夜長姫と耳男17

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プレイ回数174難易度(4.1) 2826打 長文
坂口安吾の小説です。青空文庫から引用
底本:「坂口安吾全集 12」筑摩書房
   1999(平成11)年1月20日初版第1刷発行
底本の親本:「新潮 第四九巻第六号」
   1952(昭和27)年6月1日発行
初出:「新潮 第四九巻第六号」
   1952(昭和27)年6月1日発行
入力:砂場清隆
校正:田中敬三
2006年2月21日作成
青空文庫作成ファイル
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 デコポン 6426 S 6.6 96.8% 423.9 2815 91 62 2024/10/25
2 kkk 6396 S 6.7 95.6% 421.0 2821 128 62 2024/10/21
3 だだんどん 6312 S 6.7 93.6% 415.2 2813 192 62 2024/09/29
4 Par99 4412 C+ 4.4 98.7% 628.6 2809 35 62 2024/11/12

関連タイピング

問題文

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(ほーそーしんがとおりすぎてごじゅうにちもたたぬうちに、)

ホーソー神が通りすぎて五十日もたたぬうちに、

(こんどはちがったえきびょうがむらをこえさとをこえてわたってきた。)

今度はちがった疫病が村をこえ里をこえて渡ってきた。

(なつがきて、あついひざかりがつづいていた。)

夏がきて、熱い日ざかりがつづいていた。

(またひとびとはひざかりにあまどをおろしてしんぶつにいのってくらした。)

また人々は日ざかりに雨戸をおろして神仏に祈ってくらした。

(しかし、ほーそーしんのとおるあいだはたけをたがやしていなかったから、)

しかし、ホーソー神の通るあいだ畑を耕していなかったから、

(こんどもはたけをたがやさないとたべるものがつきていた。)

今度も畑を耕さないと食べる物が尽きていた。

(そこでひゃくしょうはおののきながら)

そこで百姓はおののきながら

(のらへでてくわをふりあげふりおろしたが、)

野良へでてクワを振りあげ振りおろしたが、

(あさはげんきででたのが、ひざかりのはたけできりきりまいをしたあげく、)

朝は元気で出たのが、日ざかりの畑でキリキリ舞いをしたあげく、

(しばらくはたけをはいまわってことぎれるものもすくなくなかった。)

しばらく畑を這いまわってことぎれる者も少くなかった。

(やまのしたのみつまたのばけもののほこらをおがみにきて、)

山の下の三ツ又のバケモノのホコラを拝みにきて、

(ほこらのまえでしんでいたものもあった。)

ホコラの前で死んでいた者もあった。

(「とうといひめのかみよ。あくびょうをはらいたまえ」)

「尊いヒメの神よ。悪病を払いたまえ」

(ちょうじゃのもんぜんへきて、こういのるものもあった。)

長者の門前へきて、こう祈る者もあった。

(ちょうじゃのやしきもふたたびひざかりにあまどをとざして、)

長者の邸も再び日ざかりに雨戸をとざして、

(ひとびとはいきをころしてくらしていた。)

人々は息をころして暮していた。

(ひめだけがあまどをあけ、ときにろうじょうからやましたのむらをながめて、)

ヒメだけが雨戸をあけ、時に楼上から山下の村を眺めて、

(ししゃをみるたびにていないのすべてのものにきかせてあるいた。)

死者を見るたびに邸内の全ての者にきかせて歩いた。

(おれのこやへきてひめがいった。)

オレの小屋へきてヒメが云った。

(「みみおよ。きょうはわたしがなにをみたとおもう?」)

「耳男よ。今日は私が何を見たと思う?」

など

(ひめのめがいつもにくらべてかがやきがふかいようでもあった。)

ヒメの目がいつもにくらべて輝きが深いようでもあった。

(ひめはいった。)

ヒメは云った。

(「ばけもののほこらへおがみにきて、ほこらのまえできりきりまいをして、)

「バケモノのホコラへ拝みにきて、ホコラの前でキリキリ舞いをして、

(ほこらにとりすがってしんだおばあさんをみたのよ」)

ホコラにとりすがって死んだお婆さんを見たのよ」

(おれはいってやった。)

オレは云ってやった。

(「あのばけもののやつもこんどのやくびょうがみは)

「あのバケモノの奴も今度の疫病神は

(にらみかえすことができませんでしたかい」)

睨み返すことができませんでしたかい」

(ひめはそれにとりあわず、しずかにこうめいじた。)

ヒメはそれにとりあわず、静かにこう命じた。

(「みみおよ。うらのやまからへびをとっておいで。おおきなふくろにいっぱい」)

「耳男よ。裏の山から蛇をとっておいで。大きな袋にいっぱい」

(こうめいじたが、おれはひめにめいじられてはいやおうもない。)

こう命じたが、オレはヒメに命じられては否応もない。

(だまっていのままにうごくことしかできないのだ。)

黙って意のままに動くことしかできないのだ。

(そのへびでなにをするつもりだろうといううたがいも、)

その蛇で何をするつもりだろうという疑いも、

(ひめがたちさってからでないとおれのあたまにうかばなかった。)

ヒメが立去ってからでないとオレの頭に浮かばなかった。

(おれはうらのやまにわけこんで、あまたのへびをとった。)

オレは裏の山にわけこんで、あまたの蛇をとった。

(きょねんのいまごろも、そのまたまえのとしのいまごろも、)

去年の今ごろも、そのまた前の年の今ごろも、

(おれはこのやまでへびをとったが、となつかしんだが、)

オレはこの山で蛇をとったが、となつかしんだが、

(そのときおれはふときがついた。)

そのときオレはふと気がついた。

(きょねんのいまごろも、そのまたまえのとしのいまごろも、)

去年の今ごろも、そのまた前の年の今ごろも、

(おれがへびとりにこのやまをうろついていたのは、)

オレが蛇とりにこの山をうろついていたのは、

(ひめのえがおにおされてひるむこころをかきたてようと)

ヒメの笑顔に押されてひるむ心をかきたてようと

(あくせんくとうしながらであった。ひめのえがおにおされたときには、)

悪戦苦闘しながらであった。ヒメの笑顔に押されたときには、

(おれのつくりかけのばけものがふぬけのようにみえた。)

オレの造りかけのバケモノが腑抜けのように見えた。

(のみのあとのすべてがむだにしかみえなかった。)

ノミの跡の全てがムダにしか見えなかった。

(そしてふぬけのばけものをふたたびまともにみなおすゆうきがわくまでには、)

そして腑抜けのバケモノを再びマトモに見直す勇気が湧くまでには、

(このやまのへびのいきちをのみほしてもたりないのではないかと)

この山の蛇の生き血を飲みほしても足りないのではないかと

(おびえつづけていたものだった。)

怯えつづけていたものだった。

(そのころにくらべると、いまのおれは)

そのころに比べると、いまのオレは

(ひめのえがおにおされるということがない。)

ヒメの笑顔に押されるということがない。

(いや、おされてはいるかもしれぬが、)

イヤ、押されてはいるかも知れぬが、

(おしかえさねばならぬというふあんなたたかいはない。)

押し返さねばならぬという不安な戦いはない。

(ひめのえがおがおしてくるままのちからを、)

ヒメの笑顔が押してくるままの力を、

(おれののみがすなおにあらわすことができればよいという)

オレのノミが素直に表すことができればよいという

(げいほんらいのさんまいきょうにひたっているだけのことだ。)

芸本来の三昧境にひたっているだけのことだ。

(いまのおれはすなおなこころにたっているから、)

いまのオレは素直な心に立っているから、

(いまつくりかけのみろくにもわがみのつたなさをなげくおもいはたえるまもないが、)

いま造りかけのミロクにもわが身の拙さを嘆く思いは絶えるまもないが、

(ばけものがふぬけにみえたほどみるもむざんななげきはなかった。)

バケモノが腑抜けに見えたほど見るも無慚な嘆きはなかった。

(ばけものをきざむのみのあとは、ひめのえがおにおされては、)

バケモノを刻むノミの跡は、ヒメの笑顔に押されては、

(すべてがむだなものにしかみえなかったものであった。)

すべてがムダなものにしか見えなかったものであった。

(いまのおれはともかくこころにやすらぎをえて、すなおにげいとたたかっているから、)

いまのオレはともかく心に安らぎを得て、素直に芸と戦っているから、

(きょねんのおれもことしのおれもかわりがないようにおもっていたが、)

去年のオレも今年のオレも変りがないように思っていたが、

(たいそうかわっているらしいな、ということをふとかんがえた。)

大そう変っているらしいな、ということをふと考えた。

(そしてことしのおれのほうがすべてにおいてたちまさっているとおもった。)

そして今年のオレの方がすべてに於て立ちまさっていると思った。

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