紫式部 源氏物語 絵合 7 與謝野晶子訳(終)

順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | subaru | 8190 | 神 | 8.4 | 96.6% | 526.8 | 4469 | 154 | 67 | 2025/03/29 |
2 | berry | 7797 | 神 | 7.9 | 98.1% | 559.7 | 4450 | 86 | 67 | 2025/03/28 |
3 | ヤス | 7168 | 王 | 7.4 | 95.8% | 602.1 | 4509 | 193 | 67 | 2025/03/29 |
4 | HAKU | 7038 | 王 | 7.4 | 95.2% | 610.2 | 4521 | 226 | 67 | 2025/03/29 |
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問題文
(あけがたちかくなってふるいかいそうからしめったこころもちになったげんじは)
明け方近くなって古い回想から湿った心持ちになった源氏は
(さかずきをとりながらそつのみやにかたった。 「わたくしはこどものじだいから)
杯を取りながら帥の宮に語った。 「私は子供の時代から
(がくもんをねっしんにしていましたが、しぶんのほうめんにすすむけいこうがあると)
学問を熱心にしていましたが、詩文の方面に進む傾向があると
(ごらんになったのですか、いんがこうおっしゃいました、ぶんがくというものは)
御覧になったのですか、院がこうおっしゃいました、文学というものは
(せけんからおもんぜられるせいか、そのほうのことをせんもんてきにまでやるひとの)
世間から重んぜられるせいか、そのほうのことを専門的にまでやる人の
(ちょうじゅとこうふくをふたつともそろってえているひとはすくない。ふそくのないみぶんは)
長寿と幸福を二つともそろって得ている人は少ない。不足のない身分は
(もっているのであるから、あながちにぶんがくでめいよをえるひつようはない。)
持っているのであるから、あながちに文学で名誉を得る必要はない。
(そのこころえでやらねばならないって。いらいわたくしにほんかくてきながくもんをいろいろと)
その心得でやらねばならないって。以来私に本格的な学問をいろいろと
(おさせになりましたが、できがわるいかもくもなく、またすぐれたふかいけんきゅうの)
おさせになりましたが、できが悪い課目もなく、またすぐれた深い研究の
(できたこともありませんでした。えをかくことだけは、それはおおきいことでは)
できたこともありませんでした。絵を描くことだけは、それは大きいことでは
(ありませんが、まんぞくのできるほどせいしんをしゅうちゅうさせてかいてみたいというきぼうが)
ありませんが、満足のできるほど精神を集中させて描いて見たいという希望が
(おりおりおこったものですが、おもいがけなくほうろうしゃになりましたときに、)
おりおり起こったものですが、思いがけなく放浪者になりました時に、
(はじめてだいしぜんのうつくしさにもせっするきかいをえまして、かくべきものはじゅうぶんに)
はじめて大自然の美しさにも接する機会を得まして、描くべき物は十分に
(あたえられたのですが、ぎこうがまずくて、おもいどおりのものをしじょうにひょうげんすることは)
与えられたのですが、技巧がまずくて、思いどおりの物を紙上に表現することは
(できませんでした。そんなものですからこれだけをおめにかけることは)
できませんでした。そんなものですからこれだけをお目にかけることは
(はずかしくていたされませんから、こんどのようなきかいに)
恥ずかしくていたされませんから、今度のような機会に
(もちだしただけなのですが、わたくしのこういがとっぴなようにひょうされないかと)
持ち出しただけなのですが、私の行為が突飛なように評されないかと
(しんぱいしております」 「なんのげいでもあたまがなくてはならえませんが、)
心配しております」 「何の芸でも頭がなくては習えませんが、
(それでもどのげいにもみなししょうがあって、みちびくみちができているものですから、)
それでもどの芸にも皆師匠があって、導く道ができているものですから、
(ふかさあささはべつもんだいとして、ししょうのまねをしてひととおりにやるだけのことは)
深さ浅さは別問題として、師匠の真似をして一通りにやるだけのことは
(だれにもまずできるでしょう。ただじをかくことといごだけはげいをねっしんに)
だれにもまずできるでしょう。ただ字を書くことと囲碁だけは芸を熱心に
(ならったともおもわれないものからもひょっくりりっぱなしょをかくもの、ごのめいじんが)
習ったとも思われない者からもひょっくりりっぱな書を書く者、碁の名人が
(でているものの、やはりきぞくのこのなかからどんなげいもでぬけてできるひとが)
出ているものの、やはり貴族の子の中からどんな芸も出抜けてできる人が
(でるようにおもわれます。いんがごじしんのしんのう、ないしんのうたちにみななにかのげいは)
出るように思われます。院が御自身の親王、内親王たちに皆何かの芸は
(おしこみになったわけですが、そのなかでもあなたへはとくべつにごねっしんに)
お仕込みになったわけですが、その中でもあなたへは特別に御熱心に
(ごきょうじゅあそばしましたし、ねっしんにもおならいになったのですから、しぶんのほうは)
御教授あそばしましたし、熱心にもお習いになったのですから、詩文のほうは
(むろんごりっぱだし、そのほかではきんをおひきになることがだいいちのげいで、)
むろんごりっぱだし、そのほかでは琴をお弾きになることが第一の芸で、
(つぎはよこぶえ、びわ、じゅうさんげんというじゅんによくおできになるげいがあると)
次は横笛、琵琶、十三絃という順によくおできになる芸があると
(いんもおおせになりました。せけんもそうしんじているのですが、えなどはほんの)
院も仰せになりました。世間もそう信じているのですが、絵などはほんの
(おどうらくだとわたくしもいままではおもっていましたのに、あまりにおじょうずすぎて)
お道楽だと私も今までは思っていましたのに、あまりにお上手過ぎて
(すみえかきのがかがはじてしんでしまうおそれがあるけっさくをおみせになるのは、)
墨絵描きの画家が恥じて死んでしまう恐れがある傑作をお見せになるのは、
(けしからんことかもしれません」 みやはしまいにはじょうだんをおいいになったが)
けしからんことかもしれません」 宮はしまいには戯談をお言いになったが
(よいなきなのか、こいんのおはなしをされてしおれておしまいになった。)
酔い泣きなのか、故院のお話をされてしおれておしまいになった。
(にじゅういくにちのつきがでてまだここへはさしてこないのであるが、)
二十幾日の月が出てまだここへはさしてこないのであるが、
(そらにはきよいあかるさがみちていた。しょしにほかんされてあるがっきがめしよせられて、)
空には清い明るさが満ちていた。書司に保管されてある楽器が召し寄せられて、
(ちゅうなごんがわごんのひきてになったが、さすがにめいしゅであると)
中納言が和琴の弾き手になったが、さすがに名手であると
(ひとをおどろかすげいであった。そつのみやはじゅうさんげん、げんじはきん、びわのやくはしょうしょうのみょうぶに)
人を驚かす芸であった。帥の宮は十三絃、源氏は琴、琵琶の役は少将の命婦に
(おおせつけられた。てんじょうやくにんのなかのおんがくのそようのあるものがめされてひょうしをとった。)
仰せつけられた。殿上役人の中の音楽の素養のある者が召されて拍子を取った。
(まれなよいがっそうになった。よがあけてさくらのはなもひとのかおもほのかにうきだし、)
稀なよい合奏になった。夜が明けて桜の花も人の顔もほのかに浮き出し、
(ことりのさえずりがきこえはじめた。うつくしいあさぼらけである。かしひんはにょいんから)
小鳥のさえずりが聞こえ始めた。美しい朝ぼらけである。下賜品は女院から
(おだしになったが、なおしんのうはみかどからもぎょいをたまわった。)
お出しになったが、なお親王は帝からも御衣を賜わった。
(このとうざはだれもだれもえあわせのひのえのうわさをしあった。)
この当座はだれもだれも絵合わせの日の絵の噂をし合った。
(「すま、あかしのにかんはにょいんのござゆうにさしあげていただきたい」)
「須磨、明石の二巻は女院の御座右に差し上げていただきたい」
(こうげんじはもうしでた。にょいんはこのにかんのぜんごのものも)
こう源氏は申し出た。女院はこの二巻の前後の物も
(みなみたくおぼしめすとのことであったが、 「またおりをみまして」)
皆見たく思召すとのことであったが、 「またおりを見まして」
(とげんじはごあいさつをもうした。みかどがえあわせにまんぞくあそばしたごようすであったのを)
と源氏は御挨拶を申した。帝が絵合わせに満足あそばした御様子であったのを
(げんじはうれしくおもった。ふたりのにょごのいどみからはじまったちょっとした)
源氏はうれしく思った。二人の女御の挑みから始まったちょっとした
(えのうえのことでもげんじはおおぎょうにちからをいれてうめつぼをかたせずには)
絵の上のことでも源氏は大形に力を入れて梅壺を勝たせずには
(おかなかったことからちゅうなごんはむすめのけおされていくうんめいもよかんして)
置かなかったことから中納言は娘の気押されて行く運命も予感して
(くちおしがった。みかどははじめにまいったにょごであって、ごあいじょうにとくべつなものの)
口惜しがった。帝は初めに参った女御であって、御愛情に特別なものの
(あることを、にょごのちちのちゅうなごんだけはそうぞうのできるてんもあって、)
あることを、女御の父の中納言だけは想像のできる点もあって、
(たのもしくはおもっていて、すべてはじぶんのとりこしぐろうであると)
頼もしくは思っていて、すべては自分の取り越し苦労であると
(しいておもおうともちゅうなごんはしていた。 きゅうちゅうのぎしきなども)
しいて思おうとも中納言はしていた。 宮中の儀式なども
(このみよからはじまったというものをおこそうとげんじはおもうのであった。)
この御代から始まったというものを起こそうと源氏は思うのであった。
(えあわせなどというもよおしでもたんなるゆうぎでなく、びじゅつのかんしょうのかいにまで)
絵合わせなどという催しでも単なる遊戯でなく、美術の鑑賞の会にまで
(ひきあげておこなわれるようなさかりのじだいがげんしゅつしたわけである。)
引き上げて行なわれるような盛りの時代が現出したわけである。
(しかもげんじはじんせいのむじょうをふかくおもって、みかどがいますこしおとなにおなりになるのを)
しかも源氏は人生の無常を深く思って、帝がいま少し大人におなりになるのを
(まって、しゅっけがしたいとこころのそこではおもっているようである。むかしのれいをみても、)
待って、出家がしたいと心の底では思っているようである。昔の例を見ても、
(としがわかくてかんいのすすんだ、そしてよのなかにたくえつしたひとはながくこうふくで)
年が若くて官位の進んだ、そして世の中に卓越した人は長く幸福で
(いられないものである、じぶんはかぶんなちいをえている、いぜんふこうなひの)
いられないものである、自分は過分な地位を得ている、以前不幸な日の
(あったことで、ようやくまだこんにちまでうんがつづいているのである、こんごもなお)
あったことで、ようやくまだ今日まで運が続いているのである、今後もなお
(じゅんきょうにみをおいていてはちょうめいのほうがあぶない、しずかにひきこもってごせのための)
順境に身を置いていては長命のほうが危い、静かに引きこもって後世のための
(ほとけづとめをしてちょうじゅをえたいと、げんじはこうおもって、こうがいのとちをもとめて)
仏勤めをして長寿を得たいと、源氏はこう思って、郊外の土地を求めて
(みどうをたてさせているのであった。ぶつぞう、きょうかんなどもそれとともに)
御堂を建てさせているのであった。仏像、経巻などもそれとともに
(よういさせつつあった。しかしこどもたちをよくきょういくしてりっぱなじんぶつ、)
用意させつつあった。しかし子供たちをよく教育してりっぱな人物、
(すぐれたじょせいにしてみようとおもうせいしんとしゅっけのことはりょうりつしないのであるから、)
すぐれた女性にしてみようと思う精神と出家のことは両立しないのであるから、
(どっちがほんとうのげんじのこころであるかわからない。)
どっちがほんとうの源氏の心であるかわからない。