嫁取婿取 34

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プレイ回数90難易度(4.5) 60秒 長文

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(「いしべきんきちだなんて、ほかにちっともけってんがないものですから」と)

「石部金吉だなんて、他にちっとも欠点がないものですから」と

(はるこさんもこれぐらいさぶろうくんにうちこんでいればまちがいない。)

春子さんもこれぐらい三郎君に打ち込んでいれば間違いない。

(「はるこや」「なんでございますか?」)

「春子や」「何でございますか?」

(「じつはわたし、このあいだからさぶろうさんのことでおまえにはなしたいと)

「実は私、この間から三郎さんのことでお前に話したいと

(おもっていたんですが、きげんをなおしてきいてくれる?」)

思っていたんですが、機嫌を直して聞いてくれる?」

(「わるくちでなければうけたまわりますわ」)

「悪口でなければ承りますわ」

(「わたしがさぶろうさんのわるくちをいうしだいもないじゃありませんか?」)

「私が三郎さんの悪口を言う次第もないじゃありませんか?」

(「それじゃなに?おかあさん」)

「それじゃ何?お母さん」

(「しゅんいちもけっしていいことはありませんが)

「俊一も決していいことはありませんが

(さぶろうさんもすこしえんりょがなさすぎはしませんの?」)

三郎さんも少し遠慮がなさ過ぎはしませんの?」

(「すぐにそうじゃございませんか?」)

「すぐにそうじゃございませんか?」

(「なにが?」「もうわるくちですもの」)

「何が?」「もう悪口ですもの」

(「いいえ、ありのままのおはなしよ」)

「いいえ、有りのままのお話よ」

(「さぶろうこそえんりょしていますわ。よつやへいくとみながしゃれをいって)

「三郎こそ遠慮していますわ。四谷へ行くと皆が洒落を言って

(それがわからないとわらうから、きゅうくつだってこぼしていますわ」)

それが分からないと笑うから、窮屈だってこぼしていますわ」

(「あまりきゅうくつでもないようよ。おでになるとすぐにしゅんいちとぎろんですからね」)

「余り窮屈でもないようよ。お出になると直ぐに俊一と議論ですからね」

(「それはしかたがありませんわ。にいさんのしそうがわるいんですもの」)

「それは仕方がありませんわ。兄さんの思想が悪いんですもの」

(「はるこや、おまえ、それじゃおはなしもなにもできないわ」)

「春子や、お前、それじゃお話も何も出来ないわ」

(「でも、さぶろうはにいさんのみのうえをしんぱいして)

「でも、三郎は兄さんの身の上を心配して

(いろいろといいきかせてあげるんですもの」)

種々と言い聞かせてあげるんですもの」

など

(「それがすこしすぎやしませんの?しゅんいちはさぶろうさんよりとしがしたでも)

「それが少し過ぎやしませんの?俊一は三郎さんより年が下でも

(おまえのにいさんですからね。あああたまごなしにおせっきょうをされると)

お前の兄さんですからね。ああ頭ごなしにお説教をされると

(はらがたつんですよ。わたし、がわできいていて)

腹が立つんですよ。私、側で聞いていて

(はらはらすることがありますわ」)

ハラハラすることがありますわ」

(「おかあさんはみひいきがつよいのね」「なぜさ?」)

「お母さんは身贔負が強いのね」「何故さ?」

(「こうへいじゃありませんわ」「しかたのないひとね」)

「公平じゃありませんわ」「仕方のない人ね」

(「おかあさんにいわせると、おかあさんのしんるいばかりよくて)

「お母さんに言わせると、お母さんの親類ばかり好くて

(おとうさんのしんるいはみないけないんですもの」)

お父さんの親類は皆いけないんですもの」

(「そんなことどうでもいいじゃないの?はなしがちがいますわ」)

「そんなことどうでもいいじゃないの?話が違いますわ」

(「いいえ、おなじことよ」「どうして?」)

「いいえ、同じ事よ」「どうして?」

(「さぶろうがそうですわ。にいさんはごじぶんのこでさぶろうはたにんですから)

「三郎がそうですわ。兄さんは御自分の子で三郎は他人ですから

(わけへだてをなさるんですわ」「はるこや」)

分け隔てをなさるんですわ」「春子や」

(「さぶろうはしょうじきものですから、ほんとうのきょうだいのつもりでいるんですわ」)

「三郎は正直ものですから、本当の兄弟の積りでいるんですわ」

(「それにしてもおとうとがにいさんをすえてごせっぽうをするってほうはないでしょう?」)

「それにしても弟が兄さんを据えて御説法をするって方はないでしょう?」

(「ごせっぽうじゃありませんよ」「それじゃなに?」)

「御説法じゃありませんよ」「それじゃ何?」

(「ちゅうこくですわ。ちゅうこくされるようなわるいことをしていれば)

「忠告ですわ。忠告されるような悪いことをしていれば

(しかたがないじゃありませんか?」)

仕方がないじゃありませんか?」

(「はるこや、しゅんいちがなにをそんなにわるいことをしていますの?」と)

「春子や、俊一が何をそんなに悪いことをしていますの?」と

(みひいきのつよいははおやはもうかんにんできなくなった)

身贔負の強い母親はもう堪忍出来なくなった・

(「おかあさん、わたし、きょうはそれももうしあげようとおもっていたんですの」)

「お母さん、私、今日はそれも申し上げようと思っていたんですの」

(「いってごらんなさいよ」)

「言って御覧なさいよ」

(「そんなにおいかりになっちゃこまりますわ」「なによ?いったい」)

「そんなにお怒りになっちゃ困りますわ」「何よ?一体」

(「わたし、このあいだのにちようからくにやんでいますのよ」)

「私、この間の日曜から苦に病んでいますのよ」

(「なにさ?はやくおっしゃいよ」)

「何さ?早く仰いよ」

(「にいさんはこのまえのにちようにどこへおいでになったか)

「兄さんはこの前の日曜に何処へお出でになったか

(おかあさんはごぞんじ?」「こうがいさんぽでしょう?」)

お母さんは御存知?」「郊外散歩でしょう?」

(「いのかしらこうえんへいらしったのよ。だれとごいっしょだったとおおもいになって?」)

「井之頭公園へいらしったのよ。誰と御一緒だったとお思いになって?」

(「おともだちでしょう?」「おとこのおともだちだとおおもいになって?」)

「お友達でしょう?」「男のお友達だとお思いになって?」

(「あたりまえじゃありませんか?」)

「当たり前じゃありませんか?」

(「おかあさん、にいさんはだんぱつのもだんがーるといっしょにいったのよ」)

「お母さん、兄さんは断髪のモダン・ガールと一緒に行ったのよ」

(「まあ!」「それもてをとるようにしてよ」「はるこや」「はあ?」)

「まあ!」「それも手を取るようにしてよ」「春子や」「はあ?」

(「いいかげんになさいよ」「おかあさん、ほんとうよ」)

「いい加減になさいよ」「お母さん、本当よ」

(「それじゃおまえ、みたの?」)

「それじゃお前、見たの?」

(「いいえ、さぶろうがみてきてもうしましたの。このまえのにちようにうかがって)

「いいえ、三郎が見て来て申しましたの。この前の日曜に伺って

(いえへかえるとちゅう、しょうでんのなかだそうでございます。)

家へ帰る途中、省電の中だそうでございます。

(にいさんはしんじゅくからそのほうとごいっしょにのって・・・」と)

兄さんは新宿からその方と御一緒に乗って・・・」と

(はるこさんはさぶろうくんからきいたとおりをかいつまんではなしたあと)

春子さんは三郎君から聞いた通りを掻い摘んで話した後

(「わたし、どうしたものでしょうね?にいさんにさぶろうのわるくちをいわれれば)

「私、どうしたものでしょうね?兄さんに三郎の悪口を言われれば

(にいさんがにくらしくても、さぶろうからにいさんのことをいわれれば)

兄さんが憎らしくても、三郎から兄さんの事を言われれば

(やっぱりはらがたって、ばんにすこしきげんをわるくしてあげましたの」と)

やっぱり腹が立って、晩に少し機嫌を悪くして上げましたの」と

(しみしみいった。)

シミシミ言った。

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