嫁取婿取 7

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プレイ回数33難易度(4.5) 2009打 長文
佐々木邦 作

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問題文

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(「それはそうくるにきまっている。しかしもうひといきだよ。)

「それは然う来るに定まっている。しかしもう一息だよ。

(ほんきになってべんきょうしなさい」「らいねんからやります」)

本気になって勉強しなさい」「来年からやります」

(「おかあさんからもっといってもらうし、こうえんじのにいさんにもたのんでみる」)

「お母さんからもっと言って貰うし、高円寺の兄さんにも頼んで見る」

(「あれはかくばりだからだめですよ」)

「あれは角張りだから駄目ですよ」

(「なにあに、がっこうのせんせいだからはなしがわかる。それにおとうさんにしんようがある」)

「何あに、学校の先生だから話が分かる。それにお父さんに信用がある」

(「かくばりだからしんようがあるんです」「まあまあ、おれにまかしておけ」)

「角張りだから信用があるんです」「まあまあ、おれに委しておけ」

(「にいさんはなぜじぶんでいってくださらないんですか?」)

「兄さんは何故自分で言って下さらないんですか?」

(「おれはいけない」としゅんいちくんはあきらめていた。)

「おれはいけない」と俊一君は諦めていた。

(「おとうさんからあべこべにたのまれている。)

「お父さんからアベコベに頼まれている。

(それだのにおまえにどうじょうするものだから、このころしんようがないんだ」)

それだのにお前に同情するものだから、この頃信用がないんだ」

(「うまくいってらあ」「なにだ?」「へっへへへ」「なにだい?しっけいな」)

「巧く言ってらあ」「何だ?」「へっへへへ」「何だい?失敬な」

(「そんなこわいかおをしてもだめです。ぼくはききましたよ」「なにを?」)

「そんな怖い顔をしても駄目です。僕は聞きましたよ」「何を?」

(「にいさんははやくもらいたいものだから、このころはねずみのようにねこをかぶって)

「兄さんは早く貰いたいものだから、この頃は鼠のように猫を被って

(おとなしくしているんですって」「だれがそんなことをいった?」)

大人しくしているんですって」「誰がそんなことを言った?」

(「よしこねえさんです」「なんといったか、もっとくわしくはなしてごらん」)

「芳子姉さんです」「何と言ったか、もっと詳しく話して御覧」

(「このあいだのえんだんはあちらからことわられたんですって。それはやすこねえさんでしたよ」)

「この間の縁談は先方から断られたんですって。それは安子姉さんでしたよ」

(「ばかをいいやがる。それから?」)

「馬鹿を言いやがる。それから?」

(「にいさんがぎんざのかっふぇへまいばんいくことがしれたものだから)

「兄さんが銀座のカッフェへ毎晩往くことが知れたものだから

(あちらがいやになったんですって」)

先方が厭になったんですって」

(「おれはかっふぇへなんかめったにいきやしない」)

「おれはカッフェへなんか滅多に行きやしない」

など

(「ひょうめんそうかるくいってきたんでしょう。きずのつかないように」)

「表面然う軽く言って来たんでしょう。疵のつかないように」

(「ばか」「とにかく、そのためにおとうさんのしんようがなくなっったんでしょう。)

「馬鹿」「兎に角、その為にお父さんの信用がなくなっったんでしょう。

(ほんとうにみっともありませんよ。)

真正に些っともありませんよ。

(ぼくはなまけものだけどうらおもてがないからいいんですって」)

僕は怠け者だけど裏表がないからいいんですって」

(「それもやすこかい?」「ええ」「もうかなたへいけ」)

「それも安子かい?」「ええ」「もう彼方へ行け」

(「はあ」とじろうくんはたちあがった。「ちょっとまて」「なんですか?」)

「はあ」と二郎君は立ち上がった。「一寸待て」「何ですか?」

(「これをやる」としゅんいちくんはつくえのひきだしからしゅうぎぶくろをだしておしつけた。)

「これをやる」と俊一君は机の引き出しから祝儀袋を出して押し付けた。

(「ぼーなすですね」「きょう、もらったんだよ」)

「ボーナスですね」「今日、貰ったんだよ」

(「たいていきょうだろうとおもって、じつはたんていながらやってきたんです」)

「大抵今日だろうと思って、実は探偵ながらやって来たんです」

(「ずるいやつだなあ」「ありがとう」)

「狡い奴だなあ」「有難う」

(「いつものとおりおおきいじゅんでくるようにいっておくれ」「はあ」と)

「いつもの通り大きい順で来るように言っておくれ」「はあ」と

(じろうくんはおおよろこびをしてたちさった。)

二郎君は大喜びをして立ち去った。

(しゅんいちくんはぼーなすをもらったばん、きょうだいにわけてやる。)

俊一君はボーナスを貰った晩、弟妹に分けてやる。

(ものものしくしゅっとうさせるけど、たくさんやるとじぶんのこづかいがなくなるから)

物々しく出頭させるけど、沢山やると自分の小遣いがなくなるから

(だかはいたってすくない。「いやね。さんえんばかりでよびだして」と)

高は至って少ない。「厭ね。三円ばかりで呼び出して」と

(よしこさんがわらった。「でもきはこころよ」と)

芳子さんが笑った。「でも気は心よ」と

(やすこさんがつれたってしゅんいちくんのへやへはいった。)

安子さんが連れたって俊一君の部屋へ入った。

(「おまえはおれのわるくちをいったね」としゅんいちくんはにらむまねをした)

「お前はおれの悪口を言ったね」と俊一君は睨む真似をした

(「まあ」「なにでしょう?」とやすこさんとよしこさんはよくにたかおをみあわせた。)

「まあ」「何でしょう?」と安子さんと芳子さんは能く似た顔を見合わせた。

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