半七捕物帳 勘平の死4

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問題文
(「そのことについて、もじきよさんがたいへんにくやしがっているんですよ」と、)
「そのことに就いて、文字清さんが大変に口惜しがっているんですよ」と、
(おくめがそばからくちをそえた。)
お粂がそばから口を添えた。
(もじきよのあおいかおにはなみだがいっぱいにながれおちた。)
文字清の蒼い顔には涙が一ぱいに流れ落ちた。
(「おやぶん。どうぞかたきをとってください」 「かたき・・・・・・。だれのかたきを・・・・・・」)
「親分。どうぞ仇を取ってください」 「かたき……。誰の仇を……」
(「わたくしのせがれのかたきを・・・・・・」)
「わたくしの伜の仇を……」
(はんしちはけむにまかれてあいてのかおをじっとみつめていると、もじきよはうるんだめを)
半七は煙にまかれて相手の顔をじっと見つめていると、文字清はうるんだ眼を
(けわしくしてかれをにらむようにみあげた。そのくちびるはかんもちのようにあやしくゆがんで、)
嶮しくして彼を睨むように見あげた。その唇は癇持ちのように怪しくゆがんで、
(ぶるぶるふるえていた。)
ぶるぶる顫えていた。
(「いずみやのわかだんなは、ししょう、おまえさんのこかい」と、はんしちは)
「和泉屋の若旦那は、師匠、おまえさんの子かい」と、半七は
(ふしぎそうにきいた。 「はい」)
不思議そうに訊いた。 「はい」
(「ふうむ。そりゃあはじめてきいた。じゃあ、あのわかだんなは)
「ふうむ。そりゃあ初めて聞いた。じゃあ、あの若旦那は
(いまのおかみさんのこじゃあないんだね」)
今のおかみさんの子じゃあないんだね」
(「かくたろうはわたくしのせがれでございます。こうもうしたばかりでは)
「角太郎はわたくしの伜でございます。こう申したばかりでは
(おわかりになりますまいが、いまからちょうどにじゅうねんまえのことでございます。)
お判りになりますまいが、今から丁度二十年前のことでございます。
(わたくしがなかばしのきんじょでやはりときわずのししょうをしておりますと、)
わたくしが仲橋の近所でやはり常磐津の師匠をして居りますと、
(いずみやのだんながときどきあそびにきまして、しぜんまあそのおせわになって)
和泉屋の旦那が時々遊びに来まして、自然まあそのお世話になって
(おりますうちに、わたくしはそのよくとしにおとこのこをうみました。)
居りますうちに、わたくしはその翌年に男の子を産みました。
(それがこんどなくなりましたかくたろうで・・・・・・」)
それが今度亡くなりました角太郎で……」
(「じゃあ、そのおとこのこをいずみやでひきとったんだね」)
「じゃあ、その男の子を和泉屋で引き取ったんだね」
(「さようでございます。いずみやのおかみさんがそのことをききまして、)
「左様でございます。和泉屋のおかみさんが其の事を聞きまして、
(ちょうどこっちにこどもがないからひきとってじぶんのこにしたいと・・・・・・。)
丁度こっちに子供が無いから引き取って自分の子にしたいと……。
(わたくしもてばなすのはいやでしたけれども、むこうへひきとられれば)
わたくしも手放すのは忌でしたけれども、向うへ引き取られれば
(りっぱなみせのあととりにもなれる。つまりほんにんのしゅっせにもなることだと)
立派な店の跡取りにもなれる。つまり本人の出世にもなることだと
(おもいまして、うまれるとまもなくいずみやのほうへわたしてしまいました。)
思いまして、産れると間もなく和泉屋の方へ渡してしまいました。
(で、こういうおやがあるとしれては、せけんのてまえもあり、とうにんのためにも)
で、こういう親があると知れては、世間の手前もあり、当人の為にも
(ならないというので、わたくしはそうとうのてあてをもらいまして、)
ならないというので、わたくしは相当の手当てを貰いまして、
(せがれとはいっしょうえんきりというやくそくをいたしました。それからしたやのほうへ)
伜とは一生縁切りという約束をいたしました。それから下谷の方へ
(ひっこしまして、こんにちまであいかわらずこのしょうばいをいたしておりますが、)
引っ越しまして、こんにちまで相変わらずこの商売をいたして居りますが、
(やっぱりおやこのにんじょうで、いちにちでもうみのこのことをわすれたことはございません。)
やっぱり親子の人情で、一日でも生みの子のことを忘れたことはございません。
(せがれがだんだんおおきくなってりっぱなわかだんなになったといううわさをきいて、)
伜がだんだん大きくなって立派な若旦那になったという噂を聞いて、
(わたくしもかげながらよろこんでおりますと、とんでもないこんどのさわぎで・・・・・・。)
わたくしも蔭ながら喜んで居りますと、飛んでもない今度の騒ぎで……。
(わたくしはもうきでもちがいそうに・・・・・・」)
わたくしはもう気でも違いそうに……」
(もじきよはたたみにくいつくようにして、こえをたててなきだした。)
文字清は畳に食いつくようにして、声を立てて泣き出した。