χ仏

(さつきおとされたほしはくらくまぶしく)

皐月、堕とされた星は暗く眩しく。

(あやしげなうれいをまとってしずかにさけんでいた)

妖しげな愁いを纏って、静かに叫んでいた。

(ふかすぎるそのくろいろはひとつのひかりもなく)

深すぎるその黒色は、一つの光も無く。

(あまりにもうつくしかった)

あまりにも、美しかった。

(そこしれぬきょうふさえも)

底知れぬ、恐怖さえも。

(あこがれがどうきだった)

憧れが、動機だった。

(なもなきかいぶつは)

名も無き怪物は、

(くらやみのなかでうたをうたっていた)

暗闇の中で歌を歌っていた。

(みじゅくなせんりつを)

未熟な旋律を、

(みんなわらっていたんだ)

みんな嗤っていたんだ。

(ちいさきかいぶつはないていた)

小さき怪物は、泣いていた。

(なきながらもうたってくれていた)

泣きながらも、歌ってくれていた。

(ないたりゆうがわからず)

泣いた理由が分からず、

(みんなわらっていたんだ)

みんな嗤っていたんだ。

(かんなづきすてられたほしはくらさをまして)

神無月、捨てられた星は暗さを増して。

(かなしげなおとをたどってしずかにいのっていた)

哀しげな音を辿って、静かに祈っていた。

(たびかさなるもつれのすえともしびもうしなわれた)

度重なる縺れの末、灯火も失われた。

(ひにくにもうつくしかった)

皮肉にも、美しかった。

(あさすぎるきょうきさえも)

浅すぎる、狂気さえも。

(くいものになるだけだった)

食い物に、なるだけだった。

(おおきくなったかいぶつは)

大きくなった怪物は、

(くらやみでせかいをつつみこんだ)

暗闇で世界を包み込んだ。

(にくしみがつのるほど)

憎しみが募る程、

(さらにおおきくなる)

更に大きくなる。

(こころをなくしたかいぶつを)

心を亡くした怪物を、

(みんなこわがってにげていったんだ)

みんな怖がって逃げていったんだ。

(ほんとうはさみしかったのでしょう)

本当は、寂しかったのでしょう？

(だきしめてあげたかったんだ)

抱きしめてあげたかったんだ。

(いまとなっては)

今となっては、

(おそいけど)

遅いけど。

(おとされたほしのもじにきづけない)

堕とされた星の、文字に気づけない。

(さげすんだあとのひとりのじかんは)

蔑んだ後の独りの時間は、

(むなしいとおもうけど)

空しいと思うけど。

(どうやってももどせないよ)

どうやっても、戻せないよ。

(ありがとうさようなら)

ありがとう、さようなら。

(おおきくなったかいぶつは)

大きくなった怪物は、

(くらやみでせかいをつつみこんだ)

暗闇で世界を包み込んだ。

(きれいなせんりつを)

綺麗な旋律を、

(みんなわらっていたんだ)

みんな笑っていたんだ。

(おおきくなったかいぶつは)

大きくなった怪物は、

(くらやみのなかでかがやいていた)

暗闇の中で輝いていた、

(あまりにもうつくしかった)

あまりにも、美しかった。

(かいぶつはわらっていた)

怪物は、笑っていた。

(さつきおとされてから)

皐月、堕とされてから。

(どれほどのであいとわかれがあったか)

どれ程の、出会いと別れがあったか。

(むねがくるしくなるのも)

胸が苦しくなるのも、

(よろこびをしれたのも)

喜びを知れたのも、

(すべてあなたのせいです)

全て貴方の所為です。