カラマーゾフの兄弟7

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問題文

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(3 さいこんとはらちがい)

三 再婚と腹違い

(ふょーどるぱーヴろヴぃっちはよっつになるみーちゃをてもとからおい)

フョードル・パーヴロヴィッチは四つになるミーチャを手もとから追

(いのけてしまうと、まもなく、2どめのけっこんをした。この2どめのけっこん)

いのけてしまうと、間もなく、二度目の結婚をした。この二度目の結婚

(せいかつは8ねんつづいた。そのごさいの、やはりかなりにわかいそふぃやいわー)

生活は八年続いた。その後妻の、やはりかなりに若いソフィヤ・イワー

(のヴなというおんなは、かれがあるゆだやじんとつれだって、あるほんのちょっ)

ノヴナという女は、彼があるユダヤ人と連れ立って、あるほんのちょっ

(としたうけおいしごとのためにでむいていったよそのけんからめとめとったのであ)

とした請負仕事のために出向いて行ったよその県から娶めとったのであ

(る。ふょーどるぱーヴろヴぃっちはほうとうもし、さけものみ、らんぼうもした)

る。フョードル・パーヴロヴィッチは放蕩もし、酒も飲み、乱暴もした

(が、じぶんのしほんのうんようはけっしておろそかにはしなかった。もちろん、)

が、自分の資本の運用はけっしておろそかにはしなかった。もちろん、

(そのやりかたはほとんどいつもきたなかったが、じぶんのしょうばいにかけてはな)

そのやり方はほとんどいつもきたなかったが、自分の商売にかけてはな

(かなかこうみょうにしょりしたものであった。そふぃやいわーのヴなはさるひん)

かなか巧妙に処理したものであった。ソフィヤ・イワーノヴナはさる貧

(しいほさいのむすめであったが、いわけないころからよるべない「こじみなし)

しい補祭の娘であったが、いわけないころから寄るべない『孤児みなし

(ご」の1ひととなって、ゆうめいなヴぉーろほふしょうぐんのみぼうじんで、かのじょにとっ)

ご』の一人となって、有名なヴォーロホフ将軍の未亡人で、彼女にとっ

(てはおんじんであり、よういくしゃでありながら、それでいてどうじにはくがいしゃでもあ)

ては恩人であり、養育者でありながら、それでいて同時に迫害者でもあ

(ったろうふじんのゆうふくないえにせいちょうした。くわしいはなしはしらないが、あるときのこ)

った老婦人の裕福な家に成長した。詳しい話は知らないが、ある時のこ

(と、このきだてのすなおな、わるぎのないうちきなようじょが、じぶんでなやのくぎ)

と、この気立てのすなおな、悪気のない内気な養女が、自分で納屋の釘

(にわさくわなわをかけて、くびをくくろうとしたところをおろされたとかい)

に輪索わなわをかけて、首をくくろうとしたところをおろされたとかい

(うことだけはみみにしている。それほどかのじょはこのろうばのたえまのないしょう)

うことだけは耳にしている。それほど彼女はこの老婆の絶え間のない小

(げんやうつりぎにたえてゆくのがつらかったのであるが、そのみ、このろうば)

言や移り気に耐えてゆくのがつらかったのであるが、その実、この老婆

(は、みたところ、べつにいじのわるそうなところもなく、ただ、あんいつなせいかつ)

は、見たところ、別に意地の悪そうなところもなく、ただ、安逸な生活

(のために、どうにもがまんのならないごうじょうなにんげんになっていたのであった)

のために、どうにも我慢のならない強情な人間になっていたのであった

など

(。)

(ふょーどるぱーヴろヴぃっちがけっこんをもうしこむと、せんぽうではいろい)

フョードル・パーヴロヴィッチが結婚を申しこむと、先方ではいろい

(ろとみもとをしらべて、すげなくおいはらってしまった。ところが、かれは、)

ろと身もとを調べて、すげなく追い払ってしまった。ところが、彼は、

(しょこんのときとおなじように、こんどもまたこのしょうじょにかけおちをすすめた。)

初婚のときと同じように、今度もまたこの少女に駆け落ちをすすめた。

(もしもそのとき、かれのことを、もうすこしくわしくききこんでいたならば、)

もしもそのとき、彼のことを、もう少し詳しく聞きこんでいたならば、

(おそらくかのじょは、どんなことがあっても、かれのところへなどいかなかっ)

おそらく彼女は、どんなことがあっても、彼のところへなど行かなかっ

(たにそういない。しかし、たけんのことではあるし、ましてや、いつまでも)

たに相違ない。しかし、他県のことではあるし、ましてや、いつまでも

(おんじんのところにいるくらいならば、いっそのことがわへでもとびこんだほ)

恩人のところにいるくらいならば、いっそのこと川へでも飛びこんだほ

(うがましだくらいにおもいつめている16や7のこむすめに、もののどうりのわか)

うがましだくらいに思いつめている十六や七の小娘に、物の道理のわか

(ろうはずはない。あわれなしょうじょはただおんじんをおんなからおとこにかえただけであっ)

ろうはずはない。哀れな少女はただ恩人を女から男に換えただけであっ

(た。が、こんどというこんどは、ふょーどるぱーヴろヴぃっちにもびたいちもん)

た。が、今度という今度は、フョードル・パーヴロヴィッチにも鐚一文

(びたいちもんとることができなかった。なにしろ、しょうぐんふじんがかんかん)

びたいちもんとることができなかった。なにしろ、将軍夫人がかんかん

(にいかって、なにひとつくれなかったばかりか、ふたりをのろってさえいたから)

に怒って、何一つくれなかったばかりか、二人をのろってさえいたから

(である。もっとも、かれもこんどはじさんきんをとろうとはあてにしていなかっ)

である。もっとも、彼も今度は持参金を取ろうとは当てにしていなかっ

(た。ただむじゃきなしょうじょのきわだったうつくしさにまよっただけであった。なによ)

た。ただ無邪気な少女のきわだった美しさに迷っただけであった。何よ

(りもそのむじゃきなようしが、これまでひわいなおんなのいろかにのみなじ)

りもその無邪気な容姿が、これまでひわいな女の色香にのみなじ

(んで、あらすさみきっていたおんなたらしのこころをうったのである。)

んで、荒すさみきっていた女たらしの心を打ったのである。

(「あのむじゃきなめが、ちょうど、かみそりかみそりのはのように、おれのこころ)

『あの無邪気な眼が、ちょうど、剃刀かみそりの刃のように、おれの心

(をひやっとさせたのさ」と、かれはあとになって、れいのいやらしい、しのびわらい)

をひやっとさせたのさ』と、彼は後になって、例のいやらしい、忍び笑

(いをしながら、よくいいいいしたものである。もっとも、おんなたらしにと)

いをしながら、よく言い言いしたものである。もっとも、女たらしにと

(っては、これもおそらくは、たんなるにくよくてきなしょっくであったかもしれ)

っては、これもおそらくは、単なる肉欲的なショックであったかもしれ

(ぬ。ふょーどるぱーヴろヴぃっちは、なんのもうけにもならなかった)

ぬ。フョードル・パーヴロヴィッチは、なんのもうけにもならなかった

(このつまにたいしてはなんのえんりょえしゃくもしなかった。それに、かのじょがおっとに)

この妻に対してはなんの遠慮会釈もしなかった。それに、彼女が良人に

(たいして、いわば「つみでもあるような」かぜでいるのをいいことにして、)

対して、いわば『罪でもあるような』風でいるのをいいことにして、

(また、ほとんどじぶんが「わさくわなわにかかる」ところをすくってやった)

また、ほとんど自分が『輪索わなわにかかる』ところを救ってやった

(ようなたちばにいるのにつけこんで、さらにまたうまれつきひじょうにすなお)

ような立場にいるのにつけこんで、さらにまた生まれつき非常にすなお

(でうちきなのにつけこんで、かれはふうふかんのきわめてふつうなれいぎさえも、ふみ)

で内気なのにつけこんで、彼は夫婦間のきわめて普通な礼儀さえも、踏

(みにじってかえりみなかった。つまがちゃんとひかえているいえのなかへ、せいのわるい)

みにじって顧みなかった。妻がちゃんと控えている家の中へ、性の悪い

(おんなどもがのりこんできて、らんちきさわぎをやることもあった。ここに、そ)

女どもが乗りこんで来て、乱痴気騒ぎをやることもあった。ここに、そ

(のころのきわだったこととしてしょうかいしておきたいのは、あのいんきで、ぐ)

のころのきわだったこととして紹介しておきたいのは、あの陰気で、愚

(かしく、がんこで、りくつっぽいげなんのぐりごりいがまえのふじんあでらいーだ)

かしく、頑固で、理屈っぽい下男のグリゴリイが前の夫人アデライーダ

(いわーのヴなをにくんでいたのに、こんどはあたらしいおくさまのみかたになって、)

・イワーノヴナを憎んでいたのに、今度は新しい奥様の味方になって、

(ほとんどげなんにはあるまじきたいどで、ふょーどるぱーヴろヴぃっちと)

ほとんど下男にはあるまじき態度で、フョードル・パーヴロヴィッチと

(けんかけんかまでして、かのじょをかばっていたことである。あるときなどは、)

喧嘩けんかまでして、彼女をかばっていたことである。ある時などは、

(いえへあつまってらんちきさわぎをしているはすはすっはぱなおんなどもを、うでづくで)

家へ集まって乱痴気騒ぎをしている蓮はすっ葉ぱな女どもを、腕づくで

(ひとりのこらずおいはらったほどであった。そのあと、こどものころからたえずお)

一人残らず追い払ったほどであった。その後、子供のころから絶えずお

(びえてばかりいたこのふしあわせなわかいおんなは、いっしゅのふじんしんけいびょうにかか)

びえてばかりいたこの不仕合わせな若い女は、一種の婦人神経病にかか

(った。それはいなかのひゃくしょうおんななどにじつによくみられるびょうきで、このびょうきに)

った。それは田舎の百姓女などに実によく見られる病気で、この病気に

(かかったおんなは「ひょうつかれたおんな」とよばれていた。おそろしいひすてりいの)

かかった女は『憑つかれた女』と呼ばれていた。恐ろしいヒステリイの

(ほっさをともなうこのびょうきのために、びょうにんはときとしてりせいをさえうしなうことがあ)

発作を伴うこの病気のために、病人は時として理性をさえ失うことがあ

(った。とはいえ、かのじょはふょーどるぱーヴろヴぃっちとのあいだに、)

った。とはいえ、彼女はフョードル・パーヴロヴィッチとのあいだに、

(いわんとあれくせいのふたりのこをもうけた。うえのほうはけっこんのとしに、した)

イワンとアレクセイの二人の子をもうけた。上のほうは結婚の年に、下

(のほうは3ねんたってからであった。かのじょがなくなったとき、あれくせい)

のほうは三年たってからであった。彼女が亡くなったとき、アレクセイ

(はよっつになっていたが、かれは、ふしぎなことには、いっしょうをつうじて、もと)

は四つになっていたが、彼は、不思議なことには、一生を通じて、もと

(より、ゆめのようなものではあったが、よくははおやのことをおぼえていた。はは)

より、夢のようなものではあったが、よく母親のことを覚えていた。母

(がなくなってからふたりのこどもは、ちょうなんのみーちゃのばあいとほとんどそっ)

が亡くなってから二人の子供は、長男のミーチャの場合とほとんどそっ

(くりそのままのうんめいにおちいった。すなわち、ふたりはちちおやからすっかりわすれ)

くりそのままの運命に陥った。すなわち、二人は父親からすっかり忘れ

(られ、みすてられて、やはりおなじぐりごりいのてにかかって、げなんこや)

られ、見すてられて、やはり同じグリゴリイの手にかかって、下男小屋

(へひきとられたのであった。ふたりのははのおんじんであり、そだてのおやであった)

へ引き取られたのであった。二人の母の恩人であり、育ての親であった

(ごうじょうもののしょうぐんふじんがかれらをはじめてみたのも、やはり、このげなんこやで)

強情者の将軍夫人が彼らをはじめて見たのも、やはり、この下男小屋で

(あった。ふじんはまだいきていたが、8ねんのあいだ、つねにじぶんのうけたあなどり)

あった。夫人はまだ生きていたが、八年のあいだ、常に自分の受けた侮

(はじをわすれることができなかった。かのじょはこの8ねんのあいだ、「そふぃや)

辱を忘れることができなかった。彼女はこの八年のあいだ、『ソフィヤ

(」がどんなくらしをしているか、それとなく、きわめてせいかくなしょうそくをて)

』がどんな暮らしをしているか、それとなく、きわめて正確な消息を手

(にいれて、かのじょがびょうきをしていることや、いかばかりみにくいばめんのなかにくれ)

に入れて、彼女が病気をしていることや、いかばかり醜い場面の中に暮

(らしているかをみみにすると、いちどならず、2ども3ども、くちにだしてきょ)

らしているかを耳にすると、一度ならず、二度も三度も、口に出して居

(こうのおんなたちにむかってささやいたものであった、「それがあれにはあた)

候の女たちに向かってささやいたものであった、『それがあれにはあた

(りまえなのだよ。かみさまがあれのおんしらずなしうちにばつをおあてなすった)

りまえなのだよ。神様があれの恩知らずな仕打ちに罰をお当てなすった

(のだ」)

のだ』

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