなはどっとまたわらいました。)

みんなはどっとまた笑いました。

(するとこうすけは、うらめしそうにしばらくだまってさぶろうのかおをみながら、)

すると耕助は、うらめしそうにしばらくだまって三郎の顔を見ながら、

(「うあいまたさぶろう、うななどあ、せかいになくてもいなあぃ。」)

「うあい又三郎、汝(ウナ)などあ、世界になくてもいなあぃ。」

(するとまたさぶろうはずるそうにわらいました。)

すると又三郎はずるそうに笑いました。

(「やあこうすけくん、しっけいしたねえ。」)

「やあ耕助君、失敬したねえ。」

(こうすけはなにかもっとべつのことをいおうとおもいましたが、)

耕助は何かもっと別のことをいおうと思いましたが、

(あんまりおこってしまって、かんがえだすことができませんでしたので、)

あんまり怒ってしまって、考え出すことが出来ませんでしたので、

(またおなじようにさけびました。)

また同じように叫びました。

(「うあい、うあいだが、またさぶろう、うなみだぃなかぜなど、)

「うあい、うあいだが、又三郎、うなみだぃな風など、

(せかいじゅうになくてもいいなあ、うわあい。」)

世界中になくてもいいなあ、うわあい。」

(「しっけいしたよ。だってあんまりきみも、ぼくへいじわるをするもんだから。」)

「失敬したよ。だってあんまりきみも、ぼくへ意地悪をするもんだから。」

(またさぶろうはすこしめをぱちぱちさせて、きのどくそうにいいました。)

又三郎は少し眼をパチパチさせて、気の毒そうにいいました。

(けれどもこうすけのいかりは、なかなかとけませんでした。)

けれども耕助のいかりは、仲々解けませんでした。

(そしてさんどおなじことをくりかえしたのです。)

そして三度同じことをくりかえしたのです。

(「うわい、またさぶろう、かぜなどあせかいじゅうになくてもいな、うわい。」)

「うわい、又三郎、風などあ世界中に無くてもいな、うわい。」

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