半七捕物帳 奥女中1

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岡本綺堂 半七捕物帳シリーズ 第七話

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問題文

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(はんつきばかりのひしょりょこうをおわって、わたしがとうきょうへかえってきたのは)

一 半月ばかりの避暑旅行を終って、わたしが東京へ帰って来たのは

(はちがつのまだあついさかりであった。ちっとばかりのみやげものをもって)

八月のまだ暑い盛りであった。ちっとばかりの土産物を持って

(はんしちろうじんのうちをたずねると、ろうじんはゆからいまかえったところだといって、)

半七老人の家をたずねると、老人は湯から今帰ったところだと云って、

(えんがわのがまござのうえにおおあぐらでうちわをばさばさつかっていた。)

縁側の蒲莚(がまござ)のうえに大あぐらで団扇をばさばさ遣っていた。

(せまいにわにはゆうがたのかぜがすずしくふきこんで、となりやのまどには)

狭い庭には夕方の風が涼しく吹き込んで、隣り家の窓には

(きりぎりすのこえがきこえた。「むしのなかでもきりぎりすがいちばんえどらしい)

きりぎりすの声がきこえた。「虫の中でもきりぎりすが一番江戸らしい

(もんですね」と、ろうじんはいった。「そりゃあねだんもやすいし、)

もんですね」と、老人は云った。「そりゃあ値段も廉(やす)いし、

(むしのなかまではいちばんかとうなものかもしれませんが、まつむしやすずむしよりなんとなく)

虫の仲間では一番下等なものかも知れませんが、松虫や鈴虫より何となく

(えどらしいかんじのするやつですよ。おうらいをあるいていても、どこかのまどや)

江戸らしい感じのする奴ですよ。往来をあるいていても、どこかの窓や

(のきできりぎりすのなくこえをきくと、しぜんにえどのなつをおもいだしますね。)

軒できりぎりすの鳴く声をきくと、自然に江戸の夏を思い出しますね。

(そんなことをいうと、むしやさんににくまれるかもしれませんが、)

そんなことを云うと、虫屋さんに憎まれるかも知れませんが、

(まつむしやくさひばりのたぐいはねがたかいばかりで、どうもえどらしく)

松虫や草雲雀(くさひばり)のたぐいは値が高いばかりで、どうも江戸らしく

(ありませんね。とうせいのことばでいうと、もっともへいみんてきで、)

ありませんね。当世の詞(ことば)でいうと、最も平民的で、

(それでえどらしいのは、きりぎりすにかぎりますよ」)

それで江戸らしいのは、きりぎりすに限りますよ」

(ろうじんはしきりにむしのこうしゃくをはじめて、こんにちではほとんどこどもの)

老人はしきりに虫の講釈をはじめて、今日(こんにち)では殆ど子供の

(おもちゃにしかならないようないっぴきさんせんぐらいのきりぎりすをおおいに)

玩具にしかならないような一匹三銭ぐらいの蟋蟀(きりぎりす)を大いに

(さんびしていた。そうして、あなたもむしをかうならきりぎりすを)

讃美していた。そうして、あなたも虫を飼うならきりぎりすを

(かってくださいといった。むしのはなしがすんでふうりんのはなしがでた。)

飼ってくださいと云った。虫の話がすんで風鈴の話が出た。

(それからこんやはしんれきのはちがつじゅうごやだというはなしがでた。)

それから今夜は新暦の八月十五夜だという話が出た。

(「こよみがちがいますからはちがつでもこのとおりあつうござんすよ。)

「暦がちがいますから八月でもこの通り暑うござんすよ。

など

(これがきゅうれきだとあさばんはぐっとひえてくるんですがね」)

これが旧暦だと朝晩はぐっと冷えて来るんですがね」

(ろうじんはまたむかしのおつきみのはなしをはじめた。そのうちにこんなはなしがでて、)

老人は又むかしのお月見のはなしを始めた。そのうちにこんな話が出て、

(わたしのてちょうにいっこうのきじをふやした。)

わたしの手帳に一項の記事をふやした。

(ぶんきゅうにねんはちがつじゅうよっかのゆうがたであった。)

・・・ 文久二年八月十四日の夕方であった。

(はんしちがいつもよりはやくうちへかえって、これからゆうめしをすませて、)

半七がいつもより早く家へ帰って、これから夕飯をすませて、

(きんじょのむじんへちょいとかおだしをしようとおもっていると、ちいさいまるまげにゆった)

近所の無尽へちょいと顔出しをしようと思っていると、小さい丸髷に結った

(しじゅうばかりのおんながくろうありそうなかおをみせた。)

四十ばかりの女が苦労ありそうな顔を見せた。

(「おやぶん。どうもごぶさたをいたしておりました。いつもごきげんよろしゅう、)

「親分。どうも御無沙汰をいたして居りました。いつも御機嫌よろしゅう、

(けっこうでございます」)

結構でございます」

(「おお、おかめさんか。ひさしくみえなかったね。おちょうぼうもいいしんぞに)

「おお、お亀さんか。久しく見えなかったね。お蝶坊も好い新造(しんぞ)に

(なったろう。あのこもおとなしくかせぐようだからおっかあもまあ、)

なったろう。あの子もおとなしく稼ぐようだから阿母(おっかあ)もまあ、

(あんしんだ」)

安心だ」

(「いえ、じつはそのおちょうのことにつきまして、こんばんおじゃまにあがりましたので)

「いえ、実はそのお蝶のことに就きまして、今晩お邪魔にあがりましたので

(ございますが、どうもわたくしどもにもしあんにあまりましてね」)

ございますが、どうもわたくし共にも思案に余りましてね」

(しじゅうおんなのひたいのしわをみて、はんしちはたいていそうぞうがついた。おかめはことしじゅうしちになる)

四十女のひたいの皺をみて、半七は大抵想像がついた。お亀は今年十七になる

(おちょうというむすめをあいてに、えいたいばしのきわにちゃみせをだしている。)

お蝶という娘を相手に、永代橋の際に茶店を出している。

(おちょうはじょうひんなうつくしいむすめで、すこしむくちでおとなしすぎるのを)

お蝶は上品な美しい娘で、すこし寡言(むくち)でおとなし過ぎるのを

(きずにして、わかいきゃくをひきよせるにはじゅうぶんのあたいをもっていた。)

疵にして、若い客をひき寄せるには十分の価をもっていた。

(おかめもこのうつくしいむすめをうんだことをほこりとしていた。そのむすめについて)

お亀もこの美しい娘を生んだことを誇りとしていた。その娘について

(なにかくろうができたといえば、はんしちでなくてもたいていのけんとうはつく。)

何か苦労が出来たといえば、半七でなくても大抵の見当は付く。

(おやこうこうのおちょうがおやよりもさらにだいじなひとをみつけだしたといういざこざに)

親孝行のお蝶が親よりも更に大事な人を見付けだしたという紛糾(いざこざ)に

(そういない。かぎょうがかぎょうだけに、それをやかましくいうのも)

相違ない。稼業が稼業だけに、それをやかましく云うのも

(やぼだとはんしちはおもった。)

野暮だと半七は思った。

(「じゃあ、なんだね。おちょうぼうがなにかこしらえて、おっかあにせわをやかせるという)

「じゃあ、なんだね。お蝶坊が何かこしらえて、阿母に世話を焼かせるという

(わけだね。まあ、ちっとぐらいのことはおおめにみてやるほうがいいぜ。)

わけだね。まあ、ちっとぐらいのことは大目に見てやる方がいいぜ。

(わかいもののこった、ちっとはおもしろいこともなけりゃあかせぐはりあいがねえと)

若い者のこった、ちっとは面白いこともなけりゃあ稼ぐ張り合いがねえと

(いうもんだ。おっかあだっておぼえがあるだろう。あんまりやかましく)

いうもんだ。阿母だって覚えがあるだろう。あんまりやかましく

(いわねえがよかろうぜ」と、はんしちはわらっていた。)

云わねえがよかろうぜ」と、半七は笑っていた。

(おかめはにこりともしないで、あいてのかおをじっとみつめていた。)

お亀は莞爾(にこり)ともしないで、相手の顔をじっと見つめていた。

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