いちょうの実 1/2 宮沢賢治

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空の天辺なんか、冷たくて、まるでカチカチの灼きをかけた鋼です
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1 Par100 3818 D++ 3.9 97.8% 615.4 2402 52 52 2024/02/27

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問題文

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(そらのてっぺんなんかつめたくてつめたくて、)

そらのてっぺんなんか冷たくて冷たくて、

(まるでかちかちのやきをかけたはがねです。)

まるでカチカチの灼きをかけた鋼です。

(そしてほしがいっぱいです。)

そして星が一杯です。

(けれどもひがしのそらはもう、やさしいききょうのはなびらのように)

けれども東の空はもう、優しい桔梗の花びらのように

(あやしいそこびかりをはじめました。)

あやしい底光りをはじめました。

(そのあけがたのそらのした、ひるのとりでもいかないたかいところを、)

その明け方の空の下、ひるの鳥でも行かない高い所を、

(するどいしものかけらがかぜにながされてさらさらさらさらみなみのほうへとんでいきました。)

鋭い霜のかけらが風に流されてサラサラサラサラ南の方へ飛んで行きました。

(じつにそのかすかなおとが、おかのうえのいっぽんいちょうのきにきこえるくらい、)

実にその微かな音が、丘の上の一本いちょうの木に聞こえるくらい、

(すみきったあけがたです。)

澄み切った明け方です。

(いちょうのみは、みんないちどにめをさましました。そしてどきっとしたのです。)

いちょうの実は、みんな一度に目をさましました。そしてドキッとしたのです。

(きょうこそは、たしかにたびだちのひでした。)

今日こそは、たしかに旅立ちの日でした。

(みんなもまえからそうおもっていましたし、)

みんなも前からそう思っていましたし、

(きのうのゆうがたやってきたにわのからすもそういいました。)

昨日の夕方やってきた二羽の烏もそう言いました。

(「ぼくなんかおちるとちゅうでめがまわらないだろうか。」ひとつのみがいいました。)

「ぼくなんか落ちる途中で目がまわらないだろうか。」一つの実が言いました。

(「よくめをつぶっていけばいいさ。」もひとつがこたえました。)

「よく目をつぶって行けばいいさ。」も一つが答えました。

(「そうだ。わすれていた。ぼく、すいとうにみずをつめておくんだった。」)

「そうだ。忘れていた。僕、水筒に水をつめておくんだった。」

(「ぼくはね、すいとうのほかにはっかすいをよういしたよ。すこしやろうか。)

「僕はね、水筒の外に薄荷水を用意したよ。少しやろうか。

(たびへでて、あんまりこころもちのわるいときはちょっとのむといいって、)

旅へ出て、あんまり心持ちの悪い時は一寸飲むといいって、

(おっかさんがいったぜ。」)

おっかさんが言ったぜ。」

(「なぜおっかさんは、ぼくへはくれないんだろう。」)

「なぜおっかさんは、僕へは呉れないんだろう。」

など

(「だから、ぼくあげるよ。おっかさんをわるくおもっちゃすまないよ。」)

「だから、僕あげるよ。おっかさんを悪く思っちゃすまないよ。」

(そうです。このいちょうのきはおかあさんでした。)

そうです。このいちょうの木はお母さんでした。

(ことしは、せんにんのきんいろのこどもがうまれたのです。)

今年は、千人の黄金色(きんいろ)の子供が生まれたのです。

(そしてきょうこそ、こどもらがみんないっしょにたびにたつのです。)

そして今日こそ、子供らがみんな一緒に旅に発つのです。

(おかあさんはそれをあんまりかなしんで、)

お母さんはそれをあんまり悲しんで、

(おうぎがたのきんのかみのけをきのうまでにみんなおとしてしまいました。)

扇形の黄金(きん)の髪の毛を昨日までにみんな落としてしまいました。

(「ね、あたしどんなとこへいくのかしら。」)

「ね、あたしどんな所(とこ)へ行くのかしら。」

(ひとりのいちょうのおんなのこがそらをみあげてつぶやくようにいいました。)

一人のいちょうの女の子が空を見あげて呟くように言いました。

(「あたしだってわからないわ、どこへもいきたくないわね。」)

「あたしだってわからないわ、どこへも行きたくないわね。」

(もひとりがいいました。)

も一人が言いました。

(「あたし、どんなめにあってもいいから、おっかさんとこにいたいわ。」)

「あたし、どんなめにあってもいいから、おっかさん所(とこ)に居たいわ。」

(「だって、いけないんですって。かぜがまいにちそういったわ。」)

「だって、いけないんですって。風が毎日そう言ったわ。」

(「いやだわね。」)

「いやだわね。」

(「そして、あたしたちもみんなばらばらにわかれてしまうんでしょう。」)

「そして、あたしたちもみんなばらばらにわかれてしまうんでしょう。」

(「ええ、そうよ。もうあたし、なんにもいらないわ。」)

「ええ、そうよ。もうあたし、なんにもいらないわ。」

(「あたしもよ。いままでいろいろわがままばっかしいって、ゆるしてくださいね。」)

「あたしもよ。今までいろいろわが儘ばっかし言って、許して下さいね。」

(「あら、あたしこそ。あたしこそだわ。ゆるしてちょうだい。」)

「あら、あたしこそ。あたしこそだわ。許して頂戴。」

(ひがしのそらのききょうのはなびらは、もういつかしぼんだようにちからなくなり、)

東の空の桔梗の花びらは、もういつかしぼんだように力なくなり、

(あさのしろびかりがあらわれはじめました。)

朝の白光(しろびかり)があらわれはじめました。

(ほしがひとつずつきえていきます。)

星が一つずつ消えて行きます。

(きのいちばんいちばんたかいところにいたふたりのいちょうのおとこのこがいいました。)

木の一番一番高い処に居た二人のいちょうの男の子が言いました。

(「そら、もうあかるくなったぞ。うれしいなあ。)

「そら、もう明るくなったぞ。うれしいなあ。

(ぼくはきっときんいろのおほしさまになるんだよ。」)

僕はきっと黄金色(きんいろ)のお星さまになるんだよ。」

(「ぼくもなるよ。)

「ぼくもなるよ。

(きっと、ここからおちればすぐきたかぜがそらへつれてってくれるだろうね。」)

きっと、ここから落ちればすぐ北風が空へ連れてって呉れるだろうね。」

(「ぼくはきたかぜじゃないとおもうんだよ。きたかぜはしんせつじゃないんだよ。)

「ぼくは北風じゃないと思うんだよ。北風は親切じゃないんだよ。

(ぼくはきっとからすさんだろうとおもうね。」)

僕はきっと烏さんだろうと思うね。」

(「そうだ。きっとからすさんだ。からすさんはえらいんだよ。)

「そうだ。きっと烏さんだ。烏さんは偉いんだよ。

(ここからとおくてまるでみえなくなるまで、ひといきにとんでいくんだからね。)

ここから遠くてまるで見えなくなるまで、一息に飛んで行くんだからね。

(たのんだらぼくらふたりくらい、きっといっぺんにあおぞらまでつれていってくれるぜ。」)

頼んだら僕ら二人くらい、きっと一遍に青ぞらまで連れて行って呉れるぜ。」

(「たのんでみようか。はやくくるといいな。」)

「頼んで見ようか。早く来るといいな。」

(そのすこししたで、もうふたりがいいました。)

その少し下で、もう二人が言いました。

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