紫式部 源氏物語 若紫 19 與謝野晶子訳

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1 HAKU 8046 8.2 97.4% 369.5 3052 79 49 2024/10/24
2 berry 7844 7.9 98.6% 379.0 3015 42 49 2024/11/01
3 subaru 7606 7.8 96.6% 384.4 3029 105 49 2024/10/28
4 おもち 7586 7.7 97.3% 389.4 3037 83 49 2024/10/26
5 だだんどん 6672 S+ 7.1 93.7% 422.9 3022 200 49 2024/11/20

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問題文

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(「あすよあけにあすこへいってみよう。ここへきたくるまをそのままにして)

「明日夜明けにあすこへ行ってみよう。ここへ来た車をそのままにして

(おかせて、ずいしんをひとりかふたりしたくさせておくようにしてくれ」)

置かせて、随身を一人か二人仕度させておくようにしてくれ」

(というめいれいをうけてこれみつはたった。げんじはそののちもいろいろと)

という命令を受けて惟光は立った。源氏はそののちもいろいろと

(おもいなやんでいた。ひとのむすめをぬすみだしたうわさのたてられるふめいよも、もうすこし)

思い悩んでいた。人の娘を盗み出した噂の立てられる不名誉も、もう少し

(あのひとがおとなでおもいあったなかであればそのぎせいもじぶんははらって)

あの人が大人で思い合った仲であればその犠牲も自分は払って

(よいわけであるが、これはそうでもないのである。ちちみやにとりもどされるときの)

よいわけであるが、これはそうでもないのである。父宮に取りもどされる時の

(ふていさいもかんがえてみるひつようがあるとおもったが、そのきかいをはずすことはどうしても)

不体裁も考えてみる必要があると思ったが、その機会をはずすことはどうしても

(おしいことであるとかんがえて、よくあさはあけきらぬまにでかけることにした。)

惜しいことであると考えて、翌朝は明け切らぬ間に出かけることにした。

(ふじんはさくやのきもちのままでまだうちとけてはいなかった。)

夫人は昨夜の気持ちのままでまだ打ち解けてはいなかった。

(「にじょうのいんにぜひしなければならないことのあったのをわたくしはおもいだしたから)

「二条の院にぜひしなければならないことのあったのを私は思い出したから

(でかけます。ようをすませたらまたくることにしましょう」 とげんじは)

出かけます。用を済ませたらまた来ることにしましょう」 と源氏は

(ふきげんなつまにつげて、しんしつをそっとでたので、にょうぼうたちもしらなかった。)

不機嫌な妻に告げて、寝室をそっと出たので、女房たちも知らなかった。

(じしんのへやになっているほうでのうしなどはきた。うまにのせたこれみつだけを)

自身の部屋になっているほうで直衣などは着た。馬に乗せた惟光だけを

(つきそいにしてげんじはだいなごんけへきた。もんをたたくとなんのきなしにげなんが)

付き添いにして源氏は大納言家へ来た。門をたたくと何の気なしに下男が

(もんをあけた。くるまをしずかになかへひきこませて、げんじのともなったこれみつが)

門をあけた。車を静かに中へ引き込ませて、源氏の伴った惟光が

(つまどをたたいて、しわぶきをすると、しょうなごんがききつけてでてきた。)

妻戸をたたいて、しわぶきをすると、少納言が聞きつけて出て来た。

(「きていらっしゃるのです」 というと、)

「来ていらっしゃるのです」 と言うと、

(「にょおうさまはやすんでいらっしゃいます。どちらから、どうしてこんなにおはやく」)

「女王様はやすんでいらっしゃいます。どちらから、どうしてこんなにお早く」

(としょうなごんがいう。げんじがひとのところへかよっていったきとだとかいしゃくしているのである。)

と少納言が言う。源氏が人の所へ通って行った帰途だと解釈しているのである。

(「みやさまのほうへいらっしゃるそうですから、そのまえにちょっとひとこと)

「宮様のほうへいらっしゃるそうですから、その前にちょっと一言

など

(おはなしをしておきたいとおもって」 とげんじがいった。)

お話をしておきたいと思って」 と源氏が言った。

(「どんなことでございましょう。まあどんなにたしかなおへんじが)

「どんなことでございましょう。まあどんなに確かなお返辞が

(おできになりますことやら」 しょうなごんはわらっていた。げんじがしつないへ)

おできになりますことやら」 少納言は笑っていた。源氏が室内へ

(はいっていこうとするので、このひとはとうわくしたらしい。 「ふぎょうぎににょうぼうたちが)

はいって行こうとするので、この人は当惑したらしい。 「不行儀に女房たちが

(やすんでおりまして」 「まだにょおうさんはおめざめになって)

やすんでおりまして」 「まだ女王さんはお目ざめになって

(いないのでしょうね。わたくしがおおこししましょう。もうあさぎりがいっぱいふる)

いないのでしょうね。私がお起こししましょう。もう朝霧がいっぱい降る

(じこくだのに、ねているというのは」 といいながらしんしつへはいるげんじを)

時刻だのに、寝ているというのは」 と言いながら寝室へはいる源氏を

(しょうなごんはとめることもできなかった。げんじはむしんによくねむっていたひめぎみを)

少納言は止めることもできなかった。源氏は無心によく眠っていた姫君を

(だきあげてめをさまさせた。にょおうはちちみやがおむかえにおいでになったのだと、)

抱き上げて目をさまさせた。女王は父宮がお迎えにおいでになったのだと、

(まださめないこころではおもっていた。かみをなでてなおしたりして、)

まださめない心では思っていた。髪を撫でて直したりして、

(「さあ、いらっしゃい。みやさまのおつかいになってわたくしがきたのですよ」)

「さあ、いらっしゃい。宮様のお使いになって私が来たのですよ」

(というこえをきいたときにひめぎみはおどろいて、おそろしくおもうふうにみえた。)

と言う声を聞いた時に姫君は驚いて、恐ろしく思うふうに見えた。

(「いやですね。わたくしだってみやさまだっておなじひとですよ。おになどであるものですか」)

「いやですね。私だって宮様だって同じ人ですよ。鬼などであるものですか」

(げんじのきみがひめぎみをかかえてでてきた。しょうなごんと、これみつと、そとのにょうぼうとが、)

源氏の君が姫君をかかえて出て来た。少納言と、惟光と、外の女房とが、

(「あ、どうなさいます」 とどうじにいった。)

「あ、どうなさいます」 と同時に言った。

(「ここへはしじゅうこられないから、きらくなところへおうつししようといったのだけれど、)

「ここへは始終来られないから、気楽な所へお移ししようといったのだけれど、

(それにはどういをなさらないで、ほかへおうつりになることになったから、)

それには同意をなさらないで、ほかへお移りになることになったから、

(そちらへおいでになってはいろいろめんどうだから、それでなのだ。)

そちらへおいでになってはいろいろ面倒だから、それでなのだ。

(だれかひとりついておいでなさい」 こうげんじのいうのをきいて)

だれか一人ついておいでなさい」 こう源氏の言うのを聞いて

(しょうなごんはあわててしまった。 「きょうではひじょうにこまるかとおもいます。)

少納言はあわててしまった。 「今日では非常に困るかと思います。

(みやさまがおむかえにおいでになりましたせつ、なんとももうしあげようがないでは)

宮様がお迎えにおいでになりました節、何とも申し上げようがないでは

(ございませんか。あるじかんがたちましてから、ごいっしょにおなりになるごえんが)

ございませんか。ある時間がたちましてから、ごいっしょにおなりになる御縁が

(あるものでございましたらしぜんにそうなることでございましょう。)

あるものでございましたら自然にそうなることでございましょう。

(まだあまりにごようしょうでいらっしゃいますから、ただいまそんなことはみなのものの)

まだあまりに御幼少でいらっしゃいますから、ただ今そんなことは皆の者の

(せきにんになることでございますから」 というと、)

責任になることでございますから」 と言うと、

(「じゃいい。いますぐについてこられないのなら、ひとはあとでくるがよい」)

「じゃいい。今すぐについて来られないのなら、人はあとで来るがよい」

(こんなふうにいってげんじはくるまをまえへよせさせた。ひめぎみもあやしくなって)

こんなふうに言って源氏は車を前へ寄せさせた。姫君も怪しくなって

(なきだした。しょうなごんはとめようがないので、さくやぬったにょおうのきものを)

泣き出した。少納言は止めようがないので、昨夜縫った女王の着物を

(てにさげて、じしんもきがえをしてからくるまにのった。)

手にさげて、自身も着がえをしてから車に乗った。

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