紫式部 源氏物語 若紫 11 與謝野晶子訳

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(げんじはよくじつきたやまへてがみをおくった。そうずへかいたものにもにょおうのもんだいを) 源氏は翌日北山へ手紙を送った。僧都へ書いたものにも女王の問題を (ほのめかしておかれたにちがいない。あまぎみのには、 もんだいにして) ほのめかして置かれたに違いない。尼君のには、 問題にして (くださいませんでしたあなたさまにきおくれがいたしまして、おもっております) くださいませんでしたあなた様に気おくれがいたしまして、思っております (こともことごとくはことばにあらわせませんでした。こうもうしますだけでも) こともことごとくは言葉に現わせませんでした。こう申しますだけでも (なみなみでないしゅうしんのほどをおくみとりくださいましたらうれしいでしょう。) 並み並みでない執心のほどをおくみ取りくださいましたらうれしいでしょう。 (などとかいてあった。べつにちいさくむすんだてがみがいれてあって、 ) などと書いてあった。別に小さく結んだ手紙が入れてあって、 (「おもかげはみをもはなれずやまざくらこころのかぎりとめてこしかど ) 「面かげは身をも離れず山ざくら心の限りとめてこしかど (どんなふうにわたくしのわすれることのできないはなをふくかもしれないとおもうと) どんな風に私の忘れることのできない花を吹くかもしれないと思うと (きがかりです」 ないようはこうだった。げんじのじをうつくしくおもったことはべつとして、) 気がかりです」 内容はこうだった。源氏の字を美しく思ったことは別として、 (ろうじんたちはてがみのつつみかたなどにさえかんしんしていた。こまってしまう。こんなもんだいは) 老人たちは手紙の包み方などにさえ感心していた。困ってしまう。こんな問題は
(どうおへんじすればいいことかとあまぎみはとうわくしていた。あのときのおはなしはとおいみらいの) どうお返事すればいいことかと尼君は当惑していた。あの時のお話は遠い未来の (ことでございましたから、ただいまなんとももうしあげませんでもとぞんじて) ことでございましたから、ただ今何とも申し上げませんでもと存じて (おりましたのに、またおてがみでおおせになりましたのできょうしゅくいたしております。) おりましたのに、またお手紙で仰せになりましたので恐縮いたしております。 (まだてならいのなにわづのうたさえもつづけてかけないこどもでございますからしつれいを) まだ手習いの難波津の歌さえも続けて書けない子供でございますから失礼を (おゆるしくださいませ、それにいたしましても、 ) お許しくださいませ、それにいたしましても、 (あらしふくおのえのさくらちらぬまをこころとめけるほどのはかなさ ) 嵐吹く尾上のさくら散らぬ間を心とめけるほどのはかなさ (こちらこそたよりないきがいたします。 というのがあまぎみからのへんじである。) こちらこそたよりない気がいたします。 というのが尼君からの返事である。 (そうずのてがみにしるされたこともおなじようであったからげんじはざんねんにおもって) 僧都の手紙にしるされたことも同じようであったから源氏は残念に思って (に、さんにちたってからこれみつをきたやまへやろうとした。 「しょうなごんのめのとというひとが) 二、三日たってから惟光を北山へやろうとした。 「少納言の乳母という人が (いるはずだから、そのひとにあってくわしくわたくしのほうのこころもちをつたえてきてくれ」) いるはずだから、その人に逢って詳しく私のほうの心持ちを伝えて来てくれ」
など
(などとげんじはめいじた。どんなじょせいにもかんしんをもつかただ、ましょうめんからみたのでは) などと源氏は命じた。どんな女性にも関心を持つ方だ、真正面から見たのでは (ないが、じしんがいっしょにすきみをしたときのことをおもってみたりもしていた。) ないが、自身がいっしょに隙見をした時のことを思ってみたりもしていた。 (こんどはごいのおとこをつかいにしててがみをもらったことにそうずはきょうしゅくしていた。) 今度は五位の男を使いにして手紙をもらったことに僧都は恐縮していた。 (これみつはしょうなごんにめんかいをもうしこんであった。げんじののぞんでいることをくわしく) 惟光は少納言に面会を申し込んで逢った。源氏の望んでいることを詳しく (つたえて、そのあとでげんじのにちじょうのせいかつぶりなどをかたった。たべんなこれみつはあいてを) 伝えて、そのあとで源氏の日常の生活ぶりなどを語った。多弁な惟光は相手を (せっとくするこころでじょうずにいろいろはなしたが、そうずもあまぎみもしょうなごんもおさないにょおうへの) 説得する心で上手にいろいろ話したが、僧都も尼君も少納言も稚い女王への (けっこんのもうしこみはどうかいしゃくすべきであろうとあきれているばかりだった。) 結婚の申し込みはどう解釈すべきであろうとあきれているばかりだった。 (てがみのほうにもねんごろにもうしいれがかかれてあって、 ひとつずつはなして) 手紙のほうにもねんごろに申し入れが書かれてあって、 一つずつ離して (おかきになるひめぎみのおじをぜひわたくしにみせていただきたい。 ともあった。) お書きになる姫君のお字をぜひ私に見せていただきたい。 ともあった。 (れいのなかにふうじたほうのてがみには、 ) 例の中に封じたほうの手紙には、 (あさかやまあさくもひとをおもわぬになどやまのいのかけはなるらん ) 浅香山浅くも人を思はぬになど山の井のかけ離るらん (このうたがかいてある。へんじ、 ) この歌が書いてある。返事、 (くみそめてくやしとききしやまのいのあさきながらやかげをみすべき ) 汲み初めてくやしと聞きし山の井の浅きながらや影を見すべき (あまぎみがかいたのである。これみつがきいてきたのもそのていどのへんじであった。) 尼君が書いたのである。惟光が聞いて来たのもその程度の返辞であった。 (「あまさまのごようだいがすこしおよろしくなりましたらきょうのおやしきへかえりますから、) 「尼様の御容体が少しおよろしくなりましたら京のお邸へ帰りますから、 (そちらからあらためておへんじをもうしあげることにいたします」 といっていた) そちらから改めてお返事を申し上げることにいたします」 と言っていた (というのである。げんじはたよりないきがしたのであった。) というのである。源氏はたよりない気がしたのであった。
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