魯迅 阿Q正伝その12
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問題文
(だい4しょうれんあいのひげき)
第4章 恋愛の悲劇
(こういうひとがあった。しょうりしゃというものは、あいてがとらのようなたかのようなも)
こういう人があった。勝利者というものは、相手が虎のような鷹のようなも
(のであれかしとねがい、それでこそかれははじめてしょうりのかんきをかんじるのだ。もしあい)
のであれかしと願い、それでこそ彼は初めて勝利の歓喜を感じるのだ。もし相
(てがひつじのようなものだったら、かれはかえってしょうりのぶりょう(ぶりょう)をかんじる)
手が羊のようなものだったら、彼はかえって勝利の無聊(ぶりょう)を感じる
(。またしょうりしゃというものは、いっさいをせいふくしたあとでしぬものはしに、くだ(くだ)
。また勝利者というものは、一切を征服したあとで死ぬものは死に、降(くだ
()るものはふって、「しんせいこうせいきょうしざいしざい(しんせいこうせいきょうしざいし)
)るものは降って、「臣誠惶誠恐死罪死罪(しんせいこうせいきょうしざいし
(ざい)」というようなじょうたいになると、かれはてきがなくなりあいてがなくなりともだちが)
ざい)」というような状態になると、彼は敵が無くなり相手が無くなり友達が
(なくなり、たったひとりじょうにいるじぶんだけがべつものになって、すご(すさま)じくりん)
無くなり、たった一人上にいる自分だけが別物になって、凄(すさま)じく淋
(しくかえってしょうりしゃのひあいをかんじる。ところがわがあきゅうにおいてはこのような)
しくかえって勝利者の悲哀を感じる。ところが我が阿Qにおいてはこのような
(けつぼうはなかった。ひょっとするとこれはしな(しな)のせいしんぶんめいがぜんきゅうだい1で)
欠乏はなかった。ひょっとするとこれは支那(しな)の精神文明が全球第1で
(ある1つのしょうこかもしれない。)
ある1つの証拠かもしれない。
(みたまえ。かれはふらりふらりといまにもとびだしそうなようすだ。)
見たまえ。彼はふらりふらりと今にも飛び出しそうな様子だ。
(しかしながらこのいっかいのしょうりがいささかいようなへんかをかれにあたえた。かれはしば)
しかしながらこの一回の勝利がいささか異様な変化を彼に与えた。彼はしば
(らくのあいだふらりふらりととんでいたが、やがてまたふらりとおいなりさま(おいな)
らくの間ふらりふらりと飛んでいたが、やがてまたふらりとお稲荷様(おいな
(りさま)にはいった。じょうれいによるとそこですぐよこになっていびき(いびき)をかくん)
りさま)に入った。常例に拠るとそこですぐ横になって鼾(いびき)をかくん
(だが、どうしたものかそのばんにかぎってすこしもねぶれない。かれはじぶんのおやゆびとひとさし)
だが、どうしたものかその晩に限って少しも睡れない。彼は自分の親指と人差
(ゆびがいつもよりもたいそうあぶらみなぎ(あぶらぎ)ってへんなかんじがした。わかいあまのかおのうえ)
指がいつもよりも大層脂漲(あぶらぎ)って変な感じがした。若い尼の顔の上
(のあぶらがかれのゆびさきにねばりついたのかもしれない。それともまたかれのゆびさきがあまのめん)
の脂が彼の指先に粘りついたのかもしれない。それともまた彼の指先が尼の面
((つら)のかわにこすられてすべっこくなったのかもしれない。)
(つら)の皮にこすられてすべっこくなったのかもしれない。
(「あきゅうのばつあたりめ。おまえのよつ(よつ)ぎはた(た)えてしまうぞ」)
「阿Qの罰当りめ。お前の世嗣(よつ)ぎは断(た)えてしまうぞ」
(あきゅうのみみたぶ(みみたぶ)のなかにはこのこえがたしかにきこえていた。かれはそうおもっ)
阿Qの耳朶(みみたぶ)の中にはこの声が確かに聞えていた。彼はそう想っ
(た。)
た。
(「ちげえねえ。ひとりのおんながあればこそだ。こがた(た)えまごがた(た)えてし)
「ちげえねえ。一人の女があればこそだ。子が断(た)え孫が断(た)えてし
(まったら、しんだあとでいちわんのごはんをそなえるものがない。ひとりのおんながあれば)
まったら、死んだあとで一碗の御飯を供える者がない。一人の女があれば
(こそだ」)
こそだ」
(いったい「ふこうには3つのしゅるいがあってこうし(あとつ)ぎがないのがいちばんわるい」)
一体「不孝には3つの種類があって後嗣(あとつ)ぎが無いのが一番悪い」
(、そのうえ「じゃくごうのおにだいじ(むえんぼとけのひぼし)」これもまたじんせいのいちだい)
、そのうえ「若敖之鬼餒而(むえんぼとけのひぼし)」これもまた人生の一大
(ひあいだ。だからかれもそうかんがえて、じっさいどれもこれもせいけんのおしえ(おしえ)にがっち)
悲哀だ。だから彼もそう考えて、実際どれもこれも聖賢の教(おしえ)に合致
(していることをやったんだが、ただおしいことに、あとになってから「こころのこまを)
していることをやったんだが、ただ惜しいことに、後になってから「心の駒を
(ひきしめることができなかった」)
引き締めることが出来なかった」
(「おんな、おんな」とかれはおもった。)
「女、女」と彼は想った。
(「おしょう(ようき)はうごく。おんな、おんな!おんな!」とかれはおもった。)
「和尚(陽器)は動く。女、女!女!」と彼は想った。
(われわれはそのばんいつじぶんになって、あきゅうがようやくいびきをかいたかをしるこ)
われわれはその晩いつ時分になって、阿Qがようやく鼾をかいたかを知るこ
(とができないが、とにかくそれからというものはかれのゆびさきにおんなのあぶらがこびりつ)
とが出来ないが、とにかくそれからというものは彼の指先に女の脂がこびりつ
(いて、どうしても「おんな!」をおもわずにはいられなかった。)
いて、どうしても「女!」を思わずにはいられなかった。
(たったこれだけでも、おんなというものはひとにがいをあたえるしろもの(しろもの)だと)
たったこれだけでも、女というものは人に害を与える代物(しろもの)だと
(しればいい。)
知ればいい。