半七捕物帳 筆屋の娘4

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問題文
(げんじをかえしたあとで、はんしちはかたびらをきかえていえをでた。)
二 源次を帰したあとで、半七は帷子を着かえて家を出た。
(かれはしたやへゆくとちゅう、みょうじんしたのいもうとのいえをたずねた。)
彼は下谷へゆく途中、明神下の妹の家をたずねた。
(「おや、にいさん。あいかわらずおあつうござんすね」と、おくめはあいそよく)
「おや、兄さん。相変わらずお暑うござんすね」と、お粂は愛想よく
(あにをむかえた。 「おふくろは・・・・・・」)
兄を迎えた。 「おふくろは……」
(「ごきんじょのかたといっしょにたろうさまへ・・・・・・」)
「御近所のかたと一緒に太郎様へ……」
(「むむ、たろうさまか。このごろはめっぽうにはやりだしたもんだ。おれもこのあいだ)
「むむ、太郎様か。この頃は滅法にはやり出したもんだ。おれもこのあいだ
(いってみてびっくりしたよ。まるでごかいちょうのようなさわぎだ」)
行って見てびっくりしたよ。まるで御開帳のような騒ぎだ」
(「あたしもこのあいだごさんけいにいっておどろきました。かみさまもはやるとなると)
「あたしもこのあいだ御参詣に行っておどろきました。神様もはやるとなると
(たいへんなものですね」)
大変なものですね」
(「ときにこんなものをかがさまのおてこのひとにもらったから、おふくろに)
「時にこんな物を加賀様のお手古の人に貰ったから、おふくろに
(やってくんねえ」 はんしちはふろしきをあけてらくがんのおりをだした。)
やってくんねえ」 半七は風呂敷をあけて落雁の折を出した。
(「ああ、すみがたらくがん。これはかがさまのおくにのめいぶつですってね。うちでもいちど)
「ああ、墨形落雁。これは加賀様のお国の名物ですってね。家でも一度
(もらったことがありました。おっかさんははがいいから、こんなかたいものでも)
貰ったことがありました。阿母さんは歯がいいから、こんな固いものでも
(へいきでかじるんですよ」と、おくめはわらっていた。)
平気でかじるんですよ」と、お粂は笑っていた。
(かのじょはちゃをいれながら、あににきいた。 「にいさん。このごろはいそがしいんですか」)
彼女は茶を淹れながら、兄に訊いた。 「兄さん。この頃は忙しいんですか」
(「むむ、たいしてむずかしいごようもねえが、こうとくじまえにちょっとしたことが)
「むむ、たいしてむずかしい御用もねえが、広徳寺前にちょっとしたことが
(あるから、これからそっちへいってみようかとおもっている」)
あるから、これからそっちへ行って見ようかと思っている」
(「こうとくじまえ・・・・・・。なめふでのむすめじゃないの」 「おまえしっているのか」)
「広徳寺前……。舐め筆の娘じゃないの」 「おまえ知っているのか」
(「あのむすめはきょうだいともしゃみせんぼりのそばにいるもじはるさんというひとのところへ)
「あの娘は姉妹とも三味線堀のそばにいる文字春さんという人のところへ
(おけいこにいっていたんです。いもうとはまだいっているかもしれません。)
お稽古に行っていたんです。妹はまだ行っているかも知れません。
(そのねえさんのほうがとんししたというんで、あたしもびっくりしました。)
その姉さんの方が頓死したというんで、あたしもびっくりしました。
(どくをのんだというのはほんとうですか」)
毒を飲んだというのはほんとうですか」
(「そりゃあほんとうだが、じぶんでのんだのか、ひとにのまされたのか、)
「そりゃあほんとうだが、自分で飲んだのか、人に飲まされたのか、
(そこのところがまだはっきりとおれのふにおちねえ。おまえ、そのもじはるという)
そこのところがまだはっきりとおれの腑に落ちねえ。おまえ、その文字春という
(ししょうをしっているなら、そこへいっていもうとのことをすこしきいてきてくれねえか。)
師匠を識っているなら、そこへ行って妹のことを少し訊いて来てくれねえか。
(いもうとはどんなおんなだか、なにかおとこでもあるらしいようすはねえか、)
妹はどんな女だか、なにか情夫でもあるらしい様子はねえか、
(とうざんどうのおやたちはどんなにんげんか、そんなことをわかるだけしらべてきてくれ」)
東山堂の親達はどんな人間か、そんなことを判るだけ調べて来てくれ」
(「よござんす。おひるすぎにいってきいてきましょう」)
「よござんす。お午過ぎに行って訊いて来ましょう」
(「じょさいもあるめえが、はんしちのいもうとだ。うまくやってくれ」)
「如才もあるめえが、半七の妹だ。うまくやってくれ」
(「ほほほほほ。あたしはしょうばいちがいですもの」)
「ほほほほほ。あたしは商売違いですもの」
(「そこをたのむんだ。うまくいったらうなぎでもかうよ」)
「そこを頼むんだ。うまく行ったら鰻でも買うよ」
(いもうとにたのんではんしちはそこをでると、どこのみせでももうひよけをおろして、)
妹に頼んで半七はそこを出ると、どこの店でももう日よけをおろして、
(ざんしょのつよいあさのひはそばやのみせさきにほしてあるたくさんのせいろうを)
残暑の強い朝の日は蕎麦屋の店さきに干してあるたくさんの蒸籠を
(あかあかとてらしていた。)
あかあかと照らしていた。
(とくほうじをたずねてじゅうしょくにあうと、じゅうしょくはもうしちじゅうくらいのひんのいいろうそうで、)
徳法寺をたずねて住職に逢うと、住職はもう七十くらいの品のいい老僧で、
(はんしちのしつもんにたいしていちいちあきらかにこたえた。とていのぜんしゅうはふなばしのざいの)
半七の質問に対して一々あきらかに答えた。徒弟の善周は船橋在の
(のうかのじなんで、ここのつのあきからこのてらへきてあしかけじゅうにねんになるが、)
農家の次男で、九歳の秋からこの寺へ来て足かけ十二年になるが、
(としのわりにはしゅぎょうがつんでいる。ひんこうもよい。じぶんもそのゆくすえを)
年の割には修行が積んでいる。品行もよい。自分もその行く末を
(たのしみにしていたのに、なんのしさいでこんなふりょのおうじょうをとげたのか)
楽しみにしていたのに、なんの仔細でこんな不慮の往生を遂げたのか
(いっこうわからない。むろんにかきおきもない、どくやくらしいものもあとにのこっていない。)
一向判らない。無論に書置もない、毒薬らしい物もあとに残っていない。
(したがってせんぎのしようもないのにとうわくしていると、ろうそうはしろいまゆをひそめて)
したがって詮議のしようもないのに当惑していると、老僧は白い眉をひそめて
(はなした。 ふでやのむすめとのかんけいについては、かれはぜったいにひにんした。)
話した。 筆屋の娘との関係については、かれは絶対に否認した。
(「なるほど、きんじょずからのことでもあれば、ふでやのみせにたちよったことも)
「なるほど、近所ずからの事でもあれば、筆屋の店に立ち寄ったことも
(ござろう。むすめたちとじょうだんぐらいはいったこともござろう。)
ござろう。娘たちと冗談ぐらいは云ったこともござろう。
(しかしむすめといたずらごとなど、かけてもあろうはずはござらぬ。)
しかし娘といたずら事など、かけても有ろう筈はござらぬ。
(それはてまえがほんぞんあみだにょらいのまえでせいごんたててもくるしゅうござらぬ。)
それは手前が本尊阿弥陀如来の前で誓言立てても苦しゅうござらぬ。
(たといなんぴとがなんともうそうとも、さようのぎは・・・・・・」)
たとい何人がなんと申そうとも、左様の儀は……」
(りっぱにいいきられて、はんしちもちゅうちょした。じゅうしょくのかおいろとくちぶりとに)
立派に云い切られて、半七も躊躇した。住職の顔色と口振りとに
(なんのいんえいもないらしいことは、たねんのけいけんでかれにもよくわかっていた。)
何の陰影もないらしいことは、多年の経験で彼にもよく判っていた。
(それとどうじに、しんじゅうのすいていがこんぽんからくつがえされてしまうことを)
それと同時に、心中の推定が根本からくつがえされてしまうことを
(かくごしなければならなかった。かれはさらにだいにだんのそうさくにとりかかった。)
覚悟しなければならなかった。彼は更に第二段の捜索に取りかかった。