『少年探偵団』江戸川乱歩3
○少年探偵団シリーズ第2作品『少年探偵団』
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順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
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1 | kei | 4007 | C | 4.2 | 95.4% | 1072.0 | 4512 | 216 | 100 | 2024/11/09 |
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問題文
(かつらくんはしょうねんたんていだんのことをかんがえると、にわかに)
桂君は少年探偵団のことを考えると、にわかに
(ゆうきがでてきました。いけがきのかげにみをかくして、)
勇気がでてきました。 生け垣の影に身を隠して、
(じっとみていますと、かいぶつは、うしろにひとがいるとは)
ジッと見ていますと、怪物は、うしろに人がいるとは
(すこしもきづかないようすで、ひょこひょこおどるように)
少しも気づかない様子で、ヒョコヒョコおどるように
(あるいていきます。みまちがいではありません。)
歩いていきます。見間違いではありません。
(たしかにぜんしんまっくろな、まるでくろねこみたいな)
たしかに全身真っ黒な、まるで黒ネコみたいな
(ひとのすがたです。「やっぱりおばけやゆうれいじゃないんだ。)
人の姿です。「やっぱりお化けや幽霊じゃないんだ。
(ああしてあるいているところをみると、にんげんにちがい)
ああして歩いているところをみると、人間に違い
(ない」かつらくんはだいたんにも、あいてにさとられぬよう、)
ない」 桂君は大胆にも、相手にさとられぬよう、
(そっとあとをつけてやろうとけっしんしました。かいぶつは、)
ソッとあとをつけてやろうと決心しました。 怪物は、
(まるでじめんのかげが、ふらふらとたちあがって、)
まるで地面の影が、フラフラと立ちあがって、
(そのままあるきだしたようなかんじで、ぐんぐんと)
そのまま歩きだしたような感じで、グングンと
(とおざかっていきます。おそろしくはやいあしです。)
遠ざかっていきます。おそろしく早い足です。
(かつらくんは、ものかげへみをかくしながら、あいてをおっかける)
桂君は、物陰へ身を隠しながら、相手を追っかける
(のが、やっとでした。まちをはなれ、ひとけのない)
のが、やっとでした。 町を離れ、人気のない
(ひろっぱをすこしいきますと、おおきなてらのおどうが、)
広っぱを少し行きますと、大きな寺のお堂が、
(ほしぞらにおばけのようにそびえてみえました。)
星空にお化けのようにそびえて見えました。
(ようげんじというえどじだいからのふるいおてらです。)
養源寺という江戸時代からの古いお寺です。
(くろいまものは、そのようげんじのいけがきにそって、)
黒い魔物は、その養源寺の生け垣に沿って、
(ひょこひょことあるいていましたが、やがて、)
ヒョコヒョコと歩いていましたが、やがて、
(いけがきのやぶれたところから、おどうのうらてへはいって)
生け垣のやぶれたところから、お堂の裏手へ入って
(しまいました。かつらくんは、だんだんきみがわるくなって)
しまいました。桂君は、段々気味が悪くなって
(きましたけれども、いまさらびこうをよすのはざんねんです)
きましたけれども、今さら尾行をよすのは残念です
(から、りょうてをにぎりしめ、かふくにぐっとちからをいれて、)
から、両手を握りしめ、下腹にグッと力を入れて、
(おなじいけがきのやぶれから、くらやみのてらへしのびこみ)
同じ生け垣のやぶれから、暗闇の寺へ忍び込み
(ました。みると、そこはいちめんのぼちでした。)
ました。 見ると、そこは一面の墓地でした。
(ふるいのやあたらしいのや、むすうのせきひが、じめじめと)
古いのや新しいのや、無数の石碑が、ジメジメと
(こけむしたじめんに、ところせまくたちならんでいます。)
こけむした地面に、ところせまく立ち並んでいます。
(そらのほしと、じょうやとうのほのかなひかりに、それらのちょうほうけいの)
空の星と、常夜灯のほのかな光に、それらの長方形の
(いしが、うすじろくうかんでいるのです。かつらくんはかいだんなどを)
石が、薄白く浮かんでいるのです。 桂君は怪談などを
(しんじないげんだいのしょうねんでしたけれど、そこがむすうの)
信じない現代の少年でしたけれど、そこが無数の
(しがいをうめたぼちであることをしると、ぞっとしない)
死骸をうめた墓地であることを知ると、ゾッとしない
(ではいられませんでした。かいぶつは、せきひとせきひの)
ではいられませんでした。 怪物は、石碑と石碑の
(あいだのせまいつうろを、みぎにまがりひだりにまがり、)
あいだのせまい通路を、右に曲がり左に曲がり、
(まるであんないをしったわがやのように、ぐんぐんと)
まるで案内を知ったわが家のように、グングンと
(なかへはいっていきます。くろいかげがしろいせきひをはいけいに)
中へ入っていきます。黒い影が白い石碑を背景に
(して、いっそうくっきりとうきあがってみえるのです。)
して、一層クッキリと浮き上って見えるのです。
(かつらくんは、ぜんしんにびっしょりひやあせをかきながら、)
桂君は、全身にビッショリ冷や汗をかきながら、
(がまんづよくそのあとをおいました。さいわい、)
我慢強くそのあとを追いました。さいわい、
(こちらはせがひくいものですから、せきひのかげにみを)
こちらは背が低いものですから、石碑の陰に身を
(かくして、ちょこちょことはしり、ときどきせのびを)
隠して、チョコチョコと走り、ときどき背伸びを
(して、あいてをみうしなわないようにすればよいのでした。)
して、相手を見失わないようにすればよいのでした。
(ところでかつらくんが、そうして、なんどめかにせのびをした)
ところで桂君が、そうして、何度目かに背伸びをした
(ときでした。びっくりしたことに、おもいもよらない)
ときでした。ビックリしたことに、思いもよらない
(まぢかに、せきひをふたつほどへだてたすぐむこうに、)
間近に、石碑を二つほど隔てたすぐ向こうに、
(くろいやつが、ぬっとたっていたではありませんか。)
黒いやつが、ヌッと立っていたではありませんか。
(しかも、ましょうめんにこちらをむいているのです。)
しかも、真正面にこちらを向いているのです。
(まっくろなかおのなかに、しろいめとしろいはがみえるから)
真っ黒な顔の中に、白い目と白い歯が見えるから
(には、こちらをむいているのにちがいありません。)
には、こちらを向いているのに違いありません。
(かいぶつはさきほどから、ちゃんとびこうにきづいていた)
怪物は先程から、ちゃんと尾行に気づいていた
(のです。そして、わざとこんなさびしいぼちのなかへ、)
のです。そして、わざとこんなさびしい墓地の中へ、
(おびきよせて、いよいよたたかいをいどもうとする)
おびきよせて、いよいよたたかいを挑もうとする
(のかもしれません。かつらしょうねんは、まるでねこのまえの)
のかもしれません。 桂少年は、まるでネコの前の
(ねずみのように、からだがすくんでしまって、めをそらす)
ネズミのように、体がすくんでしまって、目をそらす
(こともできず、そのまっくろなかげぼうしみたいなやつと、)
こともできず、その真っ黒な影法師みたいなやつと、
(じっとかおをみあわせていました。むねのなかでは、しんぞうが)
ジッと顔を見合わせていました。胸の中では、心臓が
(やぶれそうにこどうしています。いまにも、)
やぶれそうに鼓動しています。 今にも、
(とびかかってくるかと、かくごをしていますと、)
とびかかってくるかと、覚悟をしていますと、
(とつぜん、かいぶつのしろいはがぐーっとさゆうにひろがって、)
突然、怪物の白い歯がグーッと左右に広がって、
(それががくんとじょうげにわかれ、けらけらけらと、)
それがガクンと上下にわかれ、ケラケラケラと、
(かいちょうのようなこえでわらいだしました。かつらくんは)
怪鳥のような声で笑いだしました。 桂君は
(なにがなんだか、もうむがむちゅうでした。おそろしいゆめを)
何が何だか、もう無我夢中でした。おそろしい夢を
(みて、ゆめとしりながら、どうしてもめがさませない)
見て、夢と知りながら、どうしても目が覚ませない
(ときとおなじきもちで、「たすけてくれー」とさけぼう)
ときと同じ気持ちで、「助けてくれー」と叫ぼう
(にも、まるでしゃべれないこになったように、)
にも、まるでしゃべれない子になったように、
(こえがでないのです。ところが、かいぶつのほうは、)
声が出ないのです。 ところが、怪物のほうは、
(べつにとびかかってくるでもなく、いやなわらいごえを)
別にとびかかってくるでもなく、いやな笑い声を
(たてたまま、ふいとせきひのかげに、みをかくしてしまい)
たてたまま、フイと石碑の影に、身を隠してしまい
(ました。かくれておいて、またばあとあらわれるのでは)
ました。 隠れておいて、またバアと現れるのでは
(ないかと、たちすくんだまま、いきをころしていても、)
ないかと、立ちすくんだまま、息を殺していても、
(いつまでまっても、ふたたびあらわれるようすが)
いつまで待っても、ふたたび現れる様子が
(ありません。かといって、そのせきひのむこうから)
ありません。かといって、その石碑の向こうから
(たちさったけはいもないのです。もしそのばをうごけば、)
立ち去った気配もないのです。もしその場を動けば、
(せきひとせきひのあいだに、ちろちろとくろいかげが)
石碑と石碑のあいだに、チロチロと黒い影が
(みえなければなりません。ふかいうみのそこのように)
見えなければなりません。 深い海の底のように
(しずまりかえったぼちに、たったひとり、とりのこされた)
静まりかえった墓地に、たった一人、取り残された
(かんじです。どちらをむいてもうごくものはなく、)
感じです。どちらを向いても動くものはなく、
(つめたいいしばかり、かつらくんはゆめをみているよう)
つめたい石ばかり、桂君は夢を見ているよう
(でした。やっときをとりなおして、さっきまで)
でした。 やっと気をとりなおして、さっきまで
(かいぶつがたっていたせきひのむこうへ、おずおずと)
怪物が立っていた石碑の向こうへ、オズオズと
(ちかよってみますと、そこはもうからっぽになって、)
近寄ってみますと、そこはもう空っぽになって、
(ひとのけはいなどありません。ねんのために、そのへんを)
人の気配などありません。念のために、その辺を
(くまなくあるきまわってみても、どこにもくろいひとのすがたは)
くまなく歩きまわってみても、どこにも黒い人の姿は
(ないのです。たとえじめんをはっていったとしても、)
ないのです。 たとえ地面を這っていったとしても、
(そのばしょをうごけば、こちらのめにうつらないはずは)
その場所を動けば、こちらの目にうつらないはずは
(ないのに、それがすこしもみえなかったというのは、)
ないのに、それが少しも見えなかったというのは、
(ふしぎでしかたありません。あのかいぶつはせいようのあくまが、)
不思議で仕方ありません。あの怪物は西洋の悪魔が、
(ぱっとけむりをだして、すがたをけしてしまうように、くうちゅうに)
パッと煙をだして、姿を消してしまうように、空中に
(きえたとしかかんがえられません。「あいつは、)
消えたとしか考えられません。「あいつは、
(やっぱりおばけだったのかな」ふと、そうおもうと、)
やっぱりお化けだったのかな」 ふと、そう思うと、
(かつらくんは、がまんにがまんをしていたきょうふしんが、はらのそこから)
桂君は、我慢に我慢をしていた恐怖心が、腹の底から
(こみあげてきて、なにかえたいのしれないことをわめき)
こみあげてきて、何か得体の知れないことをわめき
(ながら、むがむちゅうでぼちをとびだすと、いきも)
ながら、無我夢中で墓地を飛び出すと、息も
(たえだえに、あかるいまちのほうへかけだしました。)
たえだえに、明るい町のほうへ駆け出しました。
(かつらしょうねんは、かいぶつはぼちのなかで、けむりのようにきえて)
桂少年は、怪物は墓地の中で、煙のように消えて
(しまったということを、それからずっとかたくしんじて)
しまったということを、それからずっと固く信じて
(いました。しかし、そんなことがあるものでしょうか。)
いました。しかし、そんなことがあるものでしょうか。
(もしくろいまものがにんげんだとすれば、くうきのなかへ)
もし黒い魔物が人間だとすれば、空気の中へ
(とけこんでしまうなんて、まったくかんがえられない)
溶け込んでしまうなんて、まったく考えられない
(ことではありませんか。)
ことではありませんか。