半七捕物帳 雪達磨3

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岡本綺堂 半七捕物帳シリーズ

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問題文

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(はんしちはそれからにほんばしのばくろちょうへいった。しがいのみなりからかんがえて、)

【二】半七はそれから日本橋の馬喰町へ行った。死骸の服装からかんがえて、

(まずばくろちょうのやどやをいちおうしらべてみるのがせいとうのじゅんじょであった。そのとなりちょうに)

まず馬喰町の宿屋を一応調べてみるのが正当の順序であった。その隣り町に

(きくいちというこまものやがあって、こうじまちのおおどおりのきくいちとともに、したまちではゆうめいな)

菊一という小間物屋があって、麹町の大通りの菊一と共に、下町では有名な

(しにせとしてしられていた。はんしちはかおをしっているばんとうをよびだして、このみっかの)

老舗として知られていた。半七は顔を識っている番頭をよび出して、この三日の

(ひになんきんだまをかいにきたいなかのひとはなかったかときいた。)

日に南京玉を買いに来た田舎の人はなかったかと訊いた。

(はんじょうのみせであるからあさからばんまできゃくのたえまはない。したがってなんきんだまを)

繁昌の店であるから朝から晩まで客の絶え間はない。したがって南京玉を

(うったぐらいのおきゃくをいちいちきおくしていることはこんなんであったが、さいわいにとうじつが)

売ったぐらいのお客を一々記憶していることは困難であったが、幸いに当日が

(しょうがつそうそうであるのと、かのおおゆきがふりつづいたのとで、ほとんどしょうばいはやすみどうようで)

正月早々であるのと、かの大雪が降りつづいたのとで、殆ど商売は休み同様で

(あったために、きくいちのばんとうはそのひにかいものにきたたったさんにんのきゃくをよく)

あったために、菊一の番頭はその日に買物に来たたった三人の客をよく

(きおくしていた。そのふたりはきんじょのむすめで、ほかのひとりはばくろちょうのしなのやという)

記憶していた。その二人は近所の娘で、他のひとりは馬喰町の信濃屋という

(やどやにとまっているきゃくであったとかれはせつめいした。)

宿屋に泊まっている客であったと彼は説明した。

(「なはしりませんが、きょねんのくれにもいちどきて、むらのみやげにするのだといって)

「名は知りませんが、去年の暮にも一度来て、村の土産にするのだと云って

(あぶらやもっといなぞをかっていったことがあります。みっかのあさにもゆきのふるのに)

油や元結なぞを買って行ったことがあります。三日の朝にも雪の降るのに

(やってきて、どうしてもあしたはたたなければならないから、きんじょのこどもたちの)

やって来て、どうしてもあしたは発たなければならないから、近所の子供たちの

(みやげにするのだといって、なんきんだまをにひゃくもんかっていきました」)

土産にするのだと云って、南京玉を二百文買って行きました」

(そのいなかのひとのにんそうやとしごろやみなりなどをくわしくききただして、はんしちはさらに)

その田舎の人の人相や年頃や服装などをくわしく聞きただして、半七は更に

(しなのやにあしをむけた。しなのやのばんとうはやどちょうをしらべて、そのきゃくはじょうしゅうおおたのざいの)

信濃屋に足をむけた。信濃屋の番頭は宿帳をしらべて、その客は上州太田の在の

(ひゃくしょうじんえもんよんじゅうにさいで、きょねんのくれのにじゅうよっかからとうりゅうしていた。どうしても)

百姓甚右衛門四十二歳で、去年の暮の二十四日から逗留していた。どうしても

(ねんないにはかえらなければならないといっていたが、それがだんだんにのびて)

年内には帰らなければならないと云っていたが、それがだんだんに延びて

(とうとうここでとしをこすことになった。さんがにちがすんで、よっかのひはぜひたつと)

とうとうここで年を越すことになった。三ガ日がすんで、四日の日は是非たつと

など

(いっていたが、そのぜんじつのひるすぎにきんじょへかいものにゆくといってでたぎりかえって)

云っていたが、その前日の午すぎに近所へ買物にゆくと云って出たぎり帰って

(こないので、やどのほうでもしんぱいしている。もっともきょねんじゅうのやどちんはおおみそかのばんに)

こないので、宿の方でも心配している。尤も去年じゅうの宿賃は大晦日の晩に

(きれいにかんじょうをすませてあるので、そのあとのぶんはしれたものではあるが、)

綺麗に勘定をすませてあるので、その後の分は知れたものではあるが、

(ともかくもむだんでどこかへかたをかくしてしまうのはおかしいと、ちょうばでもまいにち)

ともかくも無断でどこかへ形を隠してしまうのはおかしいと、帳場でも毎日

(そのうわさをしているとのことであった。)

その噂をしているとのことであった。

(「じゃあ、きのどくだがかんだまできてくれ。なに、けっしてめいわくはかけねえから」)

「じゃあ、気の毒だが神田まで来てくれ。なに、決して迷惑はかけねえから」

(めいわくそうなかおをしているばんとうをひっぱりだして、はんしちはかれをかんだのじしんばんへ)

迷惑そうな顔をしている番頭を引っ張り出して、半七は彼を神田の自身番へ

(つれていった。ばんとうはそのしがいをみせられて、たしかにそれはじぶんのやどに)

連れて行った。番頭はその死骸を見せられて、たしかにそれは自分の宿に

(みっかまでとまっていたじんえもんといういなかきゃくにそういないともうしたてた。)

三日まで泊まっていた甚右衛門という田舎客に相違ないと申し立てた。

(これでまずしにんのみもとはわかったが、かれがなにものにつれだされて、どうして)

これで先ず死人の身許は判ったが、かれが何者に連れ出されて、どうして

(ころされたかということはちっともそうぞうがつかなかった。)

殺されたかということは些っとも想像が付かなかった。

(はんしちがきくいちへせんぎにいったのは、ゆきだるまのとけているげんばでなんきんだまをみっつよっつ)

半七が菊一へ詮議に行ったのは、雪達磨のとけている現場で南京玉を三つ四つ

(はっけんしたからであった。きんじょのむすめこどもがおとしたものか、あるいはしにんの)

発見したからであった。近所の娘子供が落としたものか、あるいは死人の

(しょじひんかと、はんしちはじしんばんへひっかえしてしにんのたもとをていねいにあらためると、)

所持品かと、半七は自身番へ引っ返して死人の袂を丁寧にあらためると、

(たもとのそこからたったひとつぶのなんきんだまがはっけんされたので、かれがなんきんだまのもちぬしで)

袂の底からたった一と粒の南京玉が発見されたので、かれが南京玉の持主で

(あったことはたしかめられた。しじゅういじょうのいなかものらしいおとこがなんきんだまなどをもって)

あったことは確かめられた。四十以上の田舎者らしい男が南京玉などを持って

(いるはずがないから、おそらくどこかのこどもにでもやるつもりでたもとのなかにいれて)

いる筈がないから、おそらく何処かの子供にでもやるつもりで袂のなかに入れて

(おいたものであろうとはんしちはかんていした。)

置いたものであろうと半七は鑑定した。

(もちろんそのなんきんだまをどうしててにいれたのか、かったのかもらったのか、ちっとも)

勿論その南京玉をどうして手に入れたのか、買ったのか貰ったのか、ちっとも

(けんとうはつかないのであるが、かりにまずそれをかったものとして、はんしちはその)

見当は付かないのであるが、仮りに先ずそれを買ったものとして、半七はその

(かいさきをかんがえた。もともとこどものおもちゃどうようのものであるから、どこで)

買い先をかんがえた。もともと子供の玩具同様のものであるから、どこで

(かったかほとんどくもをつかむようなたずねものであったが、いなかのひとはつまらないものを)

買ったか殆ど雲をつかむような尋ね物であったが、田舎の人は詰まらないものを

(かうにも、とかくのれんのふるいみせをえらむくせがあるのをしっているので、)

買うにも、とかく暖簾の古い店をえらむ癖があるのを知っているので、

(かれはまずばくろちょうのきんじょでもっともなだかいこまものやにめをつけて、あんがいにやすやすと)

かれは先ず馬喰町の近所で最も名高い小間物屋に眼をつけて、案外に安々と

(そのてがかりをさぐりだすことができたのであった。)

その手がかりを探り出すことが出来たのであった。

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