半七捕物帳 鷹のゆくえ10

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岡本綺堂 半七捕物帳シリーズ 第15話
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 すもさん 5591 A 5.8 95.7% 572.3 3348 148 62 2024/04/23
2 やまちやまちゃん 4702 C++ 4.8 97.6% 667.3 3215 77 62 2024/04/12

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問題文

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(「はあ、おおきないちょうだな」)

五 「はあ、大きな銀杏だな」

(はんしちはちゃをのみながらおうらいをながめた。いままではきがつかなかったが、)

半七は茶を飲みながら往来をながめた。今までは気がつかなかったが、

(このみせのすじむかいにはなにかちいさなほこらのようなものがあって、)

この店の筋向かいには何か小さな祠(ほこら)のようなものがあって、

(そのまえのあきちにはかなりおおきいいちょうのきがつったっていた。)

その前の空地には可(か)なり大きい銀杏の木が突っ立っていた。

(しぐれをあびたふゆのはは、だんだんにあかるくなってきたひのしたに、)

時雨を浴びた冬の葉は、だんだんに明るくなって来た日の下に、

(そのうつくしいこんじきをかがやかしていた。)

その美しい金色をかがやかしていた。

(「なに、はがおちてしようがありませんよ」と、たつぞうはいった。)

「なに、葉が落ちてしようがありませんよ」と、辰蔵は云った。

(「だが、いちょうはふゆがいい」)

「だが、銀杏は冬がいい」

(あたらしいぞうりでぬかるみをつまだってあるきながら、)

新らしい草履でぬかるみを爪立ってあるきながら、

(はんしちはそのいちょうのまえにたった。あしのしたにはきいろいおちばが)

半七はその銀杏の前に立った。足の下には黄いろい落ち葉が

(いちめんにうずたかくなっているのを、はんしちはなにげなくながめていたが、)

一面にうず高くなっているのを、半七は何げなく眺めていたが、

(さらにめをあげてたかいこずえをあおいだ。そうしてまたうつむいて、)

更に眼をあげて高い梢(こずえ)を仰いだ。そうして又うつむいて、

(なにかそのおちばでもひろっているらしかったが、やがてみせのなかへひっかえしてきた。)

何かその落葉でも拾っているらしかったが、やがて店のなかへ引っ返して来た。

(「おい、ごていしゅ。このごろにだれかこのいちょうのきへのぼりましたかえ」)

「おい、御亭主。この頃に誰かこの銀杏の木へ登りましたかえ」

(「いいえ、そんなことはないようです」と、たつぞうはこたえた。)

「いいえ、そんなことは無いようです」と、辰蔵は答えた。

(「だって、ちいさいこえだがみんなおれている。そのおれたみちがまっすぐに)

「だって、小さい小枝がみんな折れている。その折れた路がまっすぐに

(ついているのをみると、どうもだれかのぼったらしい。)

付いているのを見ると、どうも誰か登ったらしい。

(ここらにさるはいめえじゃねえか」)

ここらに猿はいめえじゃねえか」

(「そうでございます」と、たつぞうはよんどころなしにわらった。)

「そうでございます」と、辰蔵はよんどころなしに笑った。

(「それじゃあきんじょのこどもがぎんなんをとりにのぼったかもしれません。)

「それじゃあ近所の子供が銀杏(ぎんなん)を取りに登ったかも知れません。

など

(ずいぶんいたずらものがおおうございますからね」)

随分いたずら者が多うございますからね」

(「そうかもしれねえ」と、はんしちはわらった。)

「そうかも知れねえ」と、半七は笑った。

(「それからきのしたにこんなものがおちていたが・・・・・・」)

「それから木の下にこんな物が落ちていたが……」

(それはいちまいのちいさいとりのはねであった。たつぞうはおもわずのぞきこんだ。)

それは一枚の小さい鳥の羽であった。辰蔵は思わず覗き込んだ。

(「とりのはねですね」)

「鳥の羽ですね」

(「どうもたかのはねらしい。もし、おまえさん。これはたかでしょうね」)

「どうも鷹の羽らしい。もし、おまえさん。これは鷹でしょうね」

(めのまえにつきつけられて、とりさしのろうじんはそのうすくろいちいさいはねをじっとみた。)

眼の前に突きつけられて、鳥さしの老人はその薄黒い小さい羽をじっと視た。

(「そうです。たしかに、たかのはねでございます」)

「そうです。たしかに、鷹の羽でございます」

(「そうするとたかがあのきのうえにおりてきて・・・・・・」と、はんしちは)

「そうすると鷹があの木の上に降りて来て……」と、半七は

(いちょうのこずえをゆびさした。「あしのおがえだにからんでとべなくなったところを、)

銀杏のこずえを指さした。「足の緒が枝にからんで飛べなくなったところを、

(だれかがのぼっていってとらえたと、まあ、こうはんだんするんですね。)

誰かが登って行って捉(とら)えたと、まあ、こう判断するんですね。

(こえだはおれている。きのしたにたかのはねがおちている。)

小枝は折れている。木の下に鷹の羽が落ちている。

(まあ、そうはんだんするのがむりのないところでしょうね」)

まあ、そう判断するのが無理のないところでしょうね」

(いいながらたつぞうのかおをじろりとみかえると、かれはおしのように)

云いながら辰蔵の顔をじろりと見かえると、彼は啞(おし)のように

(だまってたっていた。)

黙って立っていた。

(「まったくたかのはねにそういありませんよ」と、ろうじんはかさねていった。)

「まったく鷹の羽に相違ありませんよ」と、老人はかさねて云った。

(「そうですか」 はんしちはとつぜんたちあがってたつぞうのうでをつよくつかんだ。)

「そうですか」 半七は突然起ちあがって辰蔵の腕を強く摑んだ。

(「さあ、たつぞう。しょうじきにいえ。きさまはけさあのいちょうにおりたたかをとったろう」)

「さあ、辰蔵。正直に云え。貴様はけさあの銀杏に降りた鷹を捕ったろう」

(「ごじょうだんを・・・・・・。そんなことはしりません」)

「御冗談を……。そんなことは知りません」

(「しらねえものか。もうひとつ、きさまにしらべることがある。)

「知らねえものか。もう一つ、貴様に調べることがある。

(きさまのいえへゆうべぞうしがやのたかじょうがとまったろう」)

貴様の家へゆうべ雑司ヶ谷の鷹匠が泊ったろう」

(「そ、そんなことはありません」)

「そ、そんなことはありません」

(たつぞうはこえをふるわせていいわけをした。かれもかたぎのにんげんでないだけに、)

辰蔵は声をふるわせて云い訳をした。彼も堅気の人間でないだけに、

(はやくもはんしちのみぶんをさとったらしく、かおのいろをかえておどおどしていた。)

早くも半七の身分を覚ったらしく、顔の色を変えておどおどしていた。

(たいしたあくとうでもないらしいとたかをくくって、はんしちはたたみかけてせめつけた。)

大した悪党でもないらしいと多寡をくくって、半七は畳みかけて責め付けた。

(「やい、おれをみそこなやがったか、きさまたちにめつぶしをくうような)

「やい、おれを見そこなやがったか、貴様たちに眼つぶしを食うような

(おれじゃあねえ。ぞうしがやのたかじょうのよしみせんざぶろうがそばやのおすぎと)

俺じゃあねえ。雑司ヶ谷の鷹匠の吉見仙三郎が蕎麦屋のお杉と

(ここのいえであいびきをしていることも、おれはちゃんとしっているんだ。)

ここの家で逢い曳きをしていることも、俺はちゃんと知っているんだ。

(さあ、そのたかはきさまがとったか、はっきりいえ」)

さあ、その鷹は貴様が捕ったか、はっきり云え」

(「おやぶん。それはごむりですよ」と、たつぞうはいよいよこえをふるわせた。)

「親分。それは御無理ですよ」と、辰蔵はいよいよ声をふるわせた。

(「わたくしはまったくなんにもしらねえんですから」)

「わたくしは全くなんにも知らねえんですから」

(「まだごうじょうをはるか。きさまもたいていしっているだろうが、たかをとればしざいだぞ。)

「まだ強情を張るか。貴様も大抵知っているだろうが、鷹を捕れば死罪だぞ。

(すなおにそのたかをだしてわたせば、こんどだけはないぶんにすましてやる。)

素直にその鷹を出してわたせば、今度だけは内分に済ましてやる。

(それともおれといっしょにぐんだいやしきへいくか、どっちでもきさまのすきなほうにしろ」)

それとも俺と一緒に郡代屋敷へ行くか、どっちでも貴様の好きな方にしろ」

(「でも、おやぶん。ここはいっけんやじゃありません。きんじょにもおおぜいのひとが)

「でも、親分。ここは一軒家じゃありません。近所にも大勢の人が

(すんでいます。きのえだがおれていようと、たかのはねがおちていようと、)

住んでいます。木の枝が折れていようと、鷹の羽が落ちていようと、

(なにもわたくしとかぎったことはございますまい。)

何もわたくしと限ったことはございますまい。

(まったくわたしはなんにもしらないのでございます」)

まったく私はなんにも知らないのでございます」

(「りくつをいうな。きさまがてをくだしてとらねえでも、)

「理窟をいうな。貴様が手をくだして捕らねえでも、

(たしかにかかりあいにそういねえ。きょうじゅうにかねがきっとはいるというのは、)

たしかに係り合いに相違ねえ。きょう中に金がきっとはいるというのは、

(そのたかをどこへかうるつもりだろう。さあ、いえ。)

その鷹をどこへか売るつもりだろう。さあ、云え。

(きさまがとったか、それともよしみがとったか」)

貴様が捕ったか、それとも吉見が捕ったか」

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