心理試験12(終)/江戸川乱歩

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順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 ヌオー 5915 A+ 6.3 93.7% 572.2 3625 240 55 2024/12/18
2 ヌオー 5064 B+ 5.6 90.9% 648.8 3647 361 55 2024/11/28
3 もっちゃん先生 4827 B 5.1 94.7% 716.9 3662 201 55 2024/10/23

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問題文

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(「どうもこまったことになりましたね」あけちはさもこまったようなこわねでいった)

「どうも困ったことになりましたね」明智はさも困った様な声音で云った

(「これはもうとりかえしのつかぬだいしっさくですよ。なぜあなたはみもしないものを)

「これはもう取返しのつかぬ大失策ですよ。なぜあなたは見もしないものを

(みたなどというのです。あなたはじけんのふつかまえからいちどもあのいえへいっていない)

見たなどと云うのです。あなたは事件の二日前から一度もあの家へ行っていない

(はずじゃありませんか。ことにろっかせんのえをおぼえていたのは、ちめいしょうですよ。)

筈じゃありませんか。殊に六歌仙の絵を覚えていたのは、致命傷ですよ。

(おそらくあなたは、ほんとうのことをいおう、ほんとうのことをいおうとして、)

恐らくあなたは、ほんとうのことを云おう、ほんとうのことを云おうとして、

(ついうそをついてしまったのでしょう。ね、そうでしょう。あなたはじけんのふつかまえに)

つい嘘をついて了ったのでしょう。ね、そうでしょう。あなたは事件の二日前に

(あのざしきへはいったとき、そこにびょうぶがあるかないかというようなことをちゅういした)

あの座敷へ入った時、そこに屏風があるかないかという様なことを注意した

(でしょうか。むろんちゅういしなかったでしょう。じっさいそれは、あなたのけいかくにはなんの)

でしょうか。無論注意しなかったでしょう。実際それは、あなたの計画には何の

(かんけいもなかったのですし、もしびょうぶがあったとしても、あれはごしょうちのとおり)

関係もなかったのですし、若し屏風があったとしても、あれは御承知の通り

(じだいのついたくすんだいろあいでほかのいろいろなどうぐるいのなかでことさらめだっていた)

時代のついたくすんだ色合いで他の色々な道具類の中で殊更ら目立っていた

(わけでもありませんからね。で、あなたがいま、じけんのとうじつそこでみたびょうぶが、)

訳でもありませんからね。で、あなたが今、事件の当日そこで見た屏風が、

(ふつかまえにもおなじようにそこにあっただろうとかんがえたのは、ごくしぜんですよ。これは)

二日前にも同じ様にそこにあっただろうと考えたのは、ごく自然ですよ。これは

(いっしゅのさっかくみたいなものですが、よくかんがえてみると、われわれにはにちじょうざらにある)

一種の錯覚見たいなものですが、よく考えてみると、我々には日常ザラにある

(ことです。しかし、もしふつうのはんざいしゃだったらけっしてあなたのようにはこたえなかった)

ことです。併し、もし普通の犯罪者だったら決してあなたの様には答えなかった

(でしょう。かれらは、なんでもかんでも、かくしさえすればいいとおもっているのです)

でしょう。彼等は、何でもかんでも、隠しさえすればいいと思っているのです

(からね。ところが、ぼくにとってこうつごうだったのは、あなたがせけんなみのさいばんかんや)

からね。ところが、僕にとって好都合だったのは、あなたが世間並みの裁判官や

(はんざいしゃより、じゅうばいもにじゅうばいもすすんだあたまをもっていられたことです。)

犯罪者より、十倍も二十倍も進んだ頭を持っていられたことです。

(つまり、きゅうしょにふれないかぎりは、できるたけけあからさまにしゃべってしまうほうが、)

つまり、急所にふれない限りは、出来る丈けあからさまに喋って了う方が、

(かえってあんぜんだというしんねんをもっていられたことです。うらのうらをいくやりかた)

却って安全だという信念を持っていられたことです。裏の裏を行くやり方

(ですね。そこでぼくはさらにそのうらをいってみたのですよ。まさか、あなたはこの)

ですね。そこで僕は更らにその裏を行って見たのですよ。まさか、あなたはこの

など

(じけんになんのかんけいもないべんごしが、あなたをはくじょうさせるために、わなをつくっていよう)

事件に何の関係もない弁護士が、あなたを白状させる為に、罠を作っていよう

(とはそうぞうしなかったでしょうね。ははははは」)

とは想像しなかったでしょうね。ハハハハハ」

(ふきやは、まっさおになったかおの、ひたいのところにびっしょりあせをうかせて、じっとだまり)

蕗屋は、真青になった顔の、額の所にビッショリ汗を浮かせて、じっと黙り

(こんでいた。かれはもうこうなったら、べんめいすればするだけ、ぼろをだすばかり)

込んでいた。彼はもうこうなったら、弁明すればする丈け、ボロを出す許り

(だとおもった。)

だと思った。

(かれは、あたまがいいだけに、じぶんのしつげんがどんなにゆうべんなじはくだったかと)

彼は、頭がいい丈けに、自分の失言がどんなに雄弁な自白だったかと

(いうことを、よくわきまえていた。かれのあたまのなかには、みょうなことだが、こどものじふん)

いうことを、よく弁えていた。彼の頭の中には、妙なことだが、子供の時分

(からのさまざまのできごとが、そうまとうのように、めまぐるしくあらわれてはきえた。)

からの様々の出来事が、走馬灯の様に、目まぐるしく現れては消えた。

(ながいちんもくがつづいた。)

長い沈黙が続いた。

(「きこえますか」あけちがしばらくしてからいった。「そら、さらさら、さらさらという)

「聞えますか」明智が暫くしてから云った。「そら、サラサラ、サラサラという

(おとがしているでしょう。あれはね。さいぜんから、となりのへやで、ぼくたちのもんどうを)

音がしているでしょう。あれはね。最前から、隣の部屋で、僕達の問答を

(かきとめているのですよ。・・・きみ、もうよござんすから、それをここへもって)

書きとめているのですよ。・・・君、もうよござんすから、それをここへ持って

(きてくれませんか」)

来て呉れませんか」

(すると、ふすまがひらいて、ひとりのしょせいていのおとこがてにようしのたばをもってでてきた。)

すると、襖が開いて、一人の書生体の男が手に洋紙の束を持って出て来た。

(「それをいちどよみあげてください」)

「それを一度読み上げてください」

(あけちのめいれいにしたがって、そのおとこはさいしょからろうどくした。)

明智の命令に随って、その男は最初から朗読した。

(「では、ふきやくん、これにしょめいして、ぼいんでけっこうですからおしてくれませんか。)

「では、蕗屋君、これに署名して、拇印で結構ですから捺して呉れませんか。

(きみはまさかいやだとはいいますまいね。だって、さっき、びょうぶのことはいつでも)

君はまさかいやだとは云いますまいね。だって、さっき、屏風のことはいつでも

(しょうげんしてやるとやくそくしたばかりじゃありませんか。もっとも、こんなふうなしょうげんだろう)

証言してやると約束したばかりじゃありませんか。尤も、こんな風な証言だろう

(とはそうぞうしなかったかもしれないけれど」)

とは想像しなかったかもしれないけれど」

(ふきやは、ここでしょめいをこばんだところで、なんのかいもないことを、じゅうぶん)

蕗屋は、ここで署名を拒んだところで、何の甲斐もないことを、十分

(しっていた。かれはあけちのおどろくべきすいりをも、あわせてしょうにんするいみで、しょめい)

知っていた。彼は明智の驚くべき推理をも、併せて承認する意味で、署名

(なついんした。そして、いまはもうすっかりあきらめはてたひとのようにうなだれていた。)

捺印した。そして、今はもうすっかりあきらめ果てた人の様にうなだれていた。

(「さきにももうしあげたとおり」あけちはさいごにせつめいした。「みゅんすたーべべるひは、)

「先にも申上げた通り」明智は最後に説明した。「ミュンスターべベルヒは、

(しんりしけんのしんのこうのうは、けんぎしゃが、あるばしょ、ひとまたはものについてしっているか)

心理試験の真の効能は、嫌疑者が、ある場所、人又は物について知っているか

(どうかをためすばあいにかぎってかくていてきだといっています。こんどのじけんでいえば、)

どうかを試す場合に限って確定的だと云っています。今度の事件で云えば、

(ふきやくんがびょうぶをみたかどうかというてんが、それなんです。このてんをほかにしては、)

蕗屋君が屏風を見たかどうかという点が、それなんです。この点を外にしては、

(ひゃくのしんりしけんもおそらくむだでしょう。なにしろ、あいてがふきやくんのような、なにもかも)

百の心理試験も恐らく無駄でしょう。何しろ、相手が蕗屋君の様な、何もかも

(よそうして、めんみつなじゅんびをしているおとこなんですからね。それからもうひとつ)

予想して、綿密な準備をしている男なんですからね。それからもう一つ

(もうしあげたいのは、しんりしけんというものは、かならずしもしょもつにかいてあるとおり)

申し上げ度いのは、心理試験というものは、必ずしも書物に書いてある通り

(いっていのしげきごをつかい。いっていのきかいをよういしなければできないものではなくて、)

一定の刺戟語を使い。一定の機械を用意しなければできない物ではなくて、

(いまぼくがじっけんしておめにかけたとおり、ごくにちじょうてきなかいわによってでも、じゅうぶん)

今僕が実験してお目にかけた通り、極く日常的な会話によってでも、十分

(やれるということです。むかしからのめいはんがんは、たとえばおおおかえちぜんのかみというような)

やれるということです。昔からの名判管は、たとえば大岡越前守という様な

(ひとは、みなじぶんでもきづかないで、さいきんのしんりがくがはつめいしたほうほうを、ちゃんと)

人は、皆自分でも気づかないで、最近の心理学が発明した方法を、ちゃんと

(おうようしているのですよ」)

応用しているのですよ」

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