緋のエチュード 22

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タグ小説 文学
シャーロックホームズシリーズ第一弾

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問題文

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(いぬはいなずまにうたれたかのようにししをけいれんさせ、こうちょくしてしんだ。)

犬は稲妻に打たれたかのように四肢を痙攣させ、硬直して死んだ。

(しゃーろっくほーむずはながいいきをし、ひたいのあせをぬぐった。)

シャーロックホームズは長い息をし、額の汗を拭った。

(「もっとかくしんをもたなければ」かれはいった。)

「もっと確信を持たなければ」彼は言った。

(「ぼくはいままでにしっておくべきだった。)

「僕は今までに知っておくべきだった。

(ながいすいりのれんさにむじゅんするできごとがあらわれたとき、)

長い推理の連鎖に矛盾する出来事が表れた時、

(それはいつでもなにかべつのかいしゃくのよちがあることをしめしている。)

それはいつでも何か別の解釈の余地があることを示している。

(このはこのなかのふたつのがんやくのうち、ひとつはひじょうにちしてきなどくやくで、)

この箱の中の二つの丸薬のうち、一つは非常に致死的な毒薬で、

(もうひとつはかんぜんにむがいだ。)

もう一つは完全に無害だ。

(ぼくはこのはこをめにするまえにわかっておくべきだったのだ」)

僕はこの箱を目にする前に分かっておくべきだったのだ」

(このさいごのひとことはわたしにはひじょうなおどろきだったので、)

この最後の一言は私には非常な驚きだったので、

(かれがまちがいなくほんきでいっているとはしんじがたかった。しかし、)

彼が間違いなく本気で言っているとは信じ難かった。しかし、

(ここにかれのすいていがただしかったことをしめすしんだいぬがいる。)

ここに彼の推定が正しかった事を示す死んだ犬がいる。

(わたしのこころのきりはしだいにはれていくようだった。)

私の心の霧は次第に晴れて行くようだった。

(そしてわたしにはぼんやりとしんじつがうかんでくるようにおもえてきた。)

そして私にはぼんやりと真実が浮かんでくるように思えてきた。

(「なにもかもきみたちにはきみょうにみえるだろう」ほーむずはいった。)

「何もかも君たちには奇妙に見えるだろう」ホームズは言った。

(「きみたちは、そうさのかいしじてんでていじされていたひとつのじゅうようなてんを)

「君たちは、捜査の開始時点で提示されていた一つの重要な点を

(りかいしそこなったからだ。ぼくはこううんにもそれをつかまえた。)

理解し損なったからだ。僕は幸運にもそれを捕まえた。

(そしてそれいこうにおきたことはぜんぶさいしょのそうていをうらづけた。もちろん、)

そしてそれ以降に起きた事は全部最初の想定を裏付けた。もちろん、

(それはろんりてきなつながりがあった。それゆえ、)

それは論理的なつながりがあった。それゆえ、

(きみたちをとうわくしじけんをいっそうあいまいにさせたものは、ぼくにはこうみょうをあたえ、)

君達を当惑し事件を一層曖昧にさせたものは、僕には光明を与え、

など

(ぼくのけつろんをきょうかしたものだったのだ。)

僕の結論を強化したものだったのだ。

(きみょうさとなぞをとりちがえるのはまちがいだ。)

奇妙さと謎を取り違えるのは間違いだ。

(もっともありふれたはんざいはたいていもっともなぞめいている。)

最もありふれた犯罪はたいてい最も謎めいている。

(すいりをみちびきだすしんきせいもとくちょうもないからだ。もしこのぎせいしゃのしたいが、)

推理を導き出す新奇性も特徴もないからだ。もしこの犠牲者の死体が、

(たんにみちばたによこたわっているところをみつけられて、)

単に道端に横たわっているところを見つけられて、

(いじょうなじけんとみなされるげんいんとなる、)

異常な事件と見なされる原因となる、

(きみょうでせんせーしょなるなふくさんぶつがいっさいなかったとすれば、)

奇妙でセンセーショナルな副産物が一切無かったとすれば、

(このさつじんはとほうもなく、かいけつがこんなんだっただろう。)

この殺人は途方もなく、解決が困難だっただろう。

(こういうきみょうなとくちょうは、じけんをふくざつにするどころか、)

こういう奇妙な特徴は、事件を複雑にするどころか、

(じつはじけんをかんたんにしたのだ」)

実は事件を簡単にしたのだ」

(ひじょうにいらいらしてこのはなしをきいていたぐれっぐそんは、)

非常にイライラしてこの話を聞いていたグレッグソンは、

(これいじょうがまんできなくなっていた。「ちょっと、)

これ以上我慢できなくなっていた。「ちょっと、

(しゃーろっくほーむずさん」かれはいった。「われわれはみな、)

シャーロックホームズさん」彼は言った。「我々は皆、

(あなたのあたまがきれて、)

あなたの頭が切れて、

(じぶんなりのしゅほうをもっているとみとめるのにやぶさかではない。)

自分なりの手法を持っていると認めるのにやぶさかではない。

(しかしわれわれはいま、りろんやせっきょういじょうのなにかがほしいのです。)

しかし我々は今、理論や説教以上の何かが欲しいのです。

(たとえばはんにんをつかまえることです。わたしはじぶんなりにじけんをりかいした。)

例えば犯人を捕まえる事です。私は自分なりに事件を理解した。

(しかしそれはまちがっていたようです。)

しかしそれは間違っていたようです。

(しゃるぱんてぃえせいねんはこのだいにのじけんにかかわることはできなかった。)

シャルパンティエ青年はこの第二の事件にかかわる事は出来なかった。

(れすとれーどはすたんがーそんをおった。)

レストレードはスタンガーソンを追った。

(そしてかれもまちがっていたようです。)

そして彼も間違っていたようです。

(あなたはちょくちょくいみありげなことをいっている。)

あなたはちょくちょく意味ありげなことを言っている。

(そしてわれわれいじょうになにかをしっているようだ。しかしそろそろ、)

そして我々以上に何かを知っているようだ。しかしそろそろ、

(このじけんにかんしてあなたがどこまでわかっているのか、)

この事件に関してあなたがどこまで分かっているのか、

(ずばりうかがってもよいころかとおもいます。)

ずばり伺っても良い頃かと思います。

(はんにんのなまえをごぞんじなんですか?」)

犯人の名前をご存知なんですか?」

(「ぐれっぐそんのいけんがただしいとおもわざるをえません」)

「グレッグソンの意見が正しいと思わざるを得ません」

(れすとれーどがいった。「われわれはふたりともやってみた。)

レストレードが言った。「我々は二人ともやってみた。

(そしてふたりともしっぱいした。あなたはわたしがこのへやにきてから、)

そして二人とも失敗した。あなたは私がこの部屋に来てから、

(いちどならずひつようとしたしょうこをすべててにいれたとおっしゃった。)

一度ならず必要とした証拠を全て手に入れたとおっしゃった。

(これいじょうかくしだてするべきではないでしょう」)

これ以上隠し立てするべきではないでしょう」

(「さつじんはんをたいほするのがおくれると」わたしはいった。)

「殺人犯を逮捕するのが遅れると」私は言った。

(「そのあいだにまたあたらしいざんぎゃくこういがおきるかもしれない」)

「その間にまた新しい残虐行為が起きるかもしれない」

(われわれぜんいんにこのようにきょうようされ、)

我々全員にこのように強要され、

(ほーむずのけついはゆらぎだしたようだった。)

ホームズの決意は揺らぎだしたようだった。

(かれはかんがえあぐねたときにするくせで、あごをむねにおき、まゆをひそめて、)

彼は考えあぐねた時にする癖で、顎を胸に置き、眉をひそめて、

(へやをいったりきたりしつづけた。)

部屋を行ったり来たりし続けた。

(「これいじょうのさつじんはおきないだろう」かれはとうとう、)

「これ以上の殺人は起きないだろう」彼はとうとう、

(ふいにたちどまり、かおをあげてこういった。)

ふいに立ち止まり、顔を上げてこう言った。

(「そのかんがえはもんだいがいだとおもっていい。)

「その考えは問題外だと思っていい。

(きみはぼくにさつじんはんのなまえをしっているかきいた。しっている。しかし、)

君は僕に殺人犯の名前を知っているか聞いた。知っている。しかし、

(かれのなまえをしっているというのは)

彼の名前を知っているというのは

(かれをたいほするちからにくらべればちいさなことだ。)

彼を逮捕する力に比べれば小さな事だ。

(ぼくはほんとうにまもなくそうできるとおもっている。)

僕は本当にまもなくそうできると思っている。

(ぼくのけいかくによってたいほできるというみこみがじゅうぶんにある。しかし、)

僕の計画によって逮捕出来るという見込みが十分にある。しかし、

(それにはびみょうなたいおうがようきゅうされるのだ。)

それには微妙な対応が要求されるのだ。

(われわれがあいてにしているのはぬけめのないじぼうじきなおとこだからだ。)

我々が相手にしているのは抜け目の無い自暴自棄な男だからだ。

(ぼくはあるきかいでしったのだが、かれとおなじようにかしこいべつのおとこが、)

僕はある機会で知ったのだが、彼と同じように賢い別の男が、

(かれをてだすけしている。)

彼を手助けしている。

(はんにんがだれかにてがかりをつかまれているときづかないかぎりにおいて、)

犯人が誰かに手がかりをつかまれていると気づかない限りにおいて、

(かれをたいほできるかのうせいがある。もしかれがほんのわずかでもうたがいをもてば、)

彼を逮捕できる可能性がある。もし彼がほんの僅かでも疑いを持てば、

(かれはなまえをかえ、)

彼は名前を変え、

(すぐにこのだいとかいのよんひゃくまんにんのじゅうみんのなかにすがたをけすだろう。)

すぐにこの大都会の四百万人の住民の中に姿を消すだろう。

(きみたちのきぶんをがいするつもりはないが、)

君たちの気分を害するつもりはないが、

(ぼくはこのおとこたちがけいさつのてにあまるとかんがえているといわざるをえない。)

僕はこの男たちが警察の手に余ると考えていると言わざるを得ない。

(ぼくがきみたちにじょりょくをたのまないのはそれがりゆうだ。もちろん、)

僕が君たちに助力を頼まないのはそれが理由だ。もちろん、

(もしぼくがしっぱいすれば、このたいまんによってあらゆるひなんをこうむるだろう。)

もし僕が失敗すれば、この怠慢によってあらゆる非難を蒙るだろう。

(しかしそれはかくごのうえだ。いまやくそくできるのは、)

しかしそれは覚悟の上だ。今約束できるのは、

(ぼくじしんのちーむわーくをきけんにさらすことなく、)

僕自身のチームワークを危険にさらすことなく、

(きみたちときょうどうさぎょうができるようになれば、)

君たちと共同作業が出来るようになれば、

(ただちにそうするということだ」)

ただちにそうするということだ」

(ぐれっぐそんとれすとれーどは、このやくそくにも、)

グレッグソンとレストレードは、この約束にも、

(けいさつをみくびったあてつけにもとうていなっとくしていないようだった。)

警察を見くびったあてつけにも到底納得していないようだった。

(ぐれっぐそんはあまいろのかみのはえぎわまでまっかになり、)

グレッグソンは亜麻色の髪の生え際まで真っ赤になり、

(れすとれーどはこうきしんといきどおりに、)

レストレードは好奇心と憤りに、

(びーずのようなめをぎらぎらさせていた。)

ビーズのような目をギラギラさせていた。

(しかしふたりともはなすまはなかった。とびらをたたくおとがあり、)

しかし二人とも話す間はなかった。扉を叩く音があり、

(ふろうしょうねんのだいひょうしゃうぃぎんずが、いやしくふゆかいなふうさいであらわれた。)

浮浪少年の代表者ウィギンズが、卑しく不愉快な風采で現れた。

(「おねがいします」かれはまえがみにてをふれていった。)

「お願いします」彼は前髪に手を触れて言った。

(「したにつじばしゃをよんでいます」)

「下に辻馬車を呼んでいます」

(「いいこだ」ほーむずはおだやかにいった。)

「いい子だ」ホームズは穏やかに言った。

(「なぜろんどんけいしちょうはこのかたをさいようしないのかな?」)

「なぜロンドン警視庁はこの型を採用しないのかな?」

(かれはひきだしからてつのてじょうをとりだしながらつづけた。)

彼は引出しから鉄の手錠を取り出しながら続けた。

(「どんなにみごとにばねがきくかみるといい。いっしゅんでかかる」)

「どんなに見事にバネが効くか見るといい。一瞬で掛かる」

(「ふるいかたでじゅうぶんなんですよ」れすとれーどはいった。)

「古い型で十分なんですよ」レストレードは言った。

(「もしそれをかけるにんげんをみつけることさえできればね」)

「もしそれを掛ける人間を見つけることさえ出来ればね」

(「そうだ、そうだ」ほーむずはえがおでいった。)

「そうだ、そうだ」ホームズは笑顔で言った。

(「ぎょしゃににづくりをてつだってもらったほうがよさそうだな。うぃぎんず、)

「御者に荷造りを手伝ってもらった方がよさそうだな。ウィギンズ、

(ちょっとぎょしゃにあがってくるようにたのんでくれ」)

ちょっと御者に上がってくるように頼んでくれ」

(わたしはほーむずがまるでりょこうにしゅっぱつするようにはなしているのをきいて)

私はホームズがまるで旅行に出発するように話しているのを聞いて

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