夜長姫と耳男1
坂口安吾の小説です。青空文庫から引用
底本:「坂口安吾全集 12」筑摩書房
1999(平成11)年1月20日初版第1刷発行
底本の親本:「新潮 第四九巻第六号」
1952(昭和27)年6月1日発行
初出:「新潮 第四九巻第六号」
1952(昭和27)年6月1日発行
入力:砂場清隆
校正:田中敬三
2006年2月21日作成
青空文庫作成ファイル
1999(平成11)年1月20日初版第1刷発行
底本の親本:「新潮 第四九巻第六号」
1952(昭和27)年6月1日発行
初出:「新潮 第四九巻第六号」
1952(昭和27)年6月1日発行
入力:砂場清隆
校正:田中敬三
2006年2月21日作成
青空文庫作成ファイル
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問題文
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(おれのおやかたはひだずいいちのめいじんとうたわれたたくみであったが、)
オレの親方はヒダ随一の名人とうたわれたタクミであったが、
(よながのちょうじゃにまねかれたのは、ろうびょうでしきのちかづいたときだった。)
夜長の長者に招かれたのは、老病で死期の近づいた時だった。
(おやかたはみがわりにおれをすいせんして、)
親方は身代りにオレをスイセンして、
(「これはまだにじゅうのわかものだが、)
「これはまだ二十の若者だが、
(ちいさいがきのころからおれのひざもとにそだち、とくにしこんだわけでもないが、)
小さいガキのころからオレの膝元に育ち、特に仕込んだわけでもないが、
(おれがくふうのこっぽうはたいかなくえとくしているやつです。)
オレが工夫の骨法は大過なく会得している奴です。
(ごじゅうねんしこんでも、だめのやつはだめのものさ。)
五十年仕込んでも、ダメの奴はダメのものさ。
(あおがさやふるかまにくらべるとこうしゃではないかもしれぬが、)
青笠や古釜にくらべると巧者ではないかも知れぬが、
(ちからのこもったしごとをしますよ。)
力のこもった仕事をしますよ。
(みやをつくればつぎてやしぐちにおれもきづかぬくふうをあみだしたこともあるし、)
宮を造ればツギ手や仕口にオレも気附かぬ工夫を編みだしたこともあるし、
(ぶつぞうをきざめば、これがこぞうのさくかといぶかしくおもわれるほど)
仏像を刻めば、これが小僧の作かと訝かしく思われるほど
(ふかいいのちをあらわします。)
深いイノチを現します。
(おれがびょうきのためによぎなくこいつをだいりにさしだすわけではなくて、)
オレが病気のために余儀なく此奴を代理に差出すわけではなくて、
(あおがさやふるかまとわざをきそっておとるまいと)
青笠や古釜と技を競って劣るまいと
(おれがみこんでさしだすものとこころえてくださるように」)
オレが見込んで差出すものと心得て下さるように」
(きいていておれがあきれてただめをまるくせずにいられなかったほどの)
きいていてオレが呆れてただ目をまるくせずにいられなかったほどの
(かぶんのことばであった。)
過分の言葉であった。
(おれはそれまでおやかたにほめられたことはいちどもなかった。)
オレはそれまで親方にほめられたことは一度もなかった。
(もっとも、だれをほめたこともないおやかたではあったが、)
もっとも、誰をほめたこともない親方ではあったが、
(それにしても、このとつぜんのほめことばはおれをまったくきょうがくさせた。)
それにしても、この突然のホメ言葉はオレをまったく驚愕させた。
など
(とうのおれがそれほどだから、おおくのふるいでしたちが)
当のオレがそれほどだから、多くの古い弟子たちが
(おやかたはもうろくしてとほうもないことを)
親方はモウロクして途方もないことを
(くちばしってしまったものだといいふらしたのは、)
口走ってしまったものだと云いふらしたのは、
(あながちそねみのせいだけではなかったのである。)
あながち嫉みのせいだけではなかったのである。