『妖怪博士』江戸川乱歩34
○少年探偵団シリーズ第3作品『妖怪博士』
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順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | berry | 7003 | 王 | 7.2 | 96.8% | 607.3 | 4397 | 144 | 97 | 2024/10/08 |
2 | Pu’Lo’Fi | 5966 | A+ | 6.4 | 93.3% | 712.2 | 4574 | 325 | 97 | 2024/10/25 |
3 | おもち | 5273 | B++ | 5.5 | 95.1% | 807.1 | 4487 | 231 | 97 | 2024/11/21 |
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問題文
(かんがえてみると、たかいてんじょうがそこまでおりてくるのに、)
考えてみると、高い天井がそこまで下りてくるのに、
(じゅっぷんくらいしかかかっていないのです。このちょうしで)
十分くらいしかかかっていないのです。この調子で
(さがりつづければ、あとごふんもたたないうちに、)
下がり続ければ、あと五分も経たないうちに、
(こいずみくんはおしつぶされてしまうでしょう。それを)
小泉君は押しつぶされてしまうでしょう。それを
(おもうと、もういきたここちもしません。「おかあさん、)
思うと、もう生きた心地もしません。「お母さん、
(たすけてくださーい」さすがのこいずみくんも、おさないこどもに)
助けてくださーい」さすがの小泉君も、幼い子どもに
(かえって、むがむちゅうでそんなさけびごえをたてないでは)
返って、無我夢中でそんな叫び声をたてないでは
(いられませんでした。すると、そのさけびごえにこたえる)
いられませんでした。 すると、その叫び声に答える
(ように、どこからかれいのしわがれたこえがきこえて)
ように、どこからか例のしわがれた声が聞こえて
(きました。「うふふ、こいずみくん、どうだね。その)
きました。「ウフフ、小泉君、どうだね。その
(きもちは。もう、たくさんかね。いや、しんぱいしなく)
気持ちは。もう、たくさんかね。いや、心配しなく
(てもいい。わしは、きみのいのちをとろうとはかんがえて)
てもいい。わしは、きみの命を取ろうとは考えて
(いないのだよ。ただ、にどとわしにはむかうような)
いないのだよ。ただ、二度とわしに歯向かうような
(ことがないよう、きみをこらしめたまでさ。どうだ、)
ことがないよう、きみをこらしめたまでさ。どうだ、
(すこしははんせいしたかね」こわいゆめでもみたあとのように、)
少しは反省したかね」怖い夢でも見たあとのように、
(あぶらあせでびっしょりになったこいずみくんが、こえのするほうへ)
脂汗でビッショリになった小泉君が、声のするほうへ
(ふりむくと、てっぱんのかべのいっかしょがにじゅっせんちしほう)
振り向くと、鉄板の壁の一ヶ所が二十センチ四方
(ほど、まどのようにひらいて、そこからひるたはかせに)
ほど、窓のようにひらいて、そこからヒルタ博士に
(ばけた、にじゅうめんそうのかおがのぞいているのです。)
化けた、二十面相の顔がのぞいているのです。
(すこしもきづきませんでしたが、そんなところにのぞきあなが)
少しも気づきませんでしたが、そんな所にのぞき穴が
(あったのです。「ははは、こわかったかね。まっさおな)
あったのです。「ハハハ、怖かったかね。真っ青な
(かおをしているな。あんしんするがいい。もう、きかいは)
顔をしているな。安心するがいい。もう、機械は
(とめてしまった。これで、わしのおしおきは)
止めてしまった。これで、わしのお仕置きは
(おしまいだ。いま、そこからだしてあげるよ。だが、)
おしまいだ。今、そこから出してあげるよ。だが、
(そのまえにちょっと、きみにかいてもらいたいものが)
その前にちょっと、きみに書いてもらいたい物が
(ある。ここにぺんとかみがあるから、わしのいう)
ある。ここにペンと紙があるから、わしの言う
(とおりに、そこへかいてもらいたいのだ。いいかね。)
通りに、そこへ書いてもらいたいのだ。いいかね。
(もし、きみがいやだといえば、またきかいがうごきだすよ。)
もし、きみが嫌だと言えば、また機械が動き出すよ。
(それがこわければ、さあ、このぺんをうけとってかく)
それが怖ければ、さあ、このペンを受け取って書く
(のだ。なあに、なんでもない。やさしいもんごんだよ」)
のだ。なあに、何でもない。優しい文言だよ」
(にじゅうめんそうはねこなでごえでそんなことをいいながら、)
二十面相はネコなで声でそんなことを言いながら、
(のぞきまどからいちまいのかみとまんねんひつをさしだすのでした。)
のぞき窓から一枚の紙と万年筆を差し出すのでした。
(「あやしいろうじん」)
「怪しい老人」
(はなしはかわって、それからやくさんじゅっぷんご、こいずみくんの)
話はかわって、それから約三十分後、小泉君の
(おうちのちかくのじんじゃのもりのなかを、よんじゅっさいほどの)
おうちの近くの神社の森の中を、四十歳ほどの
(でっぷりとふとったしんしが、わふくにぼうしもかぶらず、)
デップリと太った紳士が、和服に帽子もかぶらず、
(すてっきをふりながらあるいていました。そのしんしは、)
ステッキを振りながら歩いていました。 その紳士は、
(こいずみのぶおくんのおとうさんである、こいずみしんたろうしでした。)
小泉信雄君のお父さんである、小泉信太郎氏でした。
(しんたろうしは、いくつものかいしゃでじゅうやくをつとめており、)
信太郎氏は、いくつもの会社で重役を務めており、
(ふゆうなじつぎょうかなのですが、まいにちかいしゃからかえってゆうはんを)
富裕な実業家なのですが、毎日会社から帰って夕飯を
(すませると、きんじょのじんじゃのもりのなかをさんぽするのが、)
済ませると、近所の神社の森の中を散歩するのが、
(おきまりのようになっていたのです。きょうはすこし)
お決まりのようになっていたのです。 今日は少し
(ゆうはんがおくれたので、さんぽのじかんものびて、じんじゃの)
夕飯が遅れたので、散歩の時間も延びて、神社の
(けいだいはほとんどまっくらになっていました。それでも、)
境内はほとんど真っ暗になっていました。それでも、
(くせになっているものですから、さんぽをしないと)
クセになっているものですから、散歩をしないと
(なんとなくきもちがわるいので、しんたろうしはそのくらいもりの)
何となく気持ちが悪いので、信太郎氏はその暗い森の
(なかを、ぶらぶらとあるきまわっているのでした。なぜ、)
中を、ブラブラと歩き回っているのでした。なぜ、
(ゆうはんがそんなにおくれたかというと、それはひとりむすこの)
夕飯がそんなに遅れたかというと、それは一人息子の
(のぶおくんが、いくらまってもがっこうからかえらなかったから)
信雄君が、いくら待っても学校から帰らなかったから
(です。でも、きっとやきゅうのれんしゅうをしているのだろう)
です。でも、きっと野球の練習をしているのだろう
(とおもい、みんなでゆうはんをすませたのでした。こいずみくんの)
と思い、みんなで夕飯を済ませたのでした。小泉君の
(おうちはしぶやくさくらがおかちょうにあるものですから、せたがやく)
おうちは渋谷区桜丘町にあるものですから、世田谷区
(いけじりちょうのにじゅうめんそうのかくれがとは、でんしゃでじゅっぷんも)
池尻町の二十面相の隠れ家とは、電車で十分も
(かからないほどのちかさです。その、すぐめとはなの)
かからないほどの近さです。その、すぐ目と鼻の
(あいだで、かわいいのぶおくんがあんなおそろしいめにあって)
あいだで、可愛い信雄君があんな恐ろしい目にあって
(いるともしらず、おとうさんのしんたろうしは、のんきそうに)
いるとも知らず、お父さんの信太郎氏は、呑気そうに
(さんぽしていたのです。「もしもし、こいずみのだんなじゃ)
散歩していたのです。「もしもし、小泉の旦那じゃ
(ございませんか」とつぜん、くらやみのなかからよびかけるものが)
ございませんか」突然、暗闇の中から呼びかける者が
(いたので、しんたろうしはびっくりしてふりむきました。)
いたので、信太郎氏はビックリして振り向きました。
(みると、おおきなきのかげに、こじきのようなぼろぼろの)
見ると、大きな木の陰に、乞食のようなボロボロの
(ようふくをきて、しろいかみとひげをはやしたろうじんが、)
洋服を着て、白い髪とヒゲを生やした老人が、
(にやにやわらいながらたっていたのです。「わしはこいずみ)
ニヤニヤ笑いながら立っていたのです。「わしは小泉
(だが、きみはだれでしたっけ」しんたろうしはそういい)
だが、きみはだれでしたっけ」信太郎氏はそう言い
(ながら、めをこらしてあいてをながめましたが、)
ながら、目をこらして相手をながめましたが、
(いくらかんがえてもしりあいに、こんなきたないろうじんはいない)
いくら考えても知り合いに、こんな汚い老人はいない
(のです。きたないだけでなく、ふさふさとのばしたしろい)
のです。汚いだけでなく、フサフサと伸ばした白い
(あごひげがなんとなくせんにんじみて、うすきみわるくさえ)
あごヒゲが何となく仙人じみて、薄気味悪くさえ
(おもわれます。「えへへ、みおぼえがないのも、)
思われます。「エヘヘ、見覚えがないのも、
(ごもっともで、じつははじめてのものでございますが、)
ごもっともで、実は初めての者でございますが、
(だんなにすこし、おはなししたいことがありましてね。)
旦那に少し、お話ししたいことがありましてね。
(へへへ」なんときみわるいやつでしょう。くらやみのもりの)
ヘヘヘ」 なんと気味悪い奴でしょう。暗闇の森の
(なかで、いきなりきのかげからすがたをあらわし、みょうなとりの)
中で、いきなり木の陰から姿を現し、みょうな鳥の
(ようなこえでわらいながら、はなしたいことがあるという)
ような声で笑いながら、話したいことがあると言う
(のです。こじきでしょうか。いや、こじきにしては、)
のです。乞食でしょうか。いや、乞食にしては、
(なんだかくちのききかたがへんではありませんか。「はなし)
なんだか口のきき方が変ではありませんか。「話
(というのは、どんなことだね。こみいったはなしなら、)
というのは、どんなことだね。込み入った話なら、
(あらためていえへきてもらいたいのだが」しんたろうしは、)
改めて家へ来てもらいたいのだが」 信太郎氏は、
(すじょうのしれないあいてをけいかいするように、ぶあいそうにこたえ)
素性の知れない相手を警戒するように、不愛想に答え
(ました。「へへへ、なあに、そんなこみいったはなしでも)
ました。「ヘヘヘ、なあに、そんな込み入った話でも
(ございませんよ。じつは、おたくのぼっちゃんのこと)
ございませんよ。実は、お宅の坊ちゃんのこと
(について」「え、のぶおのことだと。のぶおがどうしたん)
について」「え、信雄のことだと。信雄がどうしたん
(ですか」こいずみしは、ろうじんのいみありげなくちぶりに)
ですか」 小泉氏は、老人の意味ありげな口ぶりに
(おもわずぎょっとして、ききかえしました。「えへへ、)
思わずギョッとして、聞き返しました。「エヘヘ、
(そうらごらんなさい。わしのはなしをきかずには、いられ)
そうらごらんなさい。わしの話を聞かずには、いられ
(ないでしょうな。のぶおさんは、がっこうからおかえりに)
ないでしょうな。信雄さんは、学校からお帰りに
(なりましたか」「いや、さっきわしがいえをでるまで、)
なりましたか」「いや、さっきわしが家を出るまで、
(まだかえっていなかった。どうしたのかと、しんぱいして)
まだ帰っていなかった。どうしたのかと、心配して
(いるのです。きみは、なにかのぶおのことをしっているの)
いるのです。きみは、何か信雄のことを知っているの
(かね」「しっているどころか、わしはついいましがた)
かね」「知っているどころか、わしはつい今しがた
(まで、あのこどもとはなしをしていたのですよ」「え、)
まで、あの子どもと話をしていたのですよ」「え、
(はなしですか。で、のぶおはいま、どこにいるのですか」)
話ですか。で、信雄は今、どこに居るのですか」
(「えへへ、それはちょっともうしあげられませんが、)
「エヘヘ、それはちょっと申し上げられませんが、
(わしはそのばしょもよくしっております。だんなのおこころ)
わしはその場所も良く知っております。旦那のお心
(しだいで、いつでもいえへかえるようにいたしますよ」)
次第で、いつでも家へ帰るようにいたしますよ」
(「わしのこころしだいだと。それはどういういみだね。)
「わしの心次第だと。それはどういう意味だね。
(きみは、のぶおをどこへかくしたというのかね」)
きみは、信雄をどこへ隠したというのかね」
(こいずみしは、はげしいくちょうでききかえしました。)
小泉氏は、激しい口調で聞き返しました。