半七捕物帳 勘平の死1

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岡本綺堂 半七捕物帳シリーズ 第三話
宮部みゆきセレクト 其ノ伍
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 りく 5802 A+ 5.9 97.8% 345.9 2051 44 33 2024/10/08

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(れきししょうせつのろうたいかtせんせいをあかさかのおたくにほうもんして、えどのむかしのおはなしを)

歴史小説の老大家T先生を赤坂のお宅に訪問して、江戸のむかしのお話しを

(いろいろうかがったので、わたしはまたかのはんしちろうじんにもあいたくなった。)

いろいろ伺ったので、わたしは又かの半七老人にも逢いたくなった。

(tせんせいのおたくをでたのはごごさんじごろで、あかさかのおおどおりではしごとしがいえいえのまえに)

T先生のお宅を出たのは午後三時頃で、赤坂の大通りでは仕事師が家々のまえに

(かどまつをたてていた。さとうやのみせさきにはしち、はちにんのおとこやおんなが、せまそうに)

門松を立てていた。砂糖屋の店さきには七、八人の男や女が、狭そうに

(おしあっていた。ねんまつおおうりだしのかみびらやたてかんばんや、あかいちょうちんや)

押し合っていた。年末大売出しの紙ビラや立看板や、紅い提灯や

(むらさきのはたや、にごったがくたいのおとや、かんばしったちくおんきのひびきや、)

むらさきの旗や、濁った楽隊の音や、甲走った蓄音機のひびきや、

(それらのしきさいとおんがくとがひとつにとけあって、しわすのみやこのちまたに)

それらの色彩と音楽とが一つに溶け合って、師走の都の巷に

(あわただしいきぶんをつくっていた。 「もうかぞえびだ」)

あわただしい気分を作っていた。 「もう数え日だ」

(こうおもうと、わたしのようにひまじんがほうぼうのおじゃまをしてあるいているのは、)

こう思うと、わたしのように閑人が方々のお邪魔をして歩いているのは、

(あまりこころないしわざであることをかんがえなければならなかった。)

あまり心ない仕業であることを考えなければならなかった。

(わたしも、もうまっすぐにじぶんのうちへかえろうとおもいなおした。そうして、でんしゃの)

私も、もうまっすぐに自分の家へ帰ろうと思い直した。そうして、電車の

(ていりゅうじょうのほうへぶらぶらあるいてゆくと、おうらいなかでちょうどはんしちろうじんにであった。)

停留場の方へぶらぶら歩いてゆくと、往来なかでちょうど半七老人に出逢った。

(「どうなすった。このごろしばらくみえませんでしたね」)

「どうなすった。この頃しばらく見えませんでしたね」

(ろうじんはいつもげんきよくわらっていた。)

老人はいつも元気よく笑っていた。

(「じつはこれからうかがおうかとおもったんですが、としのくれにおじゃまをしても)

「実はこれから伺おうかと思ったんですが、歳の暮にお邪魔をしても

(わるいとおもって・・・・・・」)

悪いと思って……」

(「なあに、わたくしはどうせいんきょのみぶんです。ぼんもくれもしょうがつもあるもんですか。)

「なあに、わたくしはどうせ隠居の身分です。盆も暮も正月もあるもんですか。

(あなたのほうさえごようがなけりゃあ、ちょっとよっていらっしゃい」)

あなたの方さえ御用がなけりゃあ、ちょっと寄っていらっしゃい」

(わたりにふねというのはまったくこのことであった。わたしはえんりょなしにそのあとに)

渡りに舟というのは全くこの事であった。わたしは遠慮なしにそのあとに

(ついていくと、ろうじんはさきにたってこうしをあけた。 「ばあや。おきゃくさまだよ」)

ついて行くと、老人は先に立って格子をあけた。 「老婢。お客様だよ」

など

(わたしはいつものろくじょうにとおされた。それからまたいつものとおりによいおちゃがでる。)

私はいつもの六畳に通された。それから又いつもの通りに佳いお茶が出る。

(うまいかしがでる。いそがしいしわすのしゃかいととおくかけはなれているろうじんとわかいものとは、)

旨い菓子が出る。忙しい師走の社会と遠く懸け放れている老人と若い者とは、

(とけいのないくににすんでいるように、ひのくれるころまでのんびりしたこころもちで)

時計のない国に住んでいるように、日の暮れる頃までのんびりした心持で

(かたりつづけた。)

語りつづけた。

(「ちょうどいまごろでしたね。きょうばしのいずみやでしろうとしばいのあったのは・・・・・・」と、)

「ちょうど今頃でしたね。京橋の和泉屋で素人芝居のあったのは……」と、

(ろうじんはおもいだしたようにいった。)

老人は思い出したように云った。

(「なんです。しろうとしばいがどうしたんです」)

「なんです。しろうと芝居がどうしたんです」

(「そのときにひとそうどうもちあがりましてね。そのときにはわたしもすこしあたまを)

「その時に一と騒動持ち上がりましてね。その時には私も少し頭を

(いためましたよ。あれはたしかあんせいうまどしのじゅうにがつ、としのくれにしてはあたたかいばんでした。)

痛めましたよ。あれは確か安政午年の十二月、歳の暮にしては暖かい晩でした。

(いずみやというのはおおきなかなものやで、みせはぐそくちょうにありました。)

和泉屋というのは大きな鉄物屋で、店は具足町にありました。

(うちじゅうがしばいきちがいでしてね、とうとうたいへんなさわぎをおっぱじめて)

家中が芝居気ちがいでしてね、とうとう大変な騒ぎをおっ始めて

(しまったんです。じゃあ、またいつものてがらばなしをはじめますから、)

しまったんです。じゃあ、又いつもの手柄話を始めますから、

(まあきいてください」)

まあ聴いてください」

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