半七捕物帳 鷹のゆくえ6
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | だだんどん | 6414 | S | 6.9 | 93.3% | 489.5 | 3379 | 239 | 60 | 2024/09/30 |
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問題文
(むすめはしさいありげなめをしてろうじんをうかがっている。ろうじんはくびを)
三 娘は仔細ありげな眼をして老人をうかがっている。老人は首を
(たれてだまっている。そこにどんなじじょうがしのんでいるかをはんしちもよういに)
垂れて黙っている。そこにどんな事情が忍んでいるかを半七も容易に
(そうぞうすることはできなかったが、とにかくにろうじんのくろうがあまり)
想像することは出来なかったが、とにかくに老人の苦労があまり
(おおきそうなので、はんしちもだまっているわけにはいかなくなって、)
大きそうなので、半七も黙っているわけには行かなくなって、
(こごえでかれをはげますようにいった。)
小声で彼を励ますように云った。
(「ねえ、おまえさん。もうこうなったらおたがいにかんがえていてもしかたが)
「ねえ、おまえさん。もうこうなったらお互いに考えていても仕方が
(ありません。わたしはかんだみかわちょうのはんしちというごようききで、じつははっちょうぼりの)
ありません。わたしは神田三河町の半七という御用聞きで、実は八丁堀の
(だんなからないみつにそのせんぎをいいつけられているんです。おまえさんはみついさんと)
旦那から内密に其の詮議を云い付けられているんです。お前さんは光井さんと
(こころやすいようではあるし、いぬもほうばい、たかもほうばい、いわばほうばいどうしのことだから、)
心安いようではあるし、犬も朋輩、鷹も朋輩、いわば朋輩同士のことだから、
(なんとかわたしにてつだって、そのおたかをはやくみつけだすくふうをして)
なんとかわたしに手伝って、そのお鷹を早く見つけ出す工夫をして
(くれませんか。にがしたとりさえぶじにさがしだせば、そこはなんとでも)
くれませんか。逃がした鳥さえ無事に探し出せば、そこは何とでも
(おんびんにすむだろうじゃありませんか。ねえ、そうでしょう」)
穏便に済むだろうじゃありませんか。ねえ、そうでしょう」
(「そうです、そうです」と、ろうじんはちからをえたようにうなずいた。)
「そうです、そうです」と、老人は力を得たようにうなずいた。
(「それよりほかにしようはありますまい。わたしにできることならば)
「それよりほかにしようはありますまい。わたしに出来ることならば
(なんでもてつだいをいたしますから、どうぞいっときもはやくそのおたかを)
なんでも手伝いをいたしますから、どうぞ一刻(いっとき)も早くそのお鷹を
(さがしだしてください。じゃのみちはへびで、わたしのほうでもたいへんに)
探し出してください。蛇(じゃ)の道は蛇(へび)で、わたしの方でも大変に
(つごうがいい。いいあんばいにあめもたいていやんだようだから、そろそろ)
都合がいい。いい塩梅(あんばい)に雨も大抵やんだようだから、そろそろ
(でかけながらそうだんしようじゃありませんか」)
出かけながら相談しようじゃありませんか」
(はんしちはとりさしのぶんもいっしょにかんじょうをはらってでると、ろうじんはひどくきのどくそうに)
半七は鳥さしの分も一緒に勘定を払って出ると、老人はひどく気の毒そうに
(れいをいいながらはんしちのあとについてでてきた。とりさしもたかじょうとおなじことで、)
礼を云いながら半七のあとに付いて出て来た。鳥さしも鷹匠とおなじことで、
(ふだんはごようをかさにきて、かなりおおづらをしているものであるが、)
ふだんは御用を嵩にきて、かなり大面(おおづら)をしているものであるが、
(このばあい、かれははんしちのすくいをもとめるようにしごくおとなしくふるまっていた。)
この場合、かれは半七の救いを求めるように至極おとなしく振る舞っていた。
(ふたりはあめあがりのいなかみちをひろいながらあるいた。)
二人は雨あがりの田舎道をひろいながら歩いた。
(「おまえさん、あのそばやのむすめをしっていなさるのかえ」と、はんしちは)
「おまえさん、あの蕎麦屋の娘を知っていなさるのかえ」と、半七は
(あるきながらきいた。)
あるきながら訊いた。
(「はあ、ときどきあすこのうちへよりますので、ふうふやむすめともこころやすくして)
「はあ、時々あすこの家(うち)へ寄りますので、夫婦や娘とも心安くして
(おります。むすめはおすぎといって、このあいだまでほうこうにでていたのでございますよ」)
居ります。娘はお杉といって、この間まで奉公に出ていたのでございますよ」
(「もうはたちぐらいでしょうね」)
「もう二十歳(はたち)ぐらいでしょうね」
(「さようだそうです。とうにんはもうすこしほうこうしていたいというのをむりに)
「左様だそうです。当人はもう少し奉公していたいと云うのを無理に
(ひまをとらせて、このはるからいえへつれてきたのですが、やはりながしみじかしで)
暇を取らせて、この春から家へ連れて来たのですが、やはり長し短しで
(よいむこがないそうで、いまだにひとりでいるようでございます」)
良い婿(むこ)がないそうで、いまだに一人でいるようでございます」
(「どこにほうこうしていたんです」)
「どこに奉公していたんです」
(「ぞうしがやのよしみせんざぶろうというおたかじょうのいえにいたのだそうです。)
「雑司ヶ谷の吉見仙三郎という御鷹匠の家にいたのだそうです。
(そんなわけで、わたしとはとくべつにこころやすくしているのですが・・・・・・」)
そんな訳で、わたしとは特別に心安くしているのですが……」
(「そのよしみというのはいくつぐらいのひとですね」)
「その吉見というのは幾つぐらいのひとですね」
(「にじゅうさんしにもなりましょうか」 「ひとりみですかえ」)
「二十三四にもなりましょうか」 「独り身ですかえ」
(「くみがちがうのでよくしりませんが、もうごしんぞがあるはずです。)
「組が違うのでよく知りませんが、もう御新造(ごしんぞ)がある筈です。
(そうです、そうです。ごしんぞさまがあると、あのおすぎがはなしたことがありました。)
そうです、そうです。御新造様があると、あのお杉が話したことがありました。
(よしみさんにはときどきあうこともありますが、いろのあさぐろい、ひとがらのいい、)
吉見さんには時々逢うこともありますが、色のあさ黒い、人柄のいい、
(なかなかじょさいないひとです。そのかわりずいぶんどうらくもするそうですが・・・・・・」)
なかなか如才ない人です。そのかわり随分道楽もするそうですが……」
(「そうですか」と、はんしちはいちいちうなずきながらきいていた。)
「そうですか」と、半七は一々うなずきながら聴いていた。
(「あのむすめはなんねんぐらいよしみさんにほうこうしていたんですえ」)
「あの娘は何年ぐらい吉見さんに奉公していたんですえ」
(「なんでもじゅうしちのとしからほうこうしていたとかいうことです」)
「なんでも十七の年から奉公していたとかいうことです」
(「ぞうしがやのくみのひとたちもめぐろのほうへおたかならしにでてきますかえ」)
「雑司ヶ谷の組の人たちも目黒のほうへお鷹馴らしに出て来ますかえ」
(「ときどきにでてきます」と、ろうじんはこたえた。)
「ときどきに出て来ます」と、老人は答えた。
(はんしちはしばらくたちどまってしあんしていたが、やがてさゆうをみかえって)
半七はしばらく立ち停まって思案していたが、やがて左右を見かえって
(ささやいた。)
ささやいた。
(「おまえさん。ごくろうだが、もういちどあのそばやへひっかえしてくれませんか」)
「おまえさん。御苦労だが、もう一度あの蕎麦屋へ引っ返してくれませんか」
(「はあ」と、ろうじんはふしんそうにはんしちのかおをみた。「なにか、わすれものでも・・・・・・」)
「はあ」と、老人は不審そうに半七の顔を見た。「なにか、忘れ物でも……」
(「さあ、どうもおおきなわすれものをしてきたらしい」と、はんしちはほほえんだ。)
「さあ、どうも大きな忘れ物をして来たらしい」と、半七はほほえんだ。
(「おまえさんのとりかごにはまださんびきしかはいっていませんね」)
「おまえさんの鳥籠にはまだ三匹しかはいっていませんね」
(「けさはおそくでてきたものですから、まだいっこうにとれません」)
「けさは遅く出て来たものですから、まだ一向に捕れません」
(「むむ、さんびきでもいいが、そうですね、もうに、さんびきとれませんかえ」)
「むむ、三匹でもいいが、そうですね、もう二、三匹捕れませんかえ」
(「いまはここらにたくさんよるじぶんですから、にわやさんばはすぐにとれます」)
「今はここらにたくさん寄る時分ですから、二羽や三羽はすぐに捕れます」
(「じゃあ、すみませんが、そこらへいってに、さんびきさしてきてくれませんか。)
「じゃあ、済みませんが、そこらへ行って二、三匹さして来てくれませんか。
(なるべくおおいほうがいい」)
なるべく多い方がいい」
(ろうじんはそのいみをげしかねたらしいが、いわれるままにしょうちして、)
老人は其の意味を解(げ)し兼ねたらしいが、云われるままに承知して、
(たけざおのぬれたもちをねりなおしていると、しぐれぐもはもうとおりすぎて)
竹竿のぬれた黐(もち)を練り直していると、しぐれ雲はもう通り過ぎて
(しまったらしく、しょとうのよわいひのひかりがみちばたのわらやねを)
しまったらしく、初冬の弱い日のひかりが路傍(みちばた)の藁(わら)屋根を
(うすあかるくてらしてきた。)
うす明るく照らして来た。