半七捕物帳 勘平の死2

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問題文
(あんせいごねんのくれはあんがいにあたたかいひがし、ごにちつづいた。はんしちは)
安政五年の暮は案外にあたたかい日が四、五日つづいた。半七は
(あさめしをすませて、それからはっちょうぼりのだんな(どうしん)がたのところへせいぼにでも)
朝飯を済ませて、それから八丁堀の旦那(同心)方のところへ歳暮にでも
(まわろうかとおもっていると、いもうとのおくめがだいどころのほうからいそがしそうにはいってきた。)
廻ろうかと思っていると、妹のお粂が台所の方から忙しそうにはいって来た。
(おくめはははのおたみとみょうじんしたにせたいをもって、ときわずのししょうをしているのであった。)
お粂は母のお民と明神下に世帯を持って、常磐津の師匠をしているのであった。
(「ねえさん、おはようございます。にいさんはもうおきていて・・・・・・」)
「姉さん、お早うございます。兄さんはもう起きていて……」
(「あら、おくめちゃん、おあがんなさい。たいへんにはやく、どうしたの」)
「あら、お粂ちゃん、お上がんなさい。大変に早く、どうしたの」
(「すこしにいさんにたのみたいことがあって・・・・・・」と、おくめはうしろを)
「すこし兄さんに頼みたいことがあって……」と、お粂はうしろを
(ちょっとみかえった。 「さあ、おはいんなさいよ」)
ちょっと見返った。 「さあ、おはいんなさいよ」
(おくめのかげにはまだひとりのおんながしょんぼりとたっていた。おんなはさんじゅうしちはちの)
お粂の蔭にはまだ一人の女がしょんぼりと立っていた。女は三十七八の
(いきなおおどしまで、おくめとおなじしょうばいのひとであるらしいことはおせんにも)
粋な大年増で、お粂と同じ商売の人であるらしいことはお仙にも
(すぐにさとられた。 「あの、おまえさん、どうぞこちらへ」)
すぐに覚られた。 「あの、お前さん、どうぞこちらへ」
(たすきをはずしてえしゃくをすると、おんなはおずおずはいってきてていねいにえしゃくした。)
たすきをはずして会釈をすると、女はおずおずはいって来て丁寧に会釈した。
(「これはおかみさんでございますか。わたくしはしたやにおります)
「これはおかみさんでございますか。わたくしは下谷に居ります
(もじきよともうしますもので、こちらのもじふささんにはまいどおせわになっております」)
文字清と申します者で、こちらの文字房さんには毎度お世話になって居ります」
(「いいえ、どういたしまして。おくめこそとしがいきませんから、)
「いいえ、どう致しまして。お粂こそ年が行きませんから、
(さぞごやっかいになりましょう」)
さぞ御厄介になりましょう」
(このあいだにおくめはおくへはいってまたでてきた。もじきよというおんなはかのじょにあんないされて、)
この間にお粂は奥へはいって又出て来た。文字清という女は彼女に案内されて、
(しんけいのとがったらしいあおざめたかおをはんしちのまえにだした。もじきよはこめかみに)
神経の尖ったらしい蒼ざめた顔を半七のまえに出した。文字清はこめかみに
(ずつうこうをはって、そのめもすこしちばしっていた。)
頭痛膏を貼って、その眼もすこし血走っていた。
(「にいさん。さっそくですが、このもじきよさんがおまえさんにおりいってたのみたいことが)
「兄さん。早速ですが、この文字清さんがお前さんに折り入って頼みたいことが
(あるというんですがね」 おくめはしさいありそうに、このあおざめたおんなをひきあわした。)
あると云うんですがね」 お粂は仔細ありそうに、この蒼ざめた女を紹介した。
(「むむ。そうか」と、はんしちはおんなのほうにむきなおった。「もし、おまえさん。)
「むむ。そうか」と、半七は女の方に向き直った。「もし、おまえさん。
(どんなごようだかしりませんが、わたしにできそうなことだかどうだか、)
どんな御用だか知りませんが、私に出来そうなことだかどうだか、
(うかがってみようじゃありませんか」)
伺って見ようじゃありませんか」
(「だしぬけにうかがいましてまことにおそれいりますが、わたくしもどうしていいか)
「だしぬけに伺いましてまことに恐れ入りますが、わたくしもどうしていいか
(しあんにあまっておりますもんですから、かねてごこんいにいたしております)
思案に余って居りますもんですから、かねて御懇意にいたして居ります
(もじふささんにおねがいもうして、こちらへおしかけにうかがいましたようなわけで・・・・・・」)
文字房さんにお願い申して、こちらへ押し掛けに伺いましたような訳で……」
(と、もじきよはたたみにてをついた。)
と、文字清は畳に手を突いた。
(「おききおよびでございましょうが、このじゅうくにちのばんにぐそくちょうのいずみやで)
「お聞き及びでございましょうが、この十九日の晩に具足町の和泉屋で
(としわすれのしろうとしばいがございました」)
年忘れの素人芝居がございました」
(「そう、そう。とんだまちがいがあったそうですね」)
「そう、そう。飛んだ間違いがあったそうですね」
(いずみやのじけんというのははんしちもきいてしっていた。いずみやのうちじゅうが)
和泉屋の事件というのは半七も聞いて知っていた。和泉屋の家じゅうが
(しばいきちがいで、としのくれにはきんじょのひとたちやでいりのものどもをあつめて、)
芝居気ちがいで、歳の暮には近所の人たちや出入りの者共をあつめて、
(としわすれのしろうとしばいをもよおすのがとしどしのれいであった。ことしもじゅうくにちのゆうがたから)
歳忘れの素人芝居を催すのが年々の例であった。今年も十九日の夕方から
(まくをあけた。それはすこぶるおおがかりのもので、おくざしきをみまほどぶちぬいて、)
幕をあけた。それはすこぶる大がかりのもので、奥座敷を三間ほど打ち抜いて、
(しょうめんにはまぐちさんけんのぶたいをしつらえ、いしょうやこどうぐのたぐいもなかなか)
正面には間口三間の舞台をしつらえ、衣裳や小道具のたぐいもなかなか
(ぜいたくなものをもちいていた。やくしゃはみせのものやきんじょのもので、ちょぼがたりのたゆうも)
贅沢なものを用いていた。役者は店の者や近所の者で、チョボ語りの太夫も
(げざのはやしかたもみなしろうとのどうらくものをかりあつめてきたのであった。)
下座の囃子方もみな素人の道楽者を狩り集めて来たのであった。