夜長姫と耳男16
1999(平成11)年1月20日初版第1刷発行
底本の親本:「新潮 第四九巻第六号」
1952(昭和27)年6月1日発行
初出:「新潮 第四九巻第六号」
1952(昭和27)年6月1日発行
入力:砂場清隆
校正:田中敬三
2006年2月21日作成
青空文庫作成ファイル
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
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1 | デコポン | 6553 | S+ | 6.7 | 97.3% | 390.0 | 2628 | 72 | 53 | 2024/10/25 |
2 | だだんどん | 6461 | S | 6.8 | 95.1% | 383.8 | 2612 | 132 | 53 | 2024/09/29 |
3 | kkk | 5673 | A | 6.1 | 93.3% | 431.3 | 2634 | 187 | 53 | 2024/10/21 |
4 | ばぼじま | 4806 | B | 5.0 | 95.0% | 515.8 | 2615 | 136 | 53 | 2024/10/13 |
5 | Par99 | 4209 | C | 4.3 | 97.3% | 602.5 | 2608 | 72 | 53 | 2024/11/12 |
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問題文
(どうやらほーそーしんがとおりすぎた。)
どうやらホーソー神が通りすぎた。
(このむらのごふんのいちがしんでいた。)
この村の五分の一が死んでいた。
(ちょうじゃのやしきにはたすうのひとびとがすんでいるのに、)
長者の邸には多数の人々が住んでいるのに、
(ひとりもびょうにんがでなかったから、)
一人も病人がでなかったから、
(おれのつくったばけものがいちやくむらびとにしんじんされた。)
オレの造ったバケモノが一躍村人に信心された。
(ちょうじゃがまっさきにうちこんだ。)
長者がまッさきに打ちこんだ。
(「みみおがあまたのへびをいきさきにしてさかさづりにかけ)
「耳男があまたの蛇を生き裂きにして逆吊りにかけ
(いきちをあびながらのろいをこめてつくったばけものだから、)
生き血をあびながら咒いをこめて造ったバケモノだから、
(そのおそろしさにほーそーしんもちかづくことができないのだな」)
その怖ろしさにホーソー神も近づくことができないのだな」
(ひめのことばをうけうりしてふいちょうした。)
ヒメの言葉をうけうりして吹聴した。
(ばけものはさんじょうのちょうじゃのやしきのもんぜんからはこびおろされて、)
バケモノは山上の長者の邸の門前から運び降ろされて、
(やまのしたのいけのふちのみつまたのにわかづくりのほこらのなかにちんざした。)
山の下の池のフチの三ツ又のにわか造りのホコラの中に鎮座した。
(とおいむらからおがみにくるひともすくなくなかった。)
遠い村から拝みにくる人も少くなかった。
(そしておれはたちまちめいじんともてはやされたが、)
そしてオレはたちまち名人ともてはやされたが、
(そのうえのだいひょうばんをとったのはよながひめであった。)
その上の大評判をとったのは夜長ヒメであった。
(おれのてになるばけものがまにあってちょうじゃのいっかをまもったのも)
オレの手になるバケモノが間に合って長者の一家を護ったのも
(ひめのちからによるというのだ。とうといかみがひめのいきみにやどっておられる。)
ヒメの力によるというのだ。尊い神がヒメの生き身に宿っておられる。
(とうといかみのけしんであるというひょうばんがたちまちむらむらへひろがった。)
尊い神の化身であるという評判がたちまち村々へひろがった。
(やましたのほこらへおれのばけものをおがみにきたひとびとのうちには、)
山下のホコラへオレのバケモノを拝みにきた人々のうちには、
(さんじょうのちょうじゃのやしきのもんぜんへきてぬかずいておがんでかえるものもあったし、)
山上の長者の邸の門前へきてぬかずいて拝んで帰る者もあったし、
(もんぜんへおそなえものをおいていくものもあった。)
門前へお供え物を置いて行く者もあった。
(ひめはおそなえもののかぶやなっばをおれにしめして、いった。)
ヒメはお供え物のカブや菜ッ葉をオレに示して、言った。
(「これはおまえがうけたものよ。おいしくにておたべ」)
「これはお前がうけた物よ。おいしく煮てお食べ」
(ひめのかおはにこにことかがやいていた。)
ヒメの顔はニコニコとかがやいていた。
(おれはひめがからかいにきたとみて、むっとした。そしてこたえた。)
オレはヒメがからかいに来たと見て、ムッとした。そして答えた。
(「てんかなだいのほとけをつくったひだのたくみはたくさんおりますが、)
「天下名題のホトケを造ったヒダのタクミはたくさん居りますが、
(おそえものをいただいたはなしはききませんや。)
お供え物をいただいた話はききませんや。
(いきがみさまのおそえものにきまっているから、おいしくにておあがりください」)
生き神様のお供え物にきまっているから、おいしく煮ておあがり下さい」
(ひめのえがおはおれのことばにとりあわなかった。ひめはいった。)
ヒメの笑顔はオレの言葉にとりあわなかった。ヒメは言った。
(「みみおよ。おまえがつくったばけものは)
「耳男よ。お前が造ったバケモノは
(ほんとうにほーそーしんをにらみかえしてくれたのよ。)
ほんとうにホーソー神を睨み返してくれたのよ。
(わたしはまいにちろうのうえからそれをみていたわ」)
私は毎日楼の上からそれを見ていたわ」
(おれはあきれてひめのえがおをみつめた。)
オレは呆れてヒメの笑顔を見つめた。
(しかし、ひめのこころはとうていはかりがたいものであった。)
しかし、ヒメの心はとうてい量りがたいものであった。
(ひめはさらにいった。)
ヒメはさらに云った。
(「みみおよ。おまえがろうにあがってわたしとおなじものをみていても、)
「耳男よ。お前が楼にあがって私と同じ物を見ていても、
(おまえのばけものがほーそーしんをにらみかえしてくれるのを)
お前のバケモノがホーソー神を睨み返してくれるのを
(みることができなかったでしょうよ。おまえのこやがもえたときから、)
見ることができなかったでしょうよ。お前の小屋が燃えたときから、
(おまえのめはみえなくなってしまったから。)
お前の目は見えなくなってしまったから。
(そして、おまえがいまおつくりのみろくには、)
そして、お前がいまお造りのミロクには、
(おじいさんやおばあさんのずつうをやわらげるちからもないわ」)
お爺さんやお婆さんの頭痛をやわらげる力もないわ」
(ひめはさえざえとおれをみつめた。そして、ふりむいてたちさった。)
ヒメは冴え冴えとオレを見つめた。そして、ふりむいて立去った。
(おれのてにかぶとなっばがのこっていた。)
オレの手にカブと菜ッ葉がのこっていた。
(おれはひめのまほうにかけられてとりこになってしまったようにおもった。)
オレはヒメの魔法にかけられてトリコになってしまったように思った。
(おそろしいひめだとおもった。たしかにじんりきをこえたひめかもしれぬとおもった。)
怖ろしいヒメだと思った。たしかに人力を超えたヒメかも知れぬと思った。
(しかし、おれがいまつくっているみろくには)
しかし、オレがいま造っているミロクには
(じいさんばあさんのずつうをやわらげるちからもないとは、どういうことだろう。)
爺さん婆さんの頭痛をやわらげる力もないとは、どういうことだろう。
(「あのばけものにはこどもをなかせるちからもないが、みろくにはなにかがあるはずだ。)
「あのバケモノには子供を泣かせる力もないが、ミロクには何かがある筈だ。
(すくなくともおれというにんげんのたましいがそっくりのりうつっているだろう」)
すくなくともオレという人間のタマシイがそッくり乗りうつッているだろう」
(おれはかくしんをもってこういえるようにおもったが、)
オレは確信をもってこう云えるように思ったが、
(おれのかくしんのねもとからゆりうごかしてくずすものはひめのえがおであった。)
オレの確信の根元からゆりうごかしてくずすものはヒメの笑顔であった。
(おれがみうしなってしまったものがたしかにどこかにあるようにもおもわれて、)
オレが見失ってしまったものが確かにどこかにあるようにも思われて、
(たよりなくて、ふと、たまらなくせつないおもいをかんじるようになってしまった。)
たよりなくて、ふと、たまらなく切ない思いを感じるようになってしまった。