【洒落怖】紙芝居屋

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洒落怖-006

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問題文

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(いなかのはなしをかく。)

田舎の話を書く。

(ちいさいころすんでたいなかのこうえんに、)

小さい頃住んでた田舎の公園に、

(よくかみしばいやがきていた。)

よく紙芝居屋が来ていた。

(こうれいで、60ぜんごにみえた。)

高齢で、60前後に見えた。

(しょうわのおわりにもなって)

昭和の終わりにもなって

(かみしばいってのもなかなかのはなしだった。)

紙芝居ってのもなかなかの話だった。

(れとろぶーむがくるまえのことで、)

レトロブームが来る前のことで、

(すいきょうなひとがしゅみでやっているのでもないらしかった。)

酔狂なひとが趣味でやっているのでもないらしかった。

(もう、しょうわ30ねんだいからずっとやってます、)

もう、昭和30年代からずっとやってます、

(ってかんじ。)

って感じ。

(きいたわけじゃなくて、)

聞いたわけじゃなくて、

(ずっとかよってたいめーじだけど。)

ずっと通ってたイメージだけど。

(そのじいさんはまいしゅうこうえんにきて、)

そのじいさんは毎週公園にきて、

(ふつうにかみしばいをやっていった。)

ふつうに紙芝居をやっていった。

(しすてむもとうじとおなじ、)

システムも当時と同じ、

(あめをかったらみせてもらえるってやつ。)

飴を買ったら見せてもらえるってやつ。

(じいさんはしごとできているわけだから、)

じいさんは仕事で来ているわけだから、

(かみしばいのあとにじぶんからこどもとあそんだりはしなかったが、)

紙芝居のあとに自分から子供と遊んだりはしなかったが、

(かみしばいになれていないいまのがきたちが)

紙芝居に慣れていない今のガキたちが

(きょうみしんしんにかみしばいのことをしつもんしたりすると、)

興味津々に紙芝居のことを質問したりすると、

など

(いつまででもしゃべってくれた。)

いつまででも喋ってくれた。

(そしてしだいにじぶんのむかしばなしをはじめるんだ。)

そして次第に自分の昔話を始めるんだ。

(としよりのはなしなんてつまらないうえに)

年寄りの話なんてつまらない上に

(まいかいおんなじようなはなしだ。)

毎回おんなじような話だ。

(けどじいさんがしゃべるたびにおなじはなしだから、)

けどじいさんが喋るたびに同じ話だから、

(おれふくめがきどもはそれをよくよくおぼえていた。)

おれ含めガキ共はそれをよくよく覚えていた。

(はなしはだいたいこんなものだ。)

話はだいたいこんなものだ。

(じいさんがわかいころにはてれびがなかった。)

じいさんが若い頃にはテレビがなかった。

(こどもにはかみしばいがあったけど、)

子供には紙芝居があったけど、

(すこしおとなになったやつは、)

少し大人になったやつは、

(しばいをみにいった。)

芝居を見に行った。

(とうきょうのあさくさ(おれのいなかはほっかいどうだ)には)

東京の浅草(おれの田舎は北海道だ)には

(おわらいのしばいがたくさんあって、)

お笑いの芝居がたくさんあって、

(そのなかでもえのけんってひとがにほんいちのにんきだった。)

そのなかでもエノケンってひとが日本一の人気だった。

(じいさんはえのけんがだいすきで、)

じいさんはエノケンが大好きで、

(がっこうをとちゅうでやめて、)

学校を途中でやめて、

(えのけんにでしいりした。)

エノケンに弟子入りした。

(ぶたいにもでた。)

舞台にも出た。

(じいさんはなんじゅうねんかえのけんいちざにいたが、)

じいさんは何十年かエノケン一座にいたが、

(えのけんがしんでしまったので、)

エノケンが死んでしまったので、

(それからずっとかみしばいやをしている。)

それからずっと紙芝居屋をしている。

(じいさんはそれからかならず)

じいさんはそれから必ず

(その「えのけん」のうたをうたった。)

その「エノケン」の歌を歌った。

(「だーんな、)

「だーんな、

(のませてちょうだーいな、)

飲ませてちょうだーいな、

(けちけちしなさーんな、)

けちけちしなさーんな、

(かけつけさんはいー」。)

駆けつけ三杯ー」。

(かけつけさんはいなんてことばのいみは)

駆けつけ三杯なんて言葉の意味は

(もちろんおれらにはわからなかった。)

もちろんおれらにはわからなかった。

(そのうちにおれはひっこしたんだが、)

そのうちにおれは引っ越したんだが、

(すうねんまえ、ようじがあってすうにちかんそのまちにもどったんだ。)

数年前、用事があって数日間その街に戻ったんだ。

(おやのようじだったから、)

親の用事だったから、

(おれはすることがなくて、)

おれはすることがなくて、

(いなかだからみるものもないので、)

田舎だから見るものもないので、

(ぶらぶらさんぽしていた。)

ぶらぶら散歩していた。

(にじゅうねんぶりのいなかだったからなつかしかった。)

二十年ぶりの田舎だったから懐かしかった。

(で、こうえんにいったんだよ。)

で、公園に行ったんだよ。

(そしたらがきんちょがなんにんかいた。)

そしたらガキンチョが何人かいた。

(そのがきんちょが、)

そのガキンチョが、

(あそびながら、うたってるんだ。)

遊びながら、歌ってるんだ。

(だーんな、)

だーんな、

(のませてちょうだーいな、)

飲ませてちょうだーいな、

(けちけちしなさーんな、)

けちけちしなさーんな、

(かけつけさんはいー)

駆けつけ三杯ー

(びっくりした。)

びっくりした。

(まさかじいさんがまだいきていて)

まさかじいさんがまだ生きていて

(かみしばいをつづけているとはおもえなかったが、)

紙芝居を続けているとは思えなかったが、

(あるいはうただけががきどものあいだでつたわったのかもしれない。)

あるいは歌だけがガキ共の間で伝わったのかもしれない。

(きつねにつままれたきもちでいえにかえった。)

狐につままれた気持ちで家に帰った。

(おれはそこではじめて、)

おれはそこではじめて、

(えのけんのことをしらべてみた。)

エノケンのことを調べてみた。

(ゆうめいなひとらしく、)

有名な人らしく、

(すぐでてきた。)

すぐ出てきた。

(そして、きづいた。)

そして、気づいた。

(けいさんがあわない。)

計算があわない。

(しらべると、)

調べると、

(えのけんがあさくさでしばいをしていたのは)

エノケンが浅草で芝居をしていたのは

(せんぜんのことらしかった。)

戦前のことらしかった。

(いつまでやっていたかはわからないが、)

いつまでやっていたかは分からないが、

(じいさんがなんじゅうねんもえのけんのでしをしていたこと。)

じいさんが何十年もエノケンの弟子をしていたこと。

(しらべてみると)

調べてみると

(えのけんがにほんいちだったじきはせんぜんであることをかんがえると、)

エノケンが日本一だった時期は戦前であることを考えると、

(じいさんのげんねんれいは、)

じいさんの現年齢は、

(100~110であるはずだ。)

100~110であるはずだ。

(20ねんまえのじいさんは、)

20年前のじいさんは、

(とても80すぎにはみえなかった。)

とても80過ぎには見えなかった。

(おまけに、いちざをやめたあと、)

おまけに、一座をやめたあと、

(かみしばいやになったというのも、)

紙芝居屋になったというのも、

(よくかんがえたらおかしなはなしだった。)

よく考えたらおかしな話だった。

(えのけんがしんだしょうわ40ねんだい、)

エノケンが死んだ昭和40年代、

(てれびのふきゅうでかみしばいぎょうしゃはほぼぜんいんがはいぎょうしていた。)

テレビの普及で紙芝居業者はほぼ全員が廃業していた。

(かみしばいがなりたったのは)

紙芝居が成り立ったのは

(しょうわ30ねんだいのはじめまでだった。)

昭和30年代のはじめまでだった。

(じいさんにかかわるじかんが、)

じいさんに関わる時間が、

(あちこちで、10ねんずつずれている。)

あちこちで、10年ずつずれている。

(おれがしらべたのはぜんぶねっとだから、)

おれが調べたのは全部ネットだから、

(じったいとはちがうかもしれないが、)

実態とはちがうかもしれないが、

(ぶきみだった。)

不気味だった。

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