紫式部 源氏物語 末摘花 6 與謝野晶子訳
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
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1 | □「いいね」する | 7618 | 神 | 7.8 | 96.7% | 604.7 | 4766 | 159 | 71 | 2024/10/30 |
2 | subaru | 7297 | 光 | 7.7 | 94.3% | 610.5 | 4738 | 283 | 71 | 2024/10/31 |
3 | りつ | 4235 | C | 4.3 | 96.7% | 1113.6 | 4881 | 164 | 71 | 2024/10/31 |
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問題文
(はちがつのはつかすぎである。はち、くじにもまだつきがでずにほしだけがしろくみえるよる、)
八月の二十日過ぎである。八、九時にもまだ月が出ずに星だけが白く見える夜、
(ふるいやしきのまつかぜがこころぼそくて、ちちみやのことなどをいいだして、にょおうはみょうぶといて)
古い邸の松風が心細くて、父宮のことなどを言い出して、女王は命婦といて
(ないたりしていた。げんじにたずねてこさせるのによいおりであるとおもったみょうぶの)
泣いたりしていた。源氏に訪ねて来させるのによいおりであると思った命婦の
(しらせがいったか、このはるのようにそっとげんじがでてきた。そのじぶんになって)
しらせが行ったか、この春のようにそっと源氏が出て来た。その時分になって
(のぼったつきのひかりが、ふるいにわをいっそうこうりょうたるものにみせるのをさびしいきもちで)
昇った月の光が、古い庭をいっそう荒涼たるものに見せるのを寂しい気持ちで
(にょおうがながめているとみょうぶがすすめてことをひかせた。まずくはない。もうすこし)
女王がながめていると命婦が勧めて琴を弾かせた。まずくはない。もう少し
(きんだいてきのこうたくがそったらいいだろうなどと、ひそかなことをくわだてて)
近代的の光沢が添ったらいいだろうなどと、ひそかなことを企てて
(こころのおちつかぬみょうぶはおもっていた。ひとのあまりいないいえであったからげんじは)
心の落ち着かぬ命婦は思っていた。人のあまりいない家であったから源氏は
(きらくになかへはいってみょうぶをよばせた。みょうぶははじめてしっておどろくというふうに)
気楽に中へはいって命婦を呼ばせた。命婦ははじめて知って驚くというふうに
(みせて、 「いらっしったおきゃくさまって、それはげんじのきみなんですよ。)
見せて、 「いらっしったお客様って、それは源氏の君なんですよ。
(しじゅうごこうさいをするしょうかいやくをするようにってやかましくいって)
始終御交際をする紹介役をするようにってやかましく言って
(いらっしゃるのですが、そんなことはわたくしにだめでございますっておことわりばかり)
いらっしゃるのですが、そんなことは私にだめでございますってお断わりばかり
(しておりますの、そしたらじぶんでちょくせつおはなしにいくってよくおっしゃるのです。)
しておりますの、そしたら自分で直接お話しに行くってよくおっしゃるのです。
(おかえしはできませんわね。ぶしつけをなさるようなかたならなんですが、)
お帰しはできませんわね。ぶしつけをなさるような方なら何ですが、
(そんなかたじゃございません。ものごしでおはなしをしておあげになることだけを)
そんな方じゃございません。物越しでお話をしておあげになることだけを
(ゆるしてあげてくださいましね」 というとにょおうはひじょうにはずかしがって、)
許してあげてくださいましね」 と言うと女王は非常に恥ずかしがって、
(「わたくしはおはなしのしかたもしらないのだから」 といいながらへやのおくのほうへ)
「私はお話のしかたも知らないのだから」 と言いながら部屋の奥のほうへ
(いざっていくのがういういしくみえた。みょうぶはわらいながら、)
膝行って行くのがういういしく見えた。命婦は笑いながら、
(「あまりにこどもらしくいらっしゃいます。どんなきふじんといいましても、)
「あまりに子供らしくいらっしゃいます。どんな貴婦人といいましても、
(おやがじゅうぶんにほごしていてくださるあいだだけはこどもらしくしていてよろしくても、)
親が十分に保護していてくださる間だけは子供らしくしていてよろしくても、
(こんなさびしいおくらしをしていらっしゃりながら、あまりあなたのようにしゅうちの)
こんな寂しいお暮らしをしていらっしゃりながら、あまりあなたのように羞恥の
(かんねんのつよいことはまちがっています」 こんなちゅうこくをした。ひとのいうことに)
観念の強いことはまちがっています」 こんな忠告をした。人の言うことに
(そむかれないうちきなせいしつのにょおうは、 「へんじをしないでただきいてだけいても)
そむかれない内気な性質の女王は、 「返辞をしないでただ聞いてだけいても
(いいというのなら、こうしでもおろしてここにいていい」 といった。)
いいというのなら、格子でもおろしてここにいていい」 と言った。
(「えんがわにおすわらせすることなどはしつれいでございます。むりなことはけっして)
「縁側におすわらせすることなどは失礼でございます。無理なことは決して
(なさいませんでしょう」 ていさいよくいって、つぎのへやとのあいだのからかみをみょうぶじしんが)
なさいませんでしょう」 体裁よく言って、次の室との間の襖子を命婦自身が
(たしかにしめて、りんしつへげんじのざのよういをしたのである。げんじはすこし)
確かに閉めて、隣室へ源氏の座の用意をしたのである。源氏は少し
(はずかしいきがした。ひととしてはじめてあうおんなにはどんなことをいってよいかを)
恥ずかしい気がした。人としてはじめて逢う女にはどんなことを言ってよいかを
(しらないが、みょうぶがせわをしてくれるであろうときめてざについた。)
知らないが、命婦が世話をしてくれるであろうと決めて座についた。
(めのとのようなやくをするろうじょたちはへやへはいってよいまどいのめを)
乳母のような役をする老女たちは部屋へはいって宵惑いの目を
(とじているころである。わかいに、さんにんのにょうぼうはゆうめいなげんじのきみのらいほうに)
閉じているころである。若い二、三人の女房は有名な源氏の君の来訪に
(こころをときめかせていた。よいふくにきかえさせられながらにょおうじしんはなんのこころの)
心をときめかせていた。よい服に着かえさせられながら女王自身は何の心の
(どうようもなさそうであった。おとこはもとよりのびぼうをめだたぬようにけしょうして、)
動揺もなさそうであった。男はもとよりの美貌を目だたぬように化粧して、
(こんやはことさらえんにみえた。びのかちのわかるひとなどのいないところだのにと)
今夜はことさら艶に見えた。美の価値のわかる人などのいない所だのにと
(みょうぶはきのどくにおもった。みょうぶにはにょおうがただおおようにしているにそういない)
命婦は気の毒に思った。命婦には女王がただおおようにしているに相違ない
(てんだけがあんしんだとおもわれた。かいわにですぎたしっさくをしそうには)
点だけが安心だと思われた。会話に出過ぎた失策をしそうには
(みえないからである。じぶんのせめのがれにしたことで、きのどくなにょおうをいっそう)
見えないからである。自分の責めのがれにしたことで、気の毒な女王をいっそう
(ふこうにしないだろうかというふあんはもっていた。げんじはあいてのみがらを)
不幸にしないだろうかという不安はもっていた。源氏は相手の身柄を
(そんけいしているこころからりこうぶりをみせるしゃれぎのおおいおんなよりも、きのぬけたほど)
尊敬している心から利巧ぶりを見せる洒落気の多い女よりも、気の抜けたほど
(おおようなこんなひとのほうがかんじがよいとおもっていたが、からかみのむこうで、)
おおようなこんな人のほうが感じがよいと思っていたが、襖子の向こうで、
(にょうぼうたちにすすめられてすこしざをすすめたときに、かすかなえびこうのにおいが)
女房たちに勧められて少し座を進めた時に、かすかな衣被香のにおいが
(したので、じぶんのそうぞうはまちがっていなかったとおもい、ながいあいだおもいつづけた)
したので、自分の想像はまちがっていなかったと思い、長い間思い続けた
(こいであったことなどをじょうずにはなしても、てがみのへんじをしないひとからはまた)
恋であったことなどを上手に話しても、手紙の返事をしない人からはまた
(くちずからのへんじをうけとることができなかった。 「どうすればいいのです」)
口ずからの返辞を受け取ることができなかった。 「どうすればいいのです」
(とげんじはたんそくした。 )
と源氏は歎息した。
(「いくそたびきみがしじまにまけぬらんものないいそといわぬたのみに )
「いくそ度君が沈黙に負けぬらん物な云ひそと云はぬ頼みに
(いいきってくださいませんか。わたくしのこいをうけてくださるのか、)
言いきってくださいませんか。私の恋を受けてくださるのか、
(うけてくださらないかを」 にょおうのめのとのむすめでじじゅうというきさくなわかいにょうぼうが、)
受けてくださらないかを」 女王の乳母の娘で侍従という気さくな若い女房が、
(みかねて、にょおうのそばへよってにょおうらしくしていった。 )
見かねて、女王のそばへ寄って女王らしくして言った。
(かねつきてとぢめんことはさすがにてこたえまうきぞかつはあやなき )
鐘つきてとぢめんことはさすがにて答へまうきぞかつはあやなき
(わかわかしいこえで、おもおもしくもののいえないひとがだいにんでないようにしていったので、)
若々しい声で、重々しくものの言えない人が代人でないようにして言ったので、
(きじょとしてはあまったれたたいどだとげんじはおもったが、はじめてあいてにものを)
貴女としては甘ったれた態度だと源氏は思ったが、はじめて相手にものを
(いわせたことがうれしくて、 「こちらがなんともいえなくなります、)
言わせたことがうれしくて、 「こちらが何とも言えなくなります、
(いわぬをもいうにまさるとしりながらおしこめたるはくるしかりけり」 )
云はぬをも云ふに勝ると知りながら押し込めたるは苦しかりけり」
(いろいろと、それはじっしつのあることではなくても、ゆうわくてきにもまじめにも)
いろいろと、それは実質のあることではなくても、誘惑的にもまじめにも
(げんじはかたりつづけたが、あのうたきりほかのへんじはなかった、こんなたいどを)
源氏は語り続けたが、あの歌きりほかの返辞はなかった、こんな態度を
(おとこにとるのはとくべつなかんがえをもっているひとなんだろうかとおもうと、げんじはじしんが)
男にとるのは特別な考えをもっている人なんだろうかと思うと、源氏は自身が
(けいべつされているようなくちおしいきがした。そのときにげんじはにょおうのへやのほうへ)
軽蔑されているような口惜しい気がした。その時に源氏は女王の室のほうへ
(からかみをあけてはいったのである。みょうぶはうかうかとゆだんをさせられたことで)
襖子をあけてはいったのである。命婦はうかうかと油断をさせられたことで
(にょおうをきのどくにおもうと、そこにもおられなくて、そしらぬふうをしてじしんの)
女王を気の毒に思うと、そこにもおられなくて、そしらぬふうをして自身の
(へやのほうへかえった。じじゅうなどというわかいにょうぼうはひかるげんじということにこういを)
部屋のほうへ帰った。侍従などという若い女房は光源氏ということに好意を
(もっていて、あるじをかばうことにもたいしてちからがでなかったのである。)
持っていて、主人をかばうことにもたいして力が出なかったのである。
(こんなふうになんのこころのよういもなくてけっこんしてしまうにょおうにどうじょうしている)
こんなふうに何の心の用意もなくて結婚してしまう女王に同情している
(ばかりであった。にょおうはただしゅうちのなかにうずもれていた。げんじはけっこんのはじめの)
ばかりであった。女王はただ羞恥の中にうずもれていた。源氏は結婚の初めの
(うちはこんなふうであるおんながよい、どくしんでながくだいじがられてきたおんなは)
うちはこんなふうである女がよい、独身で長く大事がられてきた女は
(こんなものであろうとしゃくりょうしておもいながらも、てさぐりにしったおんなのようすに)
こんなものであろうと酌量して思いながらも、手探りに知った女の様子に
(ふにおちぬところもあるようだった。あいじょうがあたらしくわいてくるようなことは)
腑に落ちぬところもあるようだった。愛情が新しく湧いてくるようなことは
(すこしもなかった。たんそくしながらまだあかつきがたにかえろうとげんじはした。)
少しもなかった。歎息しながらまだ暁方に帰ろうと源氏はした。
(みょうぶはどうなったかといちやじゅうしんぱいでねむれなくて、このときのものおとも)
命婦はどうなったかと一夜じゅう心配で眠れなくて、この時の物音も
(しっていたが、だまっているほうがよいとおもって、「おおくりいたしましょう」と)
知っていたが、黙っている方がよいと思って、「お送りいたしましょう」と
(あいさつのこえもたてなかった。げんじはしずかにもんをでていったのである。)
挨拶の声も立てなかった。源氏は静かに門を出て行ったのである。